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私、勇者になります!!  作者: るる子
一章 私が勇者となるまで
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閑話 ある日のグラディウス家 前編

本編より少し前くらいの時系列です。

グラディウス家ってどんな感じなんだろう、というのをお伝えしたいなあ、と。

 アルヴェスト大陸の南端に位置するフェルトリーリエ王国は、日常生活の末端にまで魔道が浸透した魔道大国として名がしれている。国土は小さく、人口もけして多いとは言えないが、国民の多くが魔女・魔法使いというその特異性により、大国にも一目置かれていた。

 そんな、フェルトリーリエ王国でも、一、二の歴史を誇る名家であり、影の支配者とまで実しやかに囁かれてきたのが、グラディウス家である。

 現在は、当主のリズベリー女公爵エリシャをはじめとし、フェルトリーリエ王国の市場を独占するといわれるロストン商会の会長である夫のグラスシャー伯爵ロベルト、宰相補佐である長男のカテラント伯爵アルフ、魔道部隊司令官であり未来の元帥ともいわれる長女のシャーナ・グラディウス将軍、ロストン商会を支えている双子の次女・次男のエルとレル、そして王立魔道学院に在籍しその優秀さから早くも将来を期待されている末っ子のユーベ、…それと、未来の王妃となる三女のマリアベルの8人家族である。

 子供ができにくいという魔女・魔法使い同士において、異例ともいえる6人の子供をもうけたエリシャ・ロベルト夫妻は、未だに新婚真っ最中ともいえる程仲がいい。

 さてさて、そんな両親を持つ子供たちは、というと―…。




「で、姉様。あの、意味が解らないのですが…」


 目の前には、優雅に微笑む長女のエリシャ姉様。いつだって憂いに満ちた微笑みは儚げで、しかし滴る程の色香を滲ませている。

 うう、相変わらず本当無駄にキラキラです、美人さんです。

 今だってティーカップをとるその仕草もすごく絵になっていて、王宮で模範令嬢と言われているのもすごく納得できる。

 父様とイチャラブするのに忙しい母様に代わって、グラディウス家の社交をアルフ兄様とともに担ってくれている姉様は、ただでさえ忙しい仕事の合間に次々と夜会に参加しており、こうして中々一緒にお茶を飲む時間を持つ事が出来ない。

 だからこうしてシャーナ姉様と一緒に過ごせるのは嬉しいのだけれど…。


「ふふ、そうね。今日はベルに社交界を上手く渡り歩くための心得を伝えようかと思って」

「心得…」

「ええ。マリアベルのように可愛らしい子は、簡単に食べられてしまいそうなんですもの。私やアルフ兄様がいつでも守れればいいけれど、そうもいかないでしょう?ですから、未来の王妃様に私の持てる技術を全て教え込んでおきましょうと思って」

 

 確かに、社交界のことについて話を聞くのにシャーナ姉様以上に最適な人はいないのかもしれない。

 一応社交界デビューは1年前にしていたものの、許嫁であるルイ様の意向によりほとんど夜会に参加したことはなかった。ルイ様のパートナーとして出た夜会も、挨拶が終わればすぐに帰されてしまう。

 そのため、社交とはどんなものかいまいちよく分かっていなかった。

 だが、王妃ともなればそうも言ってはいられない。


(そうだよね、せめて社交くらいはしっかり出来るようにしないと…!)


 よし、頑張ろう!と決意を胸に再び目の前のシャーナ姉様を見て…心が折れそうになった。


「…あの、つかぬ事をお聞きしますが…シャーナ姉様?その、周りの男性たちは…」

「あら、これは気にしなくてもいいのよ。空気だと思ってちょうだい」

「はぁ、空気…」


 太陽の光を浴びてキラキラと輝くシャーナ姉様の髪を優しく撫でる青年A。紅茶を入れる青年B、お菓子を口に運ぶ青年C、他多数。

 皆一様にシャーナ姉様を熱い眼差しで見つめている。

 私に『運命の相手』であるルイ様がいるように、シャーナ姉様にだって『運命の相手』はいる。9歳の少年だが。


「うふふ、マリアベル。これくらい気にしちゃダメよ。夜会ではこれくらい当たり前なんだから」

 

 そう言って、シャーナ姉様は傍にいた青年D?の頬をするりと撫で上げる。

 うん、これ完璧に大人の世界だ。私にはついていけない。

 

「ええと、シャーナ姉様、私にはちょっと…」

「っ、シャーナ!!お前、ベルに何…っつつ!?」


 バンッ、と温室の扉が壊れそうな程の勢いでやってきたのは、髪を乱したアルフ兄様。額にはうっすらと汗までかいている。

 うわ、むわっとするような色気です。

 そして温室に揃った美男美女。兄姉じゃなかったら本気で逃げたい。

 このいたたまれない気持ち、どう表せばいいんだろう。

 ふと見れば、青年ズの顔が明らかに強張っていた。

 うん、まあいきなり身内とはいえ超美形の男性が現れたんだもんね。

 …あ、今一瞬青年ズ間違いなく空気だった!!まあ、私も空気ですがね。

 ここで、青年ズの名誉のために言っておきたいが、青年ズはそこそこのイケメンである。

 普通だったら、こんな風に空気状態になるはずがないのだ。


(だけど、アルフ兄様は別格すぎるしね…)


 アルフ兄様は人外美形のルイ様を除けば、間違いなくフェルトリーリエ王国一の美男子だ。

 そして、シャーナ姉様はフェルトリーリエ王国一の美女。

 うう、眩しい。


「あら、御機嫌よう兄様。でも、挨拶も何もなしに、失礼ではありませんこと?」

「…お前がめずらしく昼から屋敷にいると聞いてな。嫌な予感がして一時帰宅したんだ。そうしたら案の定…」

 

 苦々しい顔をしたアルフ兄様が、シャーナ姉様を睨み付ける。

 対するシャーナ姉様は涼しい顔をしている。

 間の私と青年ズは、恐怖に震えあがっていた。

 

「王妃となるマリアベルのために、社交界のことを教えてあげようと思って」

「お前が教えてるのは、その、マリアベルには必要の…」

「なんでしたらお兄様が教えてさしあげてもいいのですよ?マリアベルがお兄様のような輩につかまらないように」


 楽しそうにシャーナ姉様が笑う。途端に狼狽えるアルフ兄様。

 社交界にほとんど出ていない私の耳に届くくらいなのだ。

 …シャーナ姉様とアルフ兄様の夜会荒らしの話は、ものすごく有名だ。

 

「シャーナ、お前、その、ベルに」

「…アルフ兄様、今さら取り繕っても意味ないですからね。私だってその、噂は聞いてますし」

「まあ、ベルももう16歳だものねぇ」


 しみじみとシャーナ姉様がそう言えば、アルフ兄様がショックを受けたような顔をして、フラリとよろめく。

 アルフ兄様、あなたは一体私にどんな幻想をいだいているんですか!

 そりゃ、キスとか、その、キスの先?とか、あることくらい知ってるんだから!


「そうよ!アルフ兄様。詳しいことはその、よく知らないけれど、男女が夜部屋に入ってお祈りして、朝まで殴りあうんでしょ…!?」

 

 うぉおおお、恥ずかしい!私、今、なんてことを!

 顔が熱くて仕方ない。


「…ベルっ!そう、まさにそうだ」


 途端に、ぎゅっと、嬉しそうな顔をしたアルフ兄様に手を握られる。

 なんか薄ら涙目なのは何故なんですか。

 え、そのままでいて欲しい…って?


「あれ、私なんか間違えて…」


 はぁ、と疲れたような、シャーナ姉様の溜息。見ると、青年ズたちも、酷く憐みの籠った…え?

 困ったようにアルフ兄様を見れば、アルフ兄様が一瞬で吹き飛んだ。

 アルフ兄様は、綺麗な花の咲いた蔦でぐるぐる巻きにされている。

 

「ああ、ベル。お兄様のことは気にしないでね?話がややこしくなるから、少し黙っていただこうと思って」

「あ、うん、はい」

「えっとね、ベル?それは誰から聞いたの?」

「あー…エル姉様とレル兄様」

「…あの双子…余計なことしてくれたわね」 


 まさに氷点下といったような笑顔。怖いです。

 

 


 

 


後編に続きます。


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