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私、勇者になります!!  作者: るる子
一章 私が勇者となるまで
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旅立ちは計画的に!9 どうしてこんなことに

「ベル!待ってたのよ!お帰りなさい」

「ねぇっ、むふー!!」


 帰ってそうそう、一番上の姉様に抱きしめられて窒息しそうになった。

 えぇ、どうせ私にはこんな胸ありませんよ。むしろ動きやすくて便利ですがね!

 …くっ、同じ姉妹なのに、この胸格差…理不尽すぎる。

 フェルトリーリエの華と謳われるシャーナ姉様は、アルフ兄様と同じく母様譲りのピンクゴールドの長い髪に、翠玉の瞳をしていた。

 どこか憂いを帯びたような表情に、豊かな巻き毛と凹凸のはっきりとしたその身体は、妹の私でさえ思わずドキリとしてしまう程。


「シャーナ姉様、ベル姉様が死にそうだよ!」

「あら、やだ私としたことが。ごめんなさい、ベル。大丈夫かしら?」

「うん、なんとか今回も大丈夫」


 きっと、シャーナ姉様を慕う会とかのメンバーの男子なら、『シャーナ様の胸で死ねるなんて!』とか喜んで言いそうだけど、生憎私にはそんな性癖も何もないですからね!

 むしろ、毎度姉様に抱きしめられて窒息しそうになる度、下手に抵抗して姉様を傷つけてしまわないかと冷や冷やしていた。

 …というか、あれ?今、私…。

 甘い甘い姉様の香りに、ふと自分の格好を思い出す。


「ああああああ!!!私、汗臭くて!汚れたままで!」

「あら、そんなの気にしないわよ」

「気にするの!私が!すっごく」


 容姿はいまさらどうにもならないのだから、せめて身だしなみはいつもきちんとしていたい。

 ましてや、汗臭さとか泥とかとは無縁なシャーナ姉様や、ユーベの前ではなおさらだ。


「僕も気にしない、って言ってるのに」

「とにかく!私、お風呂入ってくる」

「あ、ちょっと待って」

「シャーナ姉様、お風呂から出たら聞くから!」


 私は、これ以上引き留められないように、と急いで自室へ走った。

 ああ、あの時シャーナ姉様の話をちゃんと聞いておけばよかった、と思ったのはお風呂を出てすぐのこと。




「ええっと、つかぬ事をお聞きしますが、どうしてルイ様が私の部屋に?」

「君に会いたかったから、では駄目かな?」


 そんな可愛らしく小首を傾げたって無駄ですからね。ときめくどころかゾッとしかしませんからね!

 汚れを全て洗い流し、さっぱりとした気分でお風呂から出て部屋に戻れば、そこにはありえない人物がいた。

 いやいや嘘でしょう、と1回扉を閉め、ちらりと開けてみては再び閉め、それを繰り返すこと3回。

 どうしたの?と元凶であるルイ様に言われ、仕方なく絶望にも似た気持ちで部屋へと入った。


「あの、今日既にお会いしたような気がしたのですが」

「僕は何度でも君に会いたいと思うよ。できればそう、おはようからおやすみまで、常に君とともにありたいと思ってる」


 朝起きて1番に寝起きのルイ様、昼は昼で光を浴びて輝くルイ様、夜は月明かりの…。

 ヒィっ!!無理、無理無理。

 そりゃ規格外の美形様はいいですよ?どうせいつ見られたって問題ないんでしょ?

 でも、平凡十人並みな私は、1日中いつ見られてもいい!なんてことはある訳ない。


「いや、あの、すっごく困ります」

「どうして?」


 思わず、普段頑張って言わないようにしている本音がするりと零れ落ちた。

 途端に、ルイ様が責めるように一歩こちらへと踏み込んでくる。

 もちろん、私も一歩下がる。

 どうして?と言われても、それは、私たちの間に愛が無いから。

 愛があれば、きっと何もかも関係なく幸せなのだろう。

 容姿なんて気にならないに違いない。

 だってお互いが1番魅力的なのだから。

 私の両親がそうだ。

 花の妖精に喩えられる絶世の美女と、私によく似た平凡十人並み顏の父。

母様が父様にメロメロなのは置いておくとして、父様も口ではなんだかんだいいつつ、母様しか目に入っていない。

 だが、勇者になる、と決めた今はともかく、私たちは結婚したら仮面夫婦になっていたはずだ。

 だから、考えずにはいられない。

 子供さえできたら私は用済みで、そもそも、その子供だってどんな子供が出来るかわからない。

 魔力も無い、容姿だって優れている訳じゃない。

 子供がもしも私に似てしまったら。

 …特に、魔力が何においても第一のこの国で、私の他にこんな思いを味あわせることになるなんて!

 それに、その子をルイ様は愛してくれるのだろうか?

 国のためには、幸せな夫婦を演じなければならないのかもしれない。

 けれど、私には簡単に気持ちを割り切ることなんかできない。


「ねぇ、リア…君は」


 伸ばされたルイ様の手が、私のまだ濡れた髪を掬い上げる。

 ななな、何!?なんですか!

 ビクリ、と肩が震えれば、ルイ様がジッとこちらを覗き込むように見つめてくる。

 こんな顔、見たことない。

 ルイ様の形のいい、薄桃の唇がゆっくりと開く。

 妙な緊張感に、背筋がゾクリとする。

 それと同時に、私の部屋の扉が壊れそうな勢いで開いた。


「ベルっ!!まだ、まだ何もされてないよ…なぁああああああ!?離れろ!今すぐ俺の妹から離れろぉおおお!!」

「あ、アルフ兄様!?」


 どうしたのか、錯乱した様子のアルフ兄様の後ろには、困ったように微笑むシャーナ姉様。

 その隣には、青い顔をしたユーベがいた。


「やあ、アルフ。もう帰ってきたの?」

「えぇ、あなたに押し付けられた書類を無理やり終わらせてきましたよ。嫌な予感がしたもので」


 ニッコリ、と満面の笑みを浮かべたアルフ兄様がルイ様と私の間に無理やり入り混んできた。

 正直、すっごく助かった。

 さっきまでは、その、今までとは違う、知らないルイ様だった気がする。

 …少し、怖かった。

 思わず、アルフ兄様の服を握れば、ルイ様の困ったような顔が見えた。


「せっかくシャーナに頼んでアルフには黙っていてもらったのに。けれど、赤い糸同士が同じ部屋にいることは別に問題ないだろう?」

「いいえ!我が家においては問題大ありです。俺の目が黒いうちは…いや、せめて結婚するまでは、ベルに指一本触れさせませんからね」


 …未婚、既婚問わず、平民貴族も関係なしに、数多の女性を泣かせてきたくせに何言ってるんだ、とこの場にいる誰もが思ったに違いない。


「…アルフ兄様、あのお言葉だけど、ルイ様は私に手なんか出す訳ないと思う」


 うん、そこははっきりさせておかないと。お互いの名誉のためにも。

 ―そう、思ったのに。


「リア、君は何を勘違いしているのか知らないけれど」


 まるで心外だ、とでも言いたげなルイ様の顔。

 え、どういうことですか、と周りを見渡せば、同じように驚いた顔のアルフ兄様やシャーナ姉様、それにユーベ。

 心臓がドクリとする。

 それは、甘い疼きなんかじゃない。

 恐怖だ。得体のしれない恐怖。

 嫌だ。やめて!!聞きたくなんかない!


「好きだよ、リア。僕は、君を愛してるんだ」


 耳をふさいでいても、その声はなぜだかはっきりと、届いてしまった。

こんな終わり方ですが、ちゃんと旅立ちます。あと完結ではないです、続きます。

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