ナント攻略作戦開始
1941年4月9日朝7時半、まだ日が登ったばかりのカーン飛行場に、緊急入電がはいる。
「司令、緊急入電です!フージェール攻撃隊がレンヌ飛行場及び、その周辺の敵の攻撃に成功!敵の被害甚大、味方損失なし!奇跡だ!」
報告を聞いて大喜びする通信士達とは逆に、基地司令バウムガルテンは、特段喜ぶ様子を見せず、冷静に状況を分析していた。
「損失ゼロとは驚いたな。敵は何をしてたのか・・・・・・」
「陸軍の工作部隊が敵のレーダー基地を無効していた様です」
「なるほど、流石はオストラント陸軍だな。ところでこちらのレーダーに反応はあるか?」
「今の所は全くありません」
「どうやら本当に奇襲は成功したようだな。ウェールズから飛行機が飛んで来ない所を見ると、奴等も寝耳に水だったのだろう。第二波の攻撃はいつか報告は来てるか?」
「はい。予定通り10分後です。陸軍も進撃を開始した様です」
「わかった。第二波までは無傷で行けそうだな。問題は30分後に行われる第三波か・・・・・・。そろそろウェールズが動き出しそうだな」
バウムガルテンが次々に入って来る報告を聞いている時、滑走路のbf109のコックピットで、ガタガタ震える一人の青年がいた。
「ついに始まった。結局昨日は眠れなかった・・・・・・」
ヨハンは緊張して眠れなかった様だ。
「なんだ、寝なかったのか?昨日寝ろって言ったろ」
「うわ!ファルケンベルク大尉!?」
いつの間にか、コックピット横にファルケンベルクがいた。それに気が付かない程に、ヨハンは緊張しているのだ。
「まぁ、誰でも最初はそうだ。とりあえず今日のお前に出来ることは、僚機のハンスにピッタリくっついて行く事と、ハンスを信じて指示にしっかり従う事だ」
「はい・・・・・・」
「とにかく暫くは敵を落とすとか、余計な事は考えなくていい。ただハンスの指示に従って飛べば良いんだ。そう考えれば少しは楽だろ。それに奴は一度も僚機を失った事がない、安心しろ」
「はい、了解です」
ベテランの励ましが、新人ヨハンの心をほぐした。
「よし、俺も自分の機体の所に戻るとするか」
「はい、ありがとうございました!」
「いいって、いいって・・・・・・あっ、そうだ」
ファルケンベルクは、自分の顎髭を一本引き抜いて、コックピットに投げ入れた。
「それは幸運の髭だ。持ってると落ちないぞ」
そう言うと、ファルケンベルクはヨハンの元から去って行った。
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
(うわ、いらねぇ・・・・・・)
ファルケンベルクの一風変わった贈り物に、困惑するヨハンであったが、そこからはファルケンベルクの優しさを感じる事が出来た。
「ファルケンベルク大尉は頼りなるなぁ。流石はうちの部隊長だ!良く見ると全員に声をかけてるのか。以外に細かい人なんだ」
ファルケンベルクは、自分の部隊員1人1人に声をかけて、皆の緊張を少しでもほぐそうと努めている。この細かさがjg2のパイロット達から、絶大な信頼を寄せられてる理由の一つである。
しかしこの行為は、出撃が近い、と言う事を表してもいた。
ヨハンの初陣が迫って来ている。
『だから髭はいらねぇって言ってるだろ!オッサン!!』
『俺からすればハンスもまだまださ。ありがたく貰っておけ』
「はは・・・・・・皆にあげてるんだこれ・・・・・・」