旅立ちは計画的に!7 希望の光
なんというか世界観の説明が上手くできないうえに、説明調が多くなってしまい…!精進したいです。
「おい、マリアベル。お前、今日なんか元気なくね?」
「っ、うう、ロッタさん…!聞いてくださいよぉおお」
「本当だ。マリアベル、また何かやらかしたの?」
「またってなんですかカミュさん…!」
薬草学の授業もなんとか終わり、学院の制服を脱ぎ捨てて魔剣士用の服を着て、この鍛練場へとやってきたのはつい先ほどのこと。
それなのに、途端に魔剣士科の皆さんが、どうした?と口々に聞いてくれる。
もう、本当涙が出そう。
王立中央魔道学院には、魔法科、薬師科、そして魔剣士科がある。
私が学院で強制的に入れられているのは魔法科。魔力の保有量が高く、扱いに優れたいわゆるエリートが通うとされるクラスで、魔剣士科というのは、魔力が足りない、魔力の扱いが上手くない、などなどの理由により、魔法と剣をともに使う、魔剣士と呼ばれる軍人を養成するためのクラスだ。薬師科は、研究を第一としており、機密保持のためだとかで外部との交流もなく、謎が多い。
一応は魔法科の私が何故魔剣士科にいるのかというと、それは、私が魔力が無いが故の問題をよく起こすせいだった。
魔力が無いせいなのか、魔道具に触れると壊してしまうのだ。加えて、生まれつきの怪力。気を付けてはいたものの、魔道具の破壊が絶えなかった。
そんな中、魔力を使わない剣なら壊すこともないし、丁度いいんじゃないかと、半ば追い出されるように魔剣士科に派遣されたのが6年前。私が10歳の頃だ。
それからというもの、日々必修の授業がある時以外は、魔剣士科の皆と一緒に過ごしている。
私はこの魔剣士科が大好きだった。魔法が使えなくても馬鹿にされないし、皆さっぱりとした明るい性格をしている。
皆で剣を一心に振るっている時が、何よりも楽しい時間だった。
「実はですね、薬草学の授業でありえない失敗をしてしまいまして…」
「あー…あんま気にすんな」
「そうだよ!前、ロッタなんてめんどくさいとかいって薬草全部を一気に鍋に入れちゃったことあるし、それよりましでしょ?」
「カミュ!お前、マリアベルには言うなって…!あー、あー、その、なんだ、あんまくよくよすんな。次頑張ればいいじゃねーか」
ほんのりと耳を赤く染めながら、ロッタさんがそう言って、頭をポンポン、と撫でてくれる。
ロッタさんとカミュさんは私の1学年上で、11年生だ。
王立魔道学院では、1年生から12年生までが在籍しており、この魔剣士科では、剣の実習の時は基本的に9年生から12年生は一緒に訓練をしている。
この2人とは、今でこそ軽口が言い合えるほどの仲だが、当初は『あの魔法科様が魔剣士科を冷やかしにきた』と、冷たい態度をとられていた。
2人だけではない。魔剣士科の皆がそうだった。
けれど、ともに練習し、手合わせをしているうちに、いつからかかけがえのない仲間となり、今では…非常に、非常に不本意だが、破壊神とか、不敗の鬼とか呼ばれている。
いや、いいんですよ?好きなように呼んでくださって!
でもね、許嫁様との落差が酷くないですか。
まあ、それを言うと、皆が皆微妙な顔するのはわかっているんだけれど。
間違っても破壊神、なんて顔じゃないもんね、奴は。
ちなみに、ロッタさんは、灰色の短い髪と、黄色の釣り目を持ち、驚くほど背が高い。カミュさんは、薄茶のウェーブがかった髪と、同じく薄茶の優しい瞳を持つ、柔和な印象の持ち主だった。
あと、2人とも普段から剣を奮っているだけあって、あの貧弱もやし系な魔法科とは比べものにならないほど、素敵な筋肉を持っている。
「そうですね!次!次です!過去は振り返りません」
「おー!その意気だ!」
「さて、と。ほら、二人とも。ヴァレント教官がこっちを見てるから、早く行くよ」
それは不味い。ヴァレント教官は怒らせるとものすごく怖い。
問答無用で素振り300回とか。一度、朝までランニングとかいうのを出されて涙目の先輩を見た。
今日はただでさえ、薬草学で反省文出されてるし、その上、というのは絶対に避けたい。
3人で慌てて、ヴァレント教官の元へと走った。
鈍色に輝く愛剣を手に握りしめ、深く息を吸い込む。そうして、目の前にある巨大な岩に向かって降り下ろせば、鈍い音とともに巨大な岩は粉々に砕け散っていた。
周りからは、おおっ!という野太い歓声が上がる。
「マリアベル、お前また腕を上げたんじゃないのか?」
「ありがとうございます!ヴァレント教官」
ふぅ、と額の汗を拭う。なんとかお叱りを受けずに済んで…いや、どうだろう。
ヴァレント教官の元についてすぐに、100人組手をさせられたし。
いまだに、ロッテさんとカミュさんは組手の最中だ。
ヴァレント教官は、金褐色の短く刈り上げた髪を持つ壮年の男性で、右眼には眼帯をつけ、顔にも身体にも、至る所に傷がある。元は傭兵だというヴァレント教官は、剣の達人だった。
そのヴァレント教官に褒められたということが、嬉しくて仕方ない。
緩む頬に、手を当てて抑えていると、呆れと驚きのまじったようなヴァレント教官の声がした。
「それにしても…お前、本当に公爵家のご令嬢なのか?」
「え、なんですか!その目!正真正銘グランディス家の3女ですよ」
「いや、だって、なぁ…」
同意を求めるようにヴァンレント教官が、周囲を見渡せば、うんうんとあちこちから同意の声があがる。
皆、あとで覚えてろ。
「後ろに勇ましく男共の死屍累々の山を作って、並の剣士じゃ扱えない大剣振り回してれば誰だって思うだろ?まあ、俺の知ってるお貴族様のご令嬢と違って、この国じゃご令嬢方もバンバン攻撃魔法ぶっ放してるけどな」
「うーん、うちの1番上の姉様…一応この国の模範令嬢って言われているんですけど、魔道部隊の司令官ですしね。むしろ、他国のご令嬢って何してるか謎なのですが」
魔法を使う必要もない、というのならば少しだけ羨ましいような気もする。
フェルトリーリエでは、貴族は男女問わず魔法を使って当たり前、出世も男女関係なし、魔法が使えれば一番!なので、今一他国の話がピンとこない。
そりゃ、私のように剣を振り回す令嬢、というのはほとんどいないが、それも皆無という訳ではない。
「まあ、俺は他の国のなよなよしたご令嬢より、この国のご令嬢方のが好きだけどな。それにしても、マリアベル、お前のその腕が勿体無いよなあ。来月には王妃様になっちまうんだろ?」
「…そうですね、未だに信じられませんが」
「ここにいる奴らは、お前が血の滲むような努力を続けてきたことを知ってる。元ある怪力だけじゃない。お前は確かな技術を身につけたんだ。もうこの国じゃお前に勝てる剣士はいねぇよ」
ふわり、とヴァレント教官が笑う。周りの皆も、誇らしげに笑っていた。
魔法科のような優美さはない。汗と泥に塗れた姿だ。
この魔剣士科には他に高位の貴族令嬢は1人もいない。そもそも女子自体が非常に珍しいのだ。
日に焼けて、手だって血豆だらけで。…筋肉は、どうしてかまるでつかなかったが、それだって、他の華奢な貴族令嬢と比べればだいぶ逞しく見えるはずだ。
「だからこそ、惜しい。王妃にさえならなきゃ、真っ先に勇者になれ、っていうんだがなあ」
「勇者…ですか?」
「ああ、お前も知ってるだろ?勇者になれば、この国の、なんだったか…ほら、あの赤い糸、とかいう奴も何もかも関係なくなるからなあ」
顎に手を当てながら、心底残念そうにヴァレント教官が言う。
その後に続く言葉は耳になんて入らなかった。
今、なんて言った?今、なんて…!?
そう、それはまさに私の、運命を変える一言だった。




