ヨハンです!!
1941年、オストラント領カーン飛行場。滑走路横の芝生に一人の男が寝そべっている。
金髪碧眼で少しやせ形のその男の名は、ハンス・フリーデル。撃墜数191機を誇るエースパイロットである。
ハンスは離陸するbf109戦闘機をぼーっと眺めながら、気だるそうにポッケに手を突っ込み、ライターとタバコを取り出した。ここ最近、ウェストラント帝国とウェールズ王国の攻勢が強まっており、オストラントのパイロット達は連日連夜戦闘に駆り出されていた。ハンスがこの様にゆっくり出来る休暇を取れたのは、実に3週間ぶりのことである。
ハンスがタバコに火を着けようとした瞬間、司令塔の方からハンスを呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、ハンス。ハンス中尉はいるかー?」
立派な士官服を着た肉つきのよい白髪の初老の男が、ハンスを探している。彼の名はヨーゼフ・バウムガルテン。ハンスが所属するjg2(第二戦闘航空団)が所属している第二航空艦隊の司令官である。
ハンスは立ち上がり、面倒くさそうに敬礼した。
「はい、ここに居ますよ大佐。休暇中になんの用です?まさかまた休暇取り消しなんて言いませんよね?」
「まあ、そんな邪険にしないでくれハンス。先週は急に休暇を取り消してすまなかった」
苦笑いするバウムガルテンの後ろに、まだあどけなさが抜けてない赤髪の青年が、所在無さそうに突っ立っていた。
が、ハンスは無視することにした。
「で、なんの用です大佐?」
「うむ。今、上層部の方で大規模攻勢の計画が上がっている事を知っているか?」
「ええ、知っています。うちの部隊も随分と新米がふえましたね」
「そうだ。昨年のバトル・オブ・ウェールズで敗戦した我々は大損害を出した。なのでここ最近は守りに徹して、各部隊の物資と人員の補充を急いできたわけだ。大体の部隊はすでに戦力を回復しており、うちの部隊も今日で目標の物資、人員の規定を満たすことができた。近いうちに計画は実行に移されるだろう」
「まあ、戦力が回復したと言っても新兵がほとんどで、期待できる戦果があげられるとは思いませんけどね」
「そこで君達エースの出番だ。おいヨーゼフ軍曹こっちだ」
「はい!」
先ほど無視した青年が、ハンスの前に出てビシッと敬礼した。
「今日からjg2第一大隊に配属されました、ヨハン・アイスマン軍曹であります。ヨーゼフではありません大佐‼」
「あれ?そうだっけ?はっはっは!」
「で、こいつがどうかしたんですか?」
「ああ、今日から君がヨハン軍曹の指導員になるんだ」
「お断りしま・・・・・・」
「断るとは言わせんぞ中尉」
バウムガルテンは強い語気でかえした。
「君の言いたい事はよくわかる。実力のないペーペーの新米が僚機では、自らの生存率を下げることになる。しかし他のベテランパイロットは皆、最低一人は新米の面倒を見てるんだ。ファルケンベルク大尉は四人も面倒を見ているんだぞ。なのに君はもう五回連続で断っている。君だけを特別扱いするわけにはいかない」
「しかし自分はラルフ以外とはロッテ(二機編隊のこと)を組まないと決めたんです。あいつ以外は認めません」
ハンスも強い語気で返し、引く気が無いことを表した。
「確かにラルフ中尉と君のロッテはオストラント、いや世界一のロッテだった。私もそう思う。しかし中尉はもういない。苦戦している別の部隊に引き抜かれた。私も昔は戦闘機乗りだったからよくわかるが、あれほど素晴らしいロッテを経験したら、他の僚機では満足出来ないだろう。一種の麻薬の様な物だな」
「ならなぜ認めてくれないのです」
「先程君が言った通りこの部隊にも新兵が増えて、今や部隊の半分が新兵だ。数の上ではバトル・オブ・ウェールズ前に戻ったが質は遠く及ばずだ。このままでは悪戯に若い命を散らす事になる。そこで君達ベテランパイロットには協力をお願いして、新兵を鍛えてもらい、部隊の質の向上を図っているのだ。言わずともわかるだろうが、これは君達の生存率をあげることにもなる。すなわち君のしている事は戦友の生存率を下げる事に他ならない。君のわがままにばかり付き合ってはいられないのだ」
「・・・・・・わかりました」
ハンスは不服そうな顔をして了承した。
「そうかそうか、わかってくれたか。ヨーゼフ軍曹を第二のラルフ中尉に育てくれよ!では失礼する」
一仕事終えたと言う様な感じで、バウムガルテンは上機嫌で管制塔の方に帰って行った。
それを見ているハンスは徐々にイライラが募ってきた。
「ちっ、休暇が台無しだ。着いてこいヨーゼフ!」
「・・・・・・ヨハンです」