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私、勇者になります!!  作者: るる子
一章 私が勇者となるまで
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そして旅立ちましたよ!

 この3週間、それは私にとって本当に厳しい戦いだったといえる。

 慎重に慎重を重ねた準備。何より、勇者を目指すため結婚できません!ということを悟られないようにすること。

 結婚に前向きすぎるというのもおかしいだろうし、かといって結婚を嫌がっている風に見せるわけにもいかない。

 普段はただのシスコンだが、なんといっても我が家には宰相補佐や魔道部隊将軍などなど大変有能な兄姉がいる訳で。

 今まで生きてきた人生の中でこれほど気を使ったことはない、という程に、持てる能力全てをフルに使ってなんとか乗り切った。

 “不釣り合い”な結婚に戸惑う公爵令嬢、の振りは結構上手かったんじゃないだろうか。

 というか、こんな私もなんだかんだで、本当に公爵令嬢だったんだなぁ、としみじみ思ったりした。


 -そして、決行前夜。

 ルイ様に頂いた手紙の返事を考えたいので明日の昼までは絶対に邪魔しないで欲しい、と家族に頼み込み、普段庭に放し飼いにされている家族の使い魔たちも、部屋から出さないようにしてもらった。

 結婚式まで1週間をきった今日、結婚するにあたりルイ様のことをちゃんと理解したいの、といえば、家族がとても驚いた顔をして-アルフ兄様に至っては複雑そうな顔をして―いたものの、こちらを疑う様子はまるでなかった。

 ルイ様にも、明日大事な話があるから王城でお会いしたいと伝えれば、すぐさま了解の返事が返ってきて、全ての準備は整った。


 余りにも上手くいきすぎたからこそ、まさか罠なのでは!?と思ったりもしたけれど、結局は何事も起こらないまま、私は屋敷を抜け出し、王都の中心街の安宿に泊まっていた。

 王都の城門は夜9時には閉まり、朝5時に開く。

 私は朝城門が開いたとともに、王都を抜け出し、そこから国境の町まで移動する予定だ。

 国境の町にしても、フェルトリーリエは東、西、北がそれぞれ別の国と接しているため、どこの町にしようかと悩んでいたが、そこは出来る限り捕まらないようにルイ様たちの裏をかこうと思う。

 ルチル教会はこのフェルトリーリエ王国にもあるが、もしかしたらそこには既にグラディウス家か王家の手が回っているかもしれない。

 そもそもが、ヴァレント教官に言われるまで勇者の存在を知らなかったのだ。

 ルイ様と家族が意図的に隠していた、という可能性は十分にありえる。

 そうなると、他国のルチル教会で勇者登録をしなければならないが、登録前に私の不在に気が付いたルイ様と家族に追い付かれてしまえば、勇者登録をするのは難しくなってしまう。

 最悪その場で、教会あるし結婚しちゃおう!なんてことにもなりかねない。

 せっかくここまでなんとか来たのだ。そんなことになったら一生後悔するに違いない。


(北には確か友好国の大きな街があって、東は小国、西は…確か今現在最も仲の悪い大国がある)

 

 ちなみに南は海に面している。

 となれば、選ぶのは1つしかない。




「た、大変です!ベルが、マリアベルが!!」


 悲鳴にも似た、アルフの叫びが閉じ込められた封書が届いたのは夕方に近い時間のことだった。

 -夜、大事な話があるのでお会いしましょう。

 そう、はにかみながら言ってきたマリアベルに、つい自分の罪が許されたと、錯覚したことへの罰なのかもしれない。

 やっと、長年待ち望んだマリアベルが手に入る。そのことに浮かれすぎて、マリアベルがいなくなる可能性を考えもしなかった。

 彼女のために、と焼き上げた月夜草のパイが、ひどく滑稽に思えて苦笑がこみ上げる。

 魔力で満たした水鏡を覗き込めば、ひどく焦燥した、青い顔のアルフが浮かびあがった。


「…王都周辺の捜索は?」

「今行っております。ですが、夜のうちに抜け出したのだとすれば、見つかる可能性はほぼないかと」


 絶対防御を誇るこのフェルトリーリエ王国には、いくつもの結界が張られている。

 通常、その結界を通った人物の情報さえも手に取るようにわかるのだが、魔力の無いマリアベルには通用しない。

 彼女は空気のように、当然の権利として結界を通り抜けることができるのだ。


「ロストン商会にも総力をあげて調査させていますが…ルイ様、その、妹は…どうやら勇者になりたいようなのです」

「勇者?」

「はい。自室に残されていた手紙に、私は勇者になります、と。国内のルチル教会にはルイ様のご指示により、元から圧力をかけてあるので国内で登録をしようとすればすぐにわかるのですが、国外に出られてしまうと…」


 以前、マリアベルの剣の腕を見て、すぐさまルチル教会に圧力をかけておいたことを思い出す。

 過去の自分によくやった、と褒めたい気持ちになりながら、ふと疑問が浮かぶ。

 あのとき、マリアベルに勇者の存在を教えないよう周りによく言っておいたのに、一体誰がマリアベルに入れ知恵をしたのだろう。  

 

「ともかく、国外に出るルートを押さえておかないとね。何かヒントになりそうなものは?」

「…部屋には何も。今シャーナが、マリアベルの周囲の人間の調査を行っております。ですが、治安の悪い西はないかと」


 マリアベルはこの王都からほとんど出たこともない、あくまでも『公爵令嬢』だ。

 だが、一方であの一代で国を代表するような商会を築き上げたロベルトに日々生きていくための知恵を授けられていたのである。


(貴族としてはあまりにも型破りなグラディウス家。何が正解か予測がつかない)


 順当にいけば北の大きな都市にいくだろう。友好国でもある、ベルデスト帝国は今治安もいい。東の龍華国は、小国ながら、旅の要所として栄えている。そして、西は国土の大半が砂漠に埋もれたアリスティシャ帝国。今は国境で採れた魔石の利権で揉めている。


(リア、君は何を考えている?)


 『運命の赤い糸』同士ならば、例え離れていたとしても、お互いの存在を魔力を通し感知することができる。

 だが、魔力の無いマリアベルを感知することはできない。

 けれど、ルイの魔石は確かにマリアベルの名を映し出したし、ルイ自身、マリアベルを一目見た瞬間に確信したのだ。

 これは、僕のものなのだと。

 目を閉じ、神経を集中させる。

 魔力など関係ない。互いの存在を、心を感じ取るのだ。


「…アルフ、僕は…」

 

 そうして、ルイは口にする。

 この選択が、後に起こる全ての出来事の、運命を握っていた。




次から2章開始です!

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