プロローグ
作者始めての作品です。
まだまだ稚拙な作品ですが、温かい目で見ていただけると幸いです。
誤字などミスがあれば連絡下さい。
「…ぅ…うぅぅん」
男は僅かに声帯を震わせながら、閉じている目をゆっくりと開く。
「どこだここは?」
眼前に広がるのは何もないただただ白い空間。立ち上がり、辺りを見渡しても延々と白が続いているだけである。穢れを知らないその空間は何故か一種の神秘性を秘めているように思えた。
(全くどうなってんだよこりゃ。物もなけりゃ人もいねぇ。そもそも何で俺はこんな所にいる?夢かと思ってさっき思いっきりつねったが痛みで涙が出てきたし…。夢じゃあねぇよなぁ…。)
と、一通り辺りを観察(何もないのだが)し終えた時、後ろから声がした。
「お主が森崎悠斗か?」
不意にかけられたその声は一般的な女性の声よりも高いものであり、幾分か幼さの残るような声であった。
男は振り返ってその声の主を探す。
すると、そこには先程までいなかった少女が腕を組んで仁王立ちし、その小さい体を少しでも大きく見せるように身体をそらせていた。
年は12歳ごろだろうか?まだまだ色んな所が発展途上である。髪は金髪、目は赤色、服は近所のファッションセンターで買ったような至ってスタンダートな服を着ていた。
(うーん。こいつどこから出てきた?少なくともさっき俺が確認した限りでは人なんてどこにも居なかったが…。というか何で俺の名前を知っている?…怪しすぎだろ。だがこの状況で疑心暗鬼になってたらそれこそ何の解決にもならないな…。)
「あぁ、そうだ。俺が森崎悠斗だ。絶賛迷子中の38歳おっさんだよ。お前さんも迷子か?心細いならおっさんが手を繋いであげるけど…?」
「ま、ま、迷子ちゃうわぁ!!そもそもここは私の治める空間であって、ここにお主を呼びたしたのも妾なのじゃぞ!!誰がそんなおっさんの手なんぞ握るかー!!」
少女は顔を真っ赤にし、地団駄を踏みながらそう怒鳴る。
「くくく、悪い悪い、冗談だよ。それより何か知ってるなら色々説明して欲しいんだが…。」
「ふん!!神たる私に冗談とは肝の座った男じゃ。まぁ、今回は私の海よりも空よりも、宇宙よりも広い心に免じて許してやらんこともない。ハッハッハッハッ!!」
(なんだこいつ。調子良いやつだなぁ。てか神様なのかよ!!どこからどう見てもただのちんまい女の子じゃねぇか!!)
「…あのぉ、神様神様…そろそろ説明してくれませんかねぇ?」
「むむ、そうであったな。んー、どこから説明したものか…。えーと、とりあえずお主が死んだところから説明s」
「ちょっとちょっとおおお!!俺死んじゃったのぉ!?何で?まだ38歳だよ!!ピチピチではないけどまだ死ぬような年じゃないでしょ!!」
ーズキーー
その時、急に頭に痛みが走った。
「痛っっ…。ぐっっ。」
頭痛は一過性のものですぐに収まった。
そしてそれと同時に死ぬ直前のの記憶がポツポツと蘇ってきた。
「そうだ、俺は会社からの帰り道歩いてたら急に目眩がして倒れちまったんだ。そして…そこからの記憶は無いな。」
「そうじゃ。そしてズバリお主の死因は過労死じゃな。」
「うわぁ…。マジかよ…。まあ、ブラックな会社の中間管理職なんてやってたからなぁ。ここ数年まともに休んだことなんて無かったか…。」
この森崎悠斗という男、容量がよく、真面目な男であり、学生時代は特に失敗することなく順当に有名大学を卒業するに至った。
しかし、就職に失敗したのである。
(あぁ、なんであんな会社に就職しちまったんだろうな…。超後悔なうってさえずりたいよ。)
「それでじゃな、そんなお主を可哀想と思った妾がお主を地球ではない別の世界に転生させてやろうと思った訳じゃ。」
急な神様からの申し出に悠斗は混乱する。
しかし流石は中間管理職、情報の処理は人一倍速い。
すかさず悠斗は今の神様の発言で疑問に思ったことを質問する。
「地球じゃない別の世界ってどんな所なんだ?」
「うむ、そうじゃな…。地球の言葉で言う所の剣と魔法のファンタジーと言う感じじゃな。世界には魔獣という害獣がいて、それに対抗するべくヒトは剣を持ち魔法を学ぶ。まぁゲームみたいな世界と考えてもらえばいい。」
悠斗は学生時代にそういった類のゲームはやったことがあったので大体の検討はついた。
「なるほどね、じゃあ転生ってのは具体的にどうなることなんだ?」
「地球で過ごした記憶をそのままに、もう一度その世界で赤ちゃんからやり直す、というのが簡単な説明じゃろう。」
「オーケー、理解してきた。じゃあ俺がもしその転生を断ったらどうなるんだ?」
神様は少し眉をひそめる。
「お主断る気か?」
「当たり前だろ?そんな危ない世界にどうして好き好んで行かなきゃならないんだよ?できれば地球のように平和に暮らして行きたいぜ。」
その言葉を聞き、神様は手足をバタバタし急に慌てふためく。
「ま、ま、待つのじゃ。悠斗よ、今一度考え直すのじゃ。剣を振って敵を倒していけるのじゃぞ?魔法で地球ではできなかったことがたくさんできるようになるのじゃぞ?男ならそのようなことを夢見たことは一度や二度じゃないはず。どうじゃ?行きたくなってきたじゃろう?お?」
神様はまくしたてるように次々と言葉を発する。
(この反応怪しすぎる…。俺をどうあっても転生させたいように聞こえるな。可哀想だったから、とかそんな気まぐれみたいな理由では決して無い。何だ、こいつは何を考えてる?)
悠斗は訝しような視線でじっと神様を見る。
「そ、そうじゃ!!チートもやろう!!お主にピッタリなお主だけのチートを!!どうじゃすごいじゃろう?無双しほうだいだぞ?んー?だんだん転生したくなってきたようじゃの?んー?」
(…ますます怪しくなっちゃったよー。そんな美味しい条件つけてまで俺のこと転生させたいの?…とりあえずさっきの質問にきちんと答えてもらおうか。)
「それで転生を断った場合はどうなるんだ?」
神様の顔がだんだん泣きそうになってくる。目元に薄っすら涙を浮かべ、鼻をすすりながら答える。
「ぐすっ、断ったらそのまま地球の輪廻に組み込まれて記憶を全て消去されてまた地球のどこかに生まれるよぉ。それが地球のルールなのよぉ。」
いくら神様とはいえ少女を半泣きにしてしまったことに悠斗の心はいくらか痛んだり痛まなかったりしたが、そんなことは関係ない。せっかくチャンスを貰えるのだからとじっくり考えてから結論を出そうと思い顎に手を当て思考を開始した。
そして数分後ーー
「よし、転生しよう。」
「本当!?」
さっきまで見てられない顔をしていた神様だが、途端に笑顔を浮かべ、キャッキャキャッキャと騒ぎ出す。
(こいつはもうただの少女だな…。)
一通り騒いだ神様は悠斗の少女を慈しむような目を見て顔を赤らめ、落ち着きを取り戻そうと努力する。
「おほん。よし分かった。お主を転生させてあげるのじゃ。して、あれだけ渋っているようじゃったのに何故異世界行きを決めたのか理由を聞いても良いか?」
「いや、最初はそんな危険な所に丸腰で投げ出されると思っていたから渋ってたんだよ。神様がチートくれるって言うしある程度は楽に生きていけると思ってな。あ、もちろんチートはくれるよな?」
「勿論なのじゃ。流石にその世界のパワーバランスがまるっきり崩れてしまうようなものはダメじゃが…。」
「あぁ、それで構わない。楽に生活していけるようなものだったら何でもいいよ。」
「お主が転生する時にチートをつけておくから向こうの世界で確認するが良い。確認の仕方は《ステータス》と言うことじゃ。そうすると自分の能力について色々見ることができるはずじゃ。」
「了解。」
そう言い悠斗はぐっと伸びをしてから腰に手を当て、斜め上を見る。そしてゆっくりと喋り出す。
「まぁぶっちゃけて言うと自分で自分のことを可哀想だと思っているんだよ。ずっと会社に縛られて、ろくに遊びもせず、仕事ばかり。そのせいで38歳なんて年でポクっと死んじゃうし…。
だから今回の転生は俺の久しぶりの休暇にしようと思ったんだよ。チートのおかげでそんなに苦労せずに生活していくことができそうだし。まあ神様の転生の誘い方にはいくらか疑問を感じたが、それを差し引いても俺はまだ生きたいんだ。38歳で人生終えたくなんかないんだよ。
こうやって俺にチャンスをくれた神様には感謝している。…ありがとうございます。」
そう言うと、神様は一瞬罪悪感を感じたような顔をしたがすぐに元の顔に戻った。
「うむ。理由は何であれ転生を決めてくれて良かった。…では早速転生の準備にとりかかる。」
そう言い神様は何かお経のようなものを唱え出した。
すると神様の身体が黄色く輝きだし、それは時間が経つにつれ輝きを増していく。
そして白い空間全てを黄色に染め上げるような勢いで光が放たれた時、同時に悠斗の足元に魔法陣らしき幾何学模様が浮かび上がった。
「ではこれより転生を開始する。……達者でな、悠斗。」
神様からお送りの言葉を貰う。
「ああ、バッチリ休暇を満喫してくるよ。」
その言葉を最後に悠斗はこの白い空間から消えた。
「行ったか…。」
神様は誰に話すわけでもなく独り呟く。
「すまんのじゃ。お前さんの異世界でゆっくりしたいという夢は叶いそうにもないのじゃ。それどころか常人より多忙な日々を過ごすことになるだろう。時には命のかかった危ない橋も渡るかもしれぬ。
だがここで妾はお主の幸せをずっと願っておる。 」
始めて小説を書きましたが、思った以上に時間がかかり驚きました。
他の作者さんのたゆまぬ努力を少しだけ理解できたような気がします。
次から本格的に物語に入っていきます。
できる限り早く更新していきたいと思っています。
これからもよろしくお願いします。