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私、勇者になります!!  作者: るる子
一章 私が勇者となるまで
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旅立ちは計画的に!8 決意しました

「ヴァ、ヴァレント教官っ!!それって、どういうことなんですか!?詳しくお願いします!」


 それはもう、すがるような勢いでヴァレント教官の腕をつかむ。

 この呪われた運命におさらばすることができる?!

 いきなり、クワッと目を見開き、常に無い様子で話しに食いついた私に、若干後ずさりながらもヴァレント教官は、ああ、と話を続ける。


「あー…勇者の話か?」

「そう!それです!」

「勇者、ねぇ。ルチル教会で、登録すると魔王を倒す勇者に誰でもなれるんだが、勇者っていうのは世界共通利益だからな。元の身分やしがらみ関係なく、魔王を倒すこと第一に行動できるんだ。この国じゃ、影響とか感じねぇが、今世界的に見て魔王軍の行動が活発になってやがる。俺の教え子も、何人か勇者登録した奴らがいてな…」


 初めて聞く話だった。

 私にとっては『運命の赤い糸』というのは絶対的で。

 どうあがいても逃げられない、そう思って諦めていた。

 まるで頭を鈍器で激しく殴られたような、まさにそんな衝撃だった。


「もし、私が…勇者だったら…」

「ん?なんか言ったか?さて、おーい、お前ら!今日の授業はこれで終わりだ。ロッテ、カミュ、勝ち抜け出来なかった罰として後片付けしておけ」


 小さく、震えるような声で呟いた独り言はどうやらヴァレント教官には聞こえなかったらしい。

 心臓が激しく高鳴る。


「マリアベル、聞こえただろ?俺たち片付けあるから、先帰ってくれ」

「あーあ、2人で片付けとか、ヴァレント教官鬼畜すぎる」

「あ、私も手伝いますよ…!」

「マリアベル、お前って奴は…!ありがとな」

「ありがとう、マリアベル。この馬鹿と一緒じゃ日が暮れても終わらなかったよ」


 ぐったりとした様子のロッテさんとカミュさんとともに、鍛練場の後片付けをしながら、私の頭の中はどうやって計画を成功させようかと、そのことで一杯だった。

 タイムリミットは一ヶ月。それまでに、私はこの国を出て、勇者になる。


(魔王を倒せば、民のためにもなるし、貴族の責務はばっちりだよね)


 ただ逃げ出すのでは、貴族の責務が問題となってしまう。

 民の血税で生かされているこの身だ。日頃平民出身の父に言われているのもあり、そんな無責任なことは到底できなかった。

 けれども、勇者となれば、民のために尽くす事が出来る。

 王妃としては明らかに問題がありまくる私にしてみれば、王妃になるよりもずっといいことのような気がしてきた。

 まあ、子供問題はあるが…白薔薇聖乙女の会がいれば問題無いような気がする。


(今の白薔薇聖乙女の会の会員数は300人。それだけいれば、1人くらい子供が出来るんじゃないだろうか)


 ふと、美人な令嬢たちに取り囲まれたルイ様を想像してみる。

 ルイ様が、優しく、隣に侍る令嬢の頬を撫でて、ふんわりと微笑んで…。

 そこまで想像した途端、何かがもやもやとする。


(…って、なんなの!ルイ様が誰とどうしようと問題ない、っていうかむしろこちらとしては大歓迎でしょ!?)


 私はルイ様が好きな訳ではないのだから。ルイ様はあくまでも、私に不釣り合いな、無理やり選ばれた許嫁様なのだ。

 向こうだって、仕方なしに優しくしてくれているだけで、本音じゃ私なんかごめんだ、と思っているに違いない。


(だって、そうじゃなきゃ…なんであの時…)


 忘れたい、苦い記憶が蘇りそうになる。

 あの苦さは大っ嫌いだ。

 あの時、私は悟ったはずだ。自分に誓ったじゃないか。


(ルイ様の優しさなんて大っ嫌い)


 何としてもこの計画は絶対に成功させなければならない。

 決意を新たに、私は強く愛剣を握りしめた。 




「いたいた、姉さん。探したんだよ」


 ロッテさんやカミュさんと鍛練場の片付けをなんとか終わらせ、汚れを更衣室に備え付けられている風呂場で洗い流そうとしたものの、お湯の出る魔道具に魔力を与えてくれる適当な人が見つからず、仕方なしに更衣室を出た直後だった。

 長子のアルフによく似た、しかし、まだまだ幼さの残る甘い顔立ちをした美少年―つまりは、私の弟がそこにいた。

 少し長めの肩にかかる艶やかな髪も、長い睫も、淡い金色で、瞳は森の緑。

 まるで人形かと思わせるような美しい容姿もさることながら、今学院にいる魔法科生徒の中では圧倒的に1番の優秀な成績。

 うん、いつも思うんだけど本当に私の弟なんだろうか。


「ユーベ、何か用?」

「うん、姉様と一緒に帰ろうと思って」


 そんな当然だよ!という風に言われましても。

 帰りの時間は合わないことが多いし、何より私は…チラリと、ユーベの手に握られた箒を見る。

 転移魔法よりは少ないとはいえ、それなりに魔力を使い、特に繊細な技術が必要とされる箒に乗れるのは限られた魔女・魔法使いだ。

 箒を使えば空を飛んで、あっという間に移動することが出来るが、魔道具クラッシャーの私には一生無縁の乗り物だ。


「ユーベ、いつも言ってるけど、私は1人で帰るから平気だよ?だから、先に箒で帰りなよ」


 我が家からこの王立魔道学院までは、ゆっくり歩いても30分かからない。

 他の令嬢はどうか知らないが、魔剣士科で鍛えている分歩く体力は余裕であるし、下手な暴漢が来ても抵抗することができる。

 あれ、私本当令嬢ってくくりに入ってていいんだろうか…。

 だが、兄姉たちと、ルイ様の根強い反対により、普段学院への行き帰りは不本意ながら馬車を使用していた。


「な、なななな何言ってるの姉様!こんな愛くるしい姉様が1人で呑気に馬車に乗ってたら誘拐されちゃうよ」

「いや、誘拐犯に返り討ちで怪我させないかの方が私は心配ですが」

「姉様!そんなか細い腕して馬鹿なこと言わないでよ」

「いやいや、ユーベ、君は大剣振り回してる私の姿とか何度も見てるでしょ?」

「魔法を使われたりしたら…」

「魔法は効かないってわかってるでしょ?魔法は相手にも魔力がないと効果を発しないもの」

「で、でも!」

「…今汗臭いし、汚いし、キラキラ族のユーベの傍にいれません」


 あの、筋肉男子集団の中に飛び込んだときに感じるムワッとした、酸っぱいような何とも言えない臭い。

 それと同じ臭いが間違いなく私からもしている。

 ふんわりと、花の香りがする我が弟には死んでも近づくことができない。

ましてや密室の馬車に2人で乗るなんて…!


「意味が解らないよ!」

「そこは解って」


 そうして、ああでもない、こうでもない、と激しい攻防戦の結果、結局私が折れて、ユーベと一緒に馬車に乗って帰ることになるのだった。


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