ブリーフィング
「諸君、ついにこの時が来た!明日より大規模反攻作戦を開始する。よく今まで耐えてくれた」
基地指令のバウムガルテンが、全パイロットを集めてブリーフィングを始めた。久しぶりの攻勢作戦に、パイロット達は真剣に耳をかたむけている。
「今回の目標はウェストラント首都、ナントだ。既に前大戦でパリは我々の者だ。あとはナントさえ落とせばウェストラントの崩壊は免れないものとなるだろう。皇帝陛下もバトル・オブ・ウェールズの敗戦につけ込み、不戦条約を破り、我らを裏切ったウェストラントに無慈悲なる一撃を加えることを望んでおられる」
『そうだ!裏切り者のウェストラントをやっつけろ!』
『皇帝陛下万歳!!』
「静粛に。まだ話の途中だ」
バウムガルテンは、パイロット達の興奮を抑えて、一息ついてから、また話を始めた。
「よし、具体的な内容に入る。まず攻撃機隊について。君たちにはブリーフィングが終了後、すぐにフージェールの基地に飛んでもらう。君たちにはナント攻略の重要拠点、レンヌを攻撃してもらう予定だ。これより君たちは一時的にフージェールのjg6の指揮下に入る事になる。問題を起こすんじゃないぞルーデル」
「私はいつも普通ですよ司令官殿。すこし活発なだけです」
ハンス・ウルフ・ルーデル大尉。StG3(第三急降下爆撃航空団)の隊長で対地攻撃の天才である。因みに軍機違反の常習犯でもある。
「頼むぞルーデル」
バウムガルテンは不安そうに苦笑いした。
「さて、次は戦闘機隊について話す。本作戦において、我々にとって重要なのはウェストラント軍ではない。皆も知っている通り、前大戦、東西戦争に勝利した我々は、ウェストラントの主要な都市の殆どを得る事が出来た。よってウェストラントの工業力は大幅に落ち、もはや我々に単独で抵抗出来る力は残っていない。我々の陸軍、空軍をもってすれば一捻りで潰せるだろう。が、厄介な奴等がいる。そうだ、我々が散々辛酸を舐めさせられてきたウェールズの連中だ」
バウムガルテンは、壁に掛かっている世界地図のウェールズ王国の場所に、ドンとナイフを突き刺した。
「間違いなくウェールズは同盟国ウェストラントを助ける為に、海峡を越えて援軍をだしてくるだろう。しかし、それはあってはならない。作戦に大きな支障をきたすことになる。よって我々、第二戦闘航空団の主任務は、海峡を越えてこようするウェールズ軍機を、海峡上で叩き落とすことだ。全て落としてやれ。ここは我々の空だ!!」
『ウォォォォォォォォ!!!』
バウムガルテンのブリーフィングが終わると同時に、パイロット達の雄叫びが基地全体を飲み込んだ。そしてブリーフィングが終わって、10分もしない内にルーデル達StG3は、ju87スツーカに乗り、フージェールに向かって飛びたった。
一方、戦闘機隊のパイロット達は、自分が所属する大隊の隊長の元に集まりだした。ヨハンは第一大隊なので、第一大隊隊長のファルケンベルクの元に急いだ。
【ここでjg2の編成を説明したい。jg2は第1〜3と、3つの大隊がある。この大隊はさらに3つの中隊に分かれている。
第1大隊は第1中隊、第2中隊、第3中隊。第2大隊は、第4中隊、第5中隊、第6中隊。第3大隊は第7中隊、第8中隊、第9中隊。とこのように編成される。
中隊識別色は、1、4、7が白。2、5、8が赤。3、6、9が黄色である。この色は機体番号に塗られる。
例えば黄色で機体番号が書いてあれば第3、第6、第9のどれかとなり、さらにその横に各大隊の識別マークが書いてあるので、それでその機体がどの大隊でどの中隊かが判別できる。
中隊は12機編成でなっている。そして中隊は4機の小隊が3つで編成されている。
4機編成をシュヴァルムと言う。因みにシュヴァルムは2つのロッテ(二機編隊)からなっており、これが最小単位である。
そしてさらに飛行隊には別に4機の飛行隊本部がつき、1大隊40機。本来ならさらに航空団飛行小隊と言う3つの大隊をまとめる小隊が加わるのだが、jg2は人不足でファルケンベルクが第一大隊隊長と兼任してjg2隊長を務めているのでこれは加わらない。なので合計120機がjg2の全戦力である。
ファルケンベルクが話を始める。
「よし、全員集まった様だな。これより戦闘機隊のブリーフィングを始める。と言っても、やることはいつもと同じだ。第1中隊(白)、第2中隊(赤)、第3中隊(黄)、と三つの中隊に別れて飛ぶ。敵の編隊を見つけたら先ずは第1中隊が爆撃機に突っ込む。第2中隊は第1中隊を追いかける敵護衛戦闘機の相手をしてくれ。第3中隊は上空で待機。新手が来た場合は、第3中隊が突っ込んで時間を稼いでくれ。その間に他の2隊は体勢をたてなおす。みんな理解したか?」
『了解!』
「よし、良い返事だ。次に相手の戦闘機についてだ。これもこれまで幾度となくウェールズの戦闘機と戦って来たお前達には当たり前の事だが、今回は新人も沢山いるので改めて説明する。敵の主力はハリケーンとスピットファイアだ。ハリケーンは優秀な戦闘機ではあるが、我々のbf109-F型を持ってすれば、そこまで恐れる敵ではない。問題はスピットファイアの方だ。スピットファイアは驚異的な旋回性を誇り、速度も我々と同等かそれ以上だ。必要以上に相手の旋回戦に付き合い、ドッグファイトを続けることは、自分の寿命を縮める事だという事を忘れるな。もし、スピットファイアに後ろを取られたら、急降下してマイナスGをかけろ。スピットファイアにはマイナスGをかけるとエンジンが止まる弱点があるからだ」
その後もファルケンベルクによる、新人指導は続いた。新人達も、エースの知識を少しでも多く取り込もうと必至である。
「それでは最後に、もうひとつ新人達にアドバイスだ。とても大事なことだ。それは新人は敵を打つ前に、後ろを確認する事忘れるない様にってことだ。敵を落として、自分も落とされたでは意味がないからな。話しは以上だ。わかったか?」
『了解!』
「よし、良い返事だ」
そう言うと、ファルケンベルクはニッコリと微笑んだ。
「それとハンス、ヨハン。お前達は第2中隊に加われ」
「了解した」
「はい!了解です」
「それじゃ解散だ!みんな明日に備えて寝ろ!酒は俺以外禁止だ!」
『了解!』