Day1 橘奈津希ver.(プロローグ)
7時45分。
---夕陽丘行き、発車いたします。駆け込み乗車はご遠慮ください。---
いつもの様に駅の構内に車掌のアナウンスが流れる。
橘奈津希もいつもの様にその電車の最後尾、『5車両目』に乗る。電車内は混んでるようすはないが、空いてるとも言い難い。
席に座れる日もあれば座れない日もあるような状態だ。
車内はこれから会社や仕事場に行く人、または学校に向かう学生しかいない。
奈津希はきょろきょろしながら、座れる席が無いとわかるといつもの様に扉の横に背をもたれ掛けた。昨日夜更かしをしたせいで少し瞼が重かった。
---虹之町~。虹之町に到着です。---
車内アナウンスで奈津希は目を覚ます。たったまま目を閉じてしまったようだ。
奈津希は手すりを掴んで体勢を直そうとした。その時である、手すりを掴んだと思った右手は空を掴み、そこの重心をかたむけていた彼女の身体は人形が倒れるかのようにあっけなく地面を目指した。
「大丈夫?!」
倒れたと思った。
そう思って思わず目をつぶっていた。しかし固い床についたような衝撃はない。
倒れこんだその身体は地面に着く前に何か別のもので支えられていた。
はっと気が付き、奈津希は我に返る。そしてすぐに支えてくれているものに目がいった。
自分は見ず知らずの男子高校生の腕に支えられていた。そのことに気付くと咄嗟に姿勢を直して、その男子から離れ髪が乱れるのもきにせず頭を下げて謝った。
「す、しゅいません!!」
そして噛んだ。
転んだことでも気が動転し顔が赤くなっているのに、肝心なところで噛んでさらに顔を上げられなくなってしまった。
「気にしないで。それよりも怪我とかない?大丈夫?」
クスとっと笑った後、そう言って彼は奈津希がいつの間にか落としていたカバンを拾い、渡してくれた。
「あの、ほんとごめんなさい!」
「あ、ほんと気にしないで。ほらまた倒れたら危ないし、そこの席空いてるから座りなよ。」
彼は貧血か何かと勘違いしたのだろう。先ほど空いた席を指さした。
その時初めて彼の顔をみた。そして支えてくれた腕も。部活か何かやっているのだろうか、彼の腕は奈津希一人を軽々持ち上げられそうなくらいたくましかった。
奈津希は案内されるがままに席に座り小さくなった。その後は目的の駅に着くまでちょこんと座っているだけであった。もちろん彼とも言葉は交わしていない。
その長いようで短い間緊張のせいか男性に触れたせいかどきどきが治まらなかった。