落ちない様に頑張れよ
「かえれ!」
「帰りません!」
「チッ、強情なやつだ。俺はお前を助けたりなんかしないって言ってるだろ!」
「帰りません!」
「クソ面倒くさい奴だな。お前は『帰りません』しか言えないのかよ」
「帰りません!」
ハンスとヨハンが言い争いを始めてから、30分が経とうとしていた。
「おい、もうそこまでにしねぇかハンス。年貢の納め時だよ」
ハンガーの奥の方から、顎髭を生やしたガタイの良い、まるでバイキングのような男が出てきた。
「なんだよ、おっさんいたのかよ」
「あぁ、奥にある椅子で寝たんだけどな。お前たちがうるさいから起きちまったよ」
「それはすまなかったな」
「中尉、こちらの方はお知り合いですか?」
「知り合い?お前このおっさん知らないのか?」
「えっ?あっ、はい」
ハンスはため息混じりに説明する。
「いいか?このおっさんが俺たちjg2隊長兼第一大隊隊長で、世界第一位の撃墜数を誇るエースパイロット、ファルケンベルク大尉だ」
「なっ!こ、これは失礼しました!!」
「よせやい、照れるだろ」
ファルケンベルクは20年前の世界大戦のエースパイロットで、今大戦を合わせると302機を撃墜している。これは世界一の記録である。乗機のbf109の機首には金色の鷲が描かれている。
「で、ハンスよ。お前もオストラント軍人なら、いつまでも下らねぇことしてねぇで後進の育成に励め。ラルフの奴は向こうで上手くやってるみたいだぞ?もう二人もエースを産み出してるらしいじゃないか。それにロッテ組まないで一人で飛ばれると俺も指示が出しずらい」
「あぁ~!もうわかったわかった!ちょっとからかっただけじゃないか」
「そうなんですか中尉?」
ヨハンがギロリとハンスを睨む。
「・・・・・・そうだよ」
「がっはっはっ!だそうだ坊主」
「本当ですかね?結構本気の様な気がしましたが・・・・・・」
「まぁ、いいじゃねぇか。とりあえずハンスは一緒に飛んでくれるみたいだぞ」
「そ、そうですね!大体おかしいと思ったんです。着任してすぐに大規模な作戦に従事するなんて」
「ん?何言ってんだ坊主。その話は本当だぞ」
「え?」
ちょうどその時、基地内のスピーカーから放送が流れた。
《本日、司令官から重大な発表がある。全パイロットは午後7時にブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す、全パイロットは午後7時にブリーフィングルームに集合せよ》
「ほらな坊主。落ちない様に頑張れよ!」
「えぇーーーー!?」