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轟音が響いた。
赤く燃える空の下、燃え上がる軍事施設を一人の男が走っていた。
「誰かッ…誰か助けてくれ!!」
男は血相を変えて、必死に叫んでいる。
だが、彼の叫びに応える者は誰もいない。
それでも男は僅かな“希望”を求めて、炎の中叫ぶ。
―――――その背中を追う“目”に怯えながら。
「頼む、出てきてくれ……俺はまだ死ねないッ!!死にたくないんだ………ぐがぁッッ!」
男の背中を、鋭い“光”が貫く。
そのまま男は倒れ、地面に伏した。
「待ってるんだ……彼女が…故郷で………」
男は血を吐きながら、目の前にある黒い革靴に縋る。
「…あんたも……ぐふ……人間…なら…」
軍服の男の背後は真っ赤に染まり、無数の“弾”が浮かんでいた。
男は血を吐きながら、その顔を絶望に染める。
「………いいえ」
男はそう言って、指を鳴らした。
***
―――――遠くで、誰かが泣いてる気がする。
そんな気がして、隼人はふと空を見上げた。
「……兄ちゃん…?」
幼き日の兄の声に似ていた気がして、小さく呟いてみた。
…なわけねーか。
巨大な木箱を運びながら、ひとりで笑ってみる。
それを、隣で物資を運んでいた金髪――美山翔太郎が笑う。
「任務中に気持ち悪いな、おまえ。なんか面白いことでもあったか?」
「いや、なんでもねえよ。思い出し笑い」
「女か?」
「はぁ!?」
なわけないだろ!!、と思わず大声を出しそうになる。
美山はケラケラと笑いながら、そそくさと物資トラックへと走って行った。
追いかけようにも、この木箱を持って走るのは辛すぎる。
「………ったく…」
――――兄ちゃんが泣くわけないか
そう思いながら、隼人は物資トラックにその大きな木箱を置いた。
隣で美山がキョトンとした顔で俺の顔を見て、
「どうしたんだ?隼人。笑ったりしょんぼりしたり…変な奴」
「ただの思春期だ。気にすんな」
思春期と言えど、こう見えてもう18歳だが。
重い木箱を下ろして一息吐いたところで、監督が大声を張り上げた。
「物資の運び出しは以上だ!!特別班は集合時刻まで待機せよ!!他班は引き続き補給場所へ行くように!」
アカツキ帝国内、第三司令庁本部。
黒を基調としたアカツキ軍規定軍服に身を包んだ男たちが施設内を忙しそうに歩き回っている。
櫻井隼人もまた、その軍服の1人だった。
「にしても、あっちーな……任務とは言えど、こんな真夏に水一杯ももらえねーなんて」
「贅沢言うな、美山。寮に戻れば幾らでも飲めるだろ」
「ってもよぉ…」
滑走路脇の芝生の寝っ転がりながら、美山が呟く。
空には、数機の戦闘機が雲を吐きながらどこかへ飛んでいくのが見える。
それは美山にも見えていたらしく、美山もボーッとその戦闘機が飛んでいくのを見つめていた。
「……あれ、アンクルサムに行くんだろうなー……ほら、今同盟国のシュヴェアトと戦争中だろ?」
「今の時代、あんな戦闘機じゃ敵わないだろ……」
兵器の武装化が主流になった今、もはやどんな戦闘機はただの“捨て駒”だ。
例え、戦闘機が“武装適合者”に1対100で挑んでも、戦闘機は絶対に勝てない。
彼らは、情報を与えればどんなものも再現が可能となる“フェノムマター”という通常は干渉すらできない物質を操り、武器の生成はもちろん、残量と忍耐力さえあればどんな攻撃も防ぐ“絶対防御”を持っている。本気を出せば適合者は一瞬で都市を焼け野原にする力を秘めているのだ。
ただ、問題は“ストレンジコア”とリンクできるかどうか、だ。
ストレンジコアはそれぞれ人間の脳と似た波長を持っており、その波長にあった人間がリンクすれば、
未知の物質・フェノムマターに干渉が可能となる。
しかし、その“ストレンジコア”とリンクできるのは稀で、世界に20人いるかいないか、の人数しかいない。一時期はストレンジコアをフェノムマターで作ろうという試みがされていたが、なぜかフェノムマターでもストレンジコアをそのまま作り出すことができなかった。
その代わりフェノムマターで疑似的なコアを作り、“配下”を作ることができるものもあると発見され、
“~式武装部隊”というような大部隊を作ることができるようになった。
そのため、このアカツキ帝国の志願兵達の多くは戦闘機に乗って捨て駒になるぐらいなら、
その適合者の力を分けてもらい、敵国の“武装適合者”に1つでも傷を負わせられるように、と
自ら戦う“戦士”になることを望むようになった。それが、サーヴァントである。
―――そんな時代だ。
「あれ…武装部隊じゃねえか?」
その場にいた誰かが、滑走路を指さしながら叫んだ。
美山がガバッと起き上がった。そして、その方向を見て、叫んだ。
「ほんとだ!あれ零式部隊だ!!かっけー!」
美山同様、周りにいた同じ特別班の連中も立ち上がって歓喜する。
滑走路の中心にいたのは、丁度移動用大型航空機に乗り込もうとしている、男達だった。
赤と黒を基調にした軍服の襟には、零式部隊の証である“月と右翼”のバッジが輝いていた。
――――零式部隊
この国の憧れであり、英雄的な存在であり、象徴とも言える武装部隊だ。
エース・御風颯を筆頭に、100余りのサーヴァントで編成されている。
現に隼人の所属している20人余りの特別班の大半が、この武装部隊に憧れ、特別班に入った。
もちろん、隼人も同様だ。
「かっけーなー……早く俺も入隊してぇ」
「ばーか!零式部隊は1番難しいんだぜ?簡単に飛べるならみんな飛んでるって」
「でもよぉ!あの憧れの御風さんと一緒に戦えるなんて最高じゃん!」
「あれって増援部隊だろ?御風さんはいねえって」
「増援部隊ってことは、やっぱアンクルサム戦は厳しいのか?」
周りがわいわい騒ぎ出す。
隼人もまた、目を輝かせながら零式部隊を見つめていた。
「(……あれが、零式部隊…)」
もしかしたら、あそこに兄ちゃんがいるかもしれない。
そんな淡い期待を持ちながら、隼人は懸命に“見覚えのありそうな人”を探していた。
ところが
「櫻井、大田、宮原!!集合!!!」
監督の声が、隼人の集中力を中断させる。
「おい隼人!呼ばれたぞ」と美山が隼人の袖を引っ張り、急いで監督の下へ走る。
その場にいた大田、宮原も同様だった。
「全員揃っているな」
「「はいッ!」」
全員綺麗に1列に並んで、声を張る。
それに満足し、監督は懐から1枚の紙を取り出した。
そこには、3人の写真が貼られ、“護衛任務担当”という文字が書かれてた。
「貴様ら3人はこれより特別班から離れ、“護衛任務”について貰う」
「今から、ですか?」
大田が問いかける。
「そうだ。急だが、零式増援部隊がアンクルサムへ出発する前に兵器の運び出しを行いたいとの事だ」
「監督、質問です!」
宮原が声を上げる。
「何の兵器を護送するのでしょうか!」
「それは私も伝えられていない。櫻井、貴様は?」
監督が隼人を見る。
「なぜ、俺達が選ばれたのでしょうか」
それも聞きたかった、と言わんばかりに大田が大きく頷く。
「私は特別班から選抜した3人である、と聞かされている。他は?」
「いえ、ありません!」
隼人は敬礼でそれを返答した。
「では、30分後、第1ゲートに集合!それまでに移動を完了せよ!」
「ハッ」
3人が敬礼すると、監督はそのまま滑走路の方へと歩いて行った。
残った3人はその後ろで拳を上げた。
「やったな櫻井!宮原!選抜だってよ!?」
「ああ!護衛がうまくいけば昇進も有り得るかもしれない!」
「よっしゃああ!!」
大田の声が、空に響いた。
歓喜する3人を、その空は見下ろしていた。
―――――このとき、まだ俺は知らなかった。
これが、長い戦いへ身を投じることになるきっかけになるなんて。
はじめまして、深閑屋と申します。
表現下手で申し訳ない…。まだまだ序盤ですが、頑張って書きます!
よろしくお願いします。
話がまとまってき次第、キャラ紹介などを書こうと思います。