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Pとアヴァロンズ

文章の勉強のために書いてみます。

自分がボカロPなのでボカロPを主題にしてみました。

週1ぐらいで更新できたらなあと思います。

 この世界に飛ばされる前、僕はボカロPをやっていた。


 ボカロPというものをご存知だろうか。


 Pとはプロデューサーの略。歌声合成ソフトであるボーカロイド(ボカロ)を使って作った歌声と、自作のバックトラックをあわせ、楽曲にして投稿するのがボカロPだ。


 僕はピコピコ動画というサイトに投稿していた。ピコは「小さい」を意味する接頭詞だが僕の楽曲はまさにそれで、楽曲を動画化したものの再生数は100〜300の間、平均200といったところだった。


 この数字は、もしかしたら多いように思えるかもしれない。実際駅などで弾き語りしてみることを考えれば多いだろう。しかしピコピコ動画の中では零細で、このサイトには再生数が100万を超える動画が、うなるほどあるのだ。


 僕はピコピコ動画の中では零細に位置するボカロPだ。だが、別に満足していないわけではなかった。


 少ないながらもコメントがつくし、曲の紹介などを介して知り合った友人もいる。それより何より、曲を作ること自体が楽しい。地位や名誉という点ではボカロP活動は僕をビッグにしてくれはしなかったが、趣味の満足感という点では――非常に満足していた。


 そして趣味で満足していたということは、それなりに幸せな人生を送っていたといえる。世界には趣味どころではない人がたくさんいる、という比較論でもそうだし、絶対的、つまり僕の主観でも、僕は幸せだった。大いに満足していたのだ。


 しかしすべては過去形になった。


 あの日僕はアヴァロンズにワープした。



 僕が目覚めると、そこは異世界だった。


 そこが異世界だということを指摘するには、今まで寝ていたベッドルームと、その何もない草原を比べるだけでは十分ではない。その草原が僕の地球の、カリフォルニアあたりの草原である可能性だってあるからだ。


 しかし僕は瞬時に、そこが異世界だということを納得した。何故か?


 空気が違う。


 草と地面の色が違う。


 空が違う、太陽が違う!


 すべてが少しずつ地球とは違っていた。空気は濃いようだったし、地面の色はオレンジがかっている気がしたし、太陽は僕の知っているものより黄色かった。


 もしかしたら重力さえも違っていたかもしれない。立っていることに違和感を感じたから。


 とにかく僕は寝間着のジャージ姿のまま立ち尽くしていた。そうするより他になかった。


 僕はただ驚いていた。


 僕がただ驚いていると、同じくらい驚いた顔で、太った男が走ってきた。


 ここは自分の土地だと主張しているらしい。


「◯△▽……」


 言葉がわからない!


 これはかなりのショックだった。僕は日本語話者で、英語教育を6年受けていたが、太った男が話したのはどちらの言語とも異質だった。


 僕は海外に出たことはないが、言葉の通じない国で迷子になった人の気持ちを今こそ理解できると思った。


 いつまでも呆然としててもしかたないので、僕はコミュニケーションを試みた。


「言葉、分からない、OK?」


「おお、☓☓☓!」


 なんか通じたっぽい! 僕の態度と身振りから、彼は僕が言葉を解しないことを見ぬいたようだった。


「▽、◯◯◯、アヴァロン!」


 かなりのクセがある(向こうから見れば僕の言葉こそクセがあるのだろうが)彼の発音の中で、アヴァロンという単語だけが聞き取れた。


 そして太った男はいったん下がり、馬に乗って帰ってきた。


 あろうことか、後ろを指さしている。僕に馬に乗れといっているらしい。インドア派の僕は馬には乗ったことがないのだが。


 乗ってみた。


 すぐに後悔した。



 宮殿が見えてきたころには僕の疲労はマックスになっていた。


 馬が揺れるたびに全身でバランスを取る、その疲れもあったが、もっと単純にお尻が痛かった。


 お尻が痛すぎて、宮殿が見えることにもしばらく気づかないでいたぐらいだったが、男が馬を停め、入り口に向かって歩き出したあたりでさすがに僕も自分が宮殿に連れて行かれるんだと気づいた。


 おっかなびっくりで馬を降り、男のあとに従う。見上げると、宮殿は他を圧倒するほどの大きく壮麗な建物だった。


 よほどの権力者が住まうのだろう。そいつに僕はお目通しされるのだ。


 そう覚悟していた僕は、出迎えたのが一人の美しい少女だったので困惑した。


「vvv、◯☓☓△、◯◯」


 相変わらず言葉はわからなかったが、態度から少女がかなりの身分――太った男と比較にならないほどの――だというのがわかった。太った男はあきらかにへりくだっていた。


「◯◯、☓☓☓☓、アヴァロン」


「vvv、アヴァロン、△△△」


 男と少女の会話はしばらく続いた。僕は疲労と混乱で朦朧としていたが、じっとしていた。ここでの会話の行方次第で、自分が今後どう扱われるかが決まると思うと、そうせざるを得なかった。


 が、


 驚きのあまり僕は一歩を踏み出した。あれは、玉座らしき椅子に飾られたあれは。


 マーソンのD-45じゃないか!


 突然型番を書かれても詳細がわからないと思うのであわてて付け足すが、マーソン社はアコースティック・ギターの老舗で、D-45はそこのかつてのフラッグシップモデルだった。


 そう、かつての。


 今はとっくに生産終了になっているはずなのだ。


 それがなぜここに……。


 僕の頭に様々な疑問が渦巻いたが、身体は正直だった。


 僕の身体はそれを弾いてみたくて、たまらなくなったらしい。


 僕は駈け出した。少女があっと驚くのがわかった。


 僕は玉座に座り、ギターを手にチューニングを始めた。


 わずかに4弦が上ずっているほかは、ほとんど狂っていない。手入れがなされているのだろう。


 少女の静止をよそに、僕は弾き始めた。


 最初はEのオープン・コードをじゃらんと。


 そしてGのアルペジオに乗せて、僕は歌を歌った。


 「Alone」。つい先週、僕がピコピコ動画に投稿した曲だ。


 Aloneとは孤独の意味。今の僕にピッタリの歌詞だった。


 少女も太った男も静止するのをやめ、僕の演奏と歌を聞いていた。


 すると、


 突然天井から光が差し、厳かな声が何ごとかを囁いた。


 その言葉は当時の僕にはわからなかったが、今はわかる。「v△◯」つまり「汝を寿ことほぐ」という意味だ。


 僕がアヴァロン神に気に入られた瞬間だった。

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