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episode 7-1 選択肢ゲーム (全員)

長いです

「今日は奇を狙って、こんなものを用意してみた」


 ヒイロはそう言ってフブキ、リリス、ルナ、フォールのいつものメンバーに語りかける。

 しかし、メンバーは困惑していた。用意したと言う割には、自然体で何も持っているようには見えないからだ。


「用意したって言っても何を用意してきたの?」


 もったいぶってなかなか内容を話そうとしないヒイロに焦れてリリスは問いだそうとする。ヒイロはそれでも余裕な態度をくずさず、ワインをまわすようなしぐさをする。エアーワイン。優雅になんか見えない。

 これは自分に酔っているなと判断したメンバーはヒイロから関心を背けて各々で談笑する。

 十数分もたった頃。エアーワインに満足したのかヒイロは先ほどの話の続きを説明し始めた。


「用意してきたのは何か、そう言ったな。……それは、この頭だ。つまり頭脳」

「はい解散」

「また明日ー」

「ちょ、ちょっと待って!!」


 ヒイロが人差し指で自分の頭をとんとんと示したと同時に、ほかの四人は立ち上がって帰る準備を始める。しかし、お願いだからと懇願するヒイロにおされてしぶしぶ座りなおした。


「それで、何を持ってきたって?」


 フォールが笑みを浮かべながら問う。


「それはこの頭脳――嘘です嘘です本題を話すから手に持っている鞄を置いて!! ふう……ありがとう。本題と言っても提案なんだけど、選択肢ゲームというのをやってみよう」

「選択肢ゲーム? 聞いたことがない」


 ヒイロが提案するゲームに特別な道具が必要だったことはない。どちらかというと、小学校で流行ったような身がひとつあれば誰でも気軽にできる簡単な遊びが多い。今までのものは知っているものが多かった。しかし、選択肢ゲームと言うものは聞いたことがない。


「俺が命名した遊びだからだ、フブキ」

「それでルールは!?」

「面白そうな名前だし、僕も内容に興味があるな」


 ルナとフォールが半身前に乗りだす。フォールとルナは特別でないとりとめもないようなことにもくい付く節がある。そのため、ヒイロは何を提案してもこの二人だけは賛同してくれるという安心感がある。


「選択肢ゲーム。これは、皆もやったことがある例のゲームに似ている。『だれが』『どこで』『なにを』『どうした』と文節に分けて、各自が書いたカードに沿って文章を作るゲーム。あれを基にしてある。今回の選択肢ゲームは初めにお題となる疑問の文章とそれに対する答えをカードのような紙に書いて作っておく。ノベルゲームにおける選択肢のようなものだ。それを文章と答えに分けてシャッフルする。それで文章をランダムに選んで、次いで選択肢をランダムに引いていく。人数が少ないので、選択肢は個人で分けないものとしようと思う。」

「つまり、各自が疑問文と答えを作って、ばらばらに組み合わせてはっちゃけた回答になるのを楽しむと」

「ばれたー!!」

「それ俺のせりふだからな」


 ルナは言動から年齢を低く感じられるが、それでいて理解力は低くないのでゲームのルールは理解したはずだ。ばれたー!! と言っているのは話についていけてないからではなく、場を和やかにするためである、そう思ってヒイロは頷く。


「けど、すぐにその選択肢ゲームを始めるのは厳しそうだね」

「考える時間は必要だと思う。だから、実際に遊ぶのは明日ということにしたい」


 いくら疑問とその答えを考えると言っても、簡単に思いつくわけではない。その準備期間として今日の放課後、家に帰ってから。決行は明日で決まる。

 フブキとリリスも参加してくれると約束するとその日は解散になった。なんだかんだいっても、フブキとリリスも雑談集会のメンバーであるので、このような遊びは心躍るのだ。


 明くる日の放課後。


 昨日約束したとおり、全員が考えてきたお題と選択肢を紙に書いて持ってきた。見えないように半分に折ってそれを回収していく。お題用の紙は色が付いたビニル袋に入れて教卓に置いた。各自の選択肢が書いた紙は事前に中が見えないような袋に入れてもらっているので、それを教卓の前の机の上に置いた。袋にはそれぞれ誰のものか分かるように名前が記してある。


「細かいルールを確認するぞ。まず、お題の袋から紙を一枚引いて読み上げる。自分のが出た場合は引きなおし。そして、その後に選択肢用の袋から一枚ずつ引いていく。引くたびに内容を読み上げることにしよう。これでいいか?」


 本来ならば、一番いいと思った選択肢が出た時点で終了にするほうがゲーム性が出るのだろうが、全部の選択肢を見るために今回はそのルールを採用しないことにした。

 ほかの四人はそれでいいと口々に零す。


「では、ゲーム開始だ。誰からいこうか?」

「これも選択肢にしておけばよかったね」

「確かに」


 選択肢を駆使することがこのゲームを醍醐味である。今日の集会が始まってから、話し合いをすべて選択肢を用いながらしてもよかった。ヒイロは少し反省する。


「ここはまず提案者のヒイロから行くべき」

「そうか?」

「確かに、口頭では説明しきれてなかった部分もあるかもしれないわね。それがいいと思うわ」


 だからこそ、ヒイロのゲーム進行を参考にして自分たちもゲームをしていったら確実だ。リリスの言葉にヒイロは納得して、教卓のところまで躍り出た。ほかのメンバーの期待した目線を感じる。当然、ヒイロも心躍っていた。ビニル袋の中から一枚の紙を取り出す。二つ折りに折られたその紙を開いて中の文章に目を通す。そして、読み上げた。


「『よく当たると有名な占い師がいた。何を占ってもらおう?』。なんか心理テストみたいな文章だな」

「けど、選択肢を作れる文章ってそういうものじゃない? それがダメなら私の文章も厳しいわよ」


 そう言って苦言をもらしたのはリリスだ。見てみると、リリス以外は口を出していないが、同じようなことを考えているのか眉をしかめていた。

 しかし、ヒイロはそんな意図をふくんでいたわけではない。


「そういう意味じゃないって。そもそも俺もそんな感じの文章だ。改めて見てみると、心理テストみたいだったなと思っただけで独り言だよ」

「……焦った」

「ごめんな」


 肩の力を抜いて息を吐いたフブキや、皆に謝罪する。

 それはともかく。

 ヒイロはゲームの次のステップ、つまり選択肢を引くために机のところに移動する。机の上にあるのは五つの袋。選択肢のほうに名前を書いて誰のものかを分かるようにしているのは、進めているうちに明らかになることを見越してのことだ。文章の書き方や字のきれいさなど、色々な要素で隠しようがない。


「ふうむ」


 自分を含めた五人の中からどの袋から選ぶか悩む。

 しかし、始めにヒイロが選んでいる意味を考えるならば、内容がわかっている自分の紙を取り出すのが正しい気がした。

 ヒイロは自分の名前が書かれた袋の中から、一枚の紙を引いた。

 ここでお題を確認しておくと、『よく当たると有名な占い師がいた。何を占ってもらおう?』である。そして、ヒイロが引いた選択肢は――


「『おいしい料理が食べたい』だ」

「聞く相手を間違ってない!?」


 自分で作るなら料理教室の先生、また店を聞いているなら評論家が適任だ。


「まあ、こんな感じだな。これからもリリスが思わず突っ込んでしまうほどの、突拍子のない選択肢が出てくることだろう」

「私基準止めて!!」

「リリスがいるから、さらにこのゲームの魅力が出てくる……。リリスに感謝」

「追加ルールとして、リリスの一言を加えるか。お題と選択肢について真面目なコメントをくれたらいい」

「私の意志無視してるわよね!? そんなルール却下だから!!」


 一悶着ありながらも、メンバー全員がルールを理解したところでヒイロは次にリリスの袋を選んだ。自分の選択肢がいつでてくるか分からないのでは、リリスもコメントを入れるのに集中できないだろうというヒイロの気遣いだった。


「『校庭の桜の木の下が怪しいと思う』。……リリスよ、お前は何を知っているんだ?」


 桜の木の下に埋まっているものと言えば……全員の頭に浮かんだのは死体だった。有名な小説の話だ。


「違うわよ!? 別に死体とか埋まってないからね!!」

「占い師に聞く辺りが玄人さがにじみ出ているな……。警察なんか頼りにならないわよ、というところか」

「自分で事件解決とかしてないわよ!! ていうか、占い師に聞いてる時点で事件解決しそうになんかないでしょ!? うぅ、こうなる選択肢じゃないはずなのに……」


 リリスが頭を抱えてうめきだしたあたりでヒイロは次の選択肢はだれのから選ぶのかを決める。最終的には全員の分は見るのだが、どうしても迷ってしまう。そして、ルナのものに決めた。


「『空!!』だそうだ」

「やっぱり聞く相手を間違ってるわよね!? これってそのまんま天気予報を聞いてるじゃない!!」


 復活したと自分を誇示するように大きな声を出すリリス。


「なんだかんだでぶっ飛んでるな。空について聞かれた占い師の困惑顔が目に浮かぶ」


 さらにどんな疑問の文から『空!!』なんて答えが出てくるかも不思議だった。ましてや、答えの文は五つ必要になるので謎は深まるばかりだヒイロはそっとルナのほうに視線を向けてみると手をたたきながらきゃっきゃと機嫌がよさそうだった。ルナの考えてきた文章はあとからのお楽しみとしておくとして、次の選択肢として選んでおいたフブキの袋から紙を取り出す。

 そこに書かれている文章に思わずフブキの顔を見てしまう。どうしたのかと問うようにフブキは首をかしげた。ルナのときよりも驚愕に染まりながら、文章を読み上げる。


「えっと『あなたに興味ありませんので』」

「自分のことを聞きに来てるから当然でしょ!? 占い師がお客さんと何を期待してるって言うのよ……ってフブキの選択肢怖っ!?」


 選択肢の内容よりも、フブキがこの選択肢をチョイスしたことのほうが恐ろしかった。ここまで否定的な選択肢に一同がフブキに探るような目線を向けると、フブキは両手を胸の前で横に振り出して否定した。


「組み合わせでこうなっただけで、たまたま。私のお題を見てもらえれば納得できるはず」

「なんかそれすらも疑問に思えるんだけどね」


 フォールが言う言葉に力強く頷くフブキを除いた四人。

 フブキはそれからもいい訳じみた言葉を繰り返すが、うさんくさそうな四人の態度を変えることはできないと悟って次に行くようにヒイロを促した。

 ヒイロはしぶしぶといった感じで最後であるフォールの袋から紙を取り出した。

 実は、ヒイロがフォールの袋を一番最後に選んだのには理由があった。フォールの紙を開いて、内容を読んだヒイロは笑みを浮かべる。


「『喧嘩した友達がいるので、それについて』だ。……やはりな」

「占い師に喧嘩した友達とのこと聞くなんて……あれ、普通ね」

「叫ぶ準備をしていたのにごめんねリリス」

「そんな準備してないわよ!!」


 申し訳なさそうに手を合わせるフォールにリリスは吠える。


「けど、今までの流れからしたら普通で残念。ねえ、リリス」

「なんでフブキも私に振るの!?」

「……んん?」


 リリスがフォールからフブキに狙いを変えてから、フブキは何かに気づいたように腕を組み始めた。


「つまり、このお題はフォールが考えてきたということ?」

「ご名答だよ」


 フォールは両手を上げて降参のポーズをとる。


「こんなふうに誰の文章かを推測するのもこのゲームの楽しみの一つでもある。とはいっても、当てるのは簡単だろうけどな」

「どうして?」

「性格とかを考慮すればな。あとは、すでに出た選択肢がヒントだ。ルナのなんて分かりやすいんじゃないか?」

「なるほど」


 フブキの疑問を解決してヒイロは椅子に座る。ヒイロの番は終了だ。

 ヒイロがフォールを最後に選んだのは、お題の文が最初から誰のものかが分かっていたからだ。

 フブキには性格や選択肢と言ったが、ヒイロの判断材料は違っていて文字の書き方だ。男特有の角ばった文字、丁寧さを重んじる文章構成。どれもフォールに当てはまる。そんなことを考慮に入れなくても、中学校からの付き合いがあるのでフォールの字は見たことがあるので反則といえば反則だった。


「それで次は誰にしようか?」


 ヒイロが一同を見回すが、ためらった様子で誰も名乗りを上げない。行きたい気持ちはあるが、自分からいってもいいのかなと迷っていることだろう。ヒイロとしては誰が先でも問題はないだろうと思っている。

 結局のところ、じゃんけんで勝ったルナが次に紙を引くことになった。


「僕の番だね!!」


 ルナが意気揚々と教卓の前までスキップで移動する。皆思うところがあるのか不安げな表情でルナを見ていた。


「じゃあ引くね!!」


 ルール通りに色つきのビニル袋の中に手を入れているのを見てメンバーは胸をなでおろす。ここがあっているならばあとは流れるようにいくだろう。

 んー、とうなりながらごそごそと中を漁っている。そして、勢いよく一枚の紙を取り出した。


「えっと……『どっちか――』ってこれ僕のだ」

「え!? 続きが気になるんだけど!!」


 そう叫んだのはリリスだ。

 見れば、フブキもフォールも首をかしげていた。この疑問の形から五つの答えを導き出せるとは思えない。答えが二つに限定されるのでは? まあ、ルナだからどうにかして五つの答えを作っているのだろう。そう無理やり納得するとして、ルナのやり直しを見守る。


「あっ、そうなっちゃうとルナの文章が出た時は誰が考えてきたものか分かっちゃうわね」

「まあ、仕方ないだろう。ルナも自分と似た感じの別の人の文章だと思ったに違いない」


 もっとも、ルナ以外にはそんな始まりの文章は出なさそうではあるのだが。破天荒な道をいくルナのことである。その可能性は考えてないのだろう。


「今度こそ」


 そう言ってルナは別の紙を取り出した。その後に自分の紙を袋の中に戻す。今度こそ何も、また自分のものが出てきたら驚きだ。


「……うん、違う。『願うなら?』だって。なんか、誰のものか分かる気がする」

「じゃあ、そうだと思った人は最後にしてみるがいいさ」

「むー、挑戦的な目。絶対当てる!!」


 そう言いつつ、各選択肢の袋を鋭い眼光で睨むルナ。まるで、中身を気合で透かしてみようとしているようだ。確かに、中身が見えたのなら当てることは可能である。


「分かった!!」

「何が!?」


 リリスが反応した。ヒイロも同じ気持ちだった。何とも言えないような表情をしているフォールとフブキもきっとそうに違いなかった。

 ルナは自信たっぷりにフブキの袋から選択肢の紙を一枚取り出して中身に目を通す。


「えっと、『忙しいですので、どいてください』」

「全然興味もたれてないわよ!? これは悪徳な客引きと勘違いされてるわね……」

「実際に悪徳商法なはず」

「フブキは何で知ってるの!?」

「これ、考案者、私」

「け、警察を呼ばないと」


 リリスはポケットからスマートフォンを取り出す。画面をスライドさせて操作をしていると、横から払われた手によってスマートフォンが手から離れてしまう。リリスの手から離れたスマートフォンはフブキの手に収まっていた。


「さあ、ルナ。口封じを」

「がってん!!」

「いやああああああ!!」


 リリスが奇声を上げて抵抗しようとするが、後ろに回りこまれたルナによって羽交い絞めにされる。リリスよりも小柄なルナに捕まるはずがないので、そういうノリなのだろう。


「げへげへ」

「誰か助けて!!」


 不自然に悪者顔をしたルナが笑い、身体を無理に動かさず余裕がありまくっているリリスが叫び、悪の大幹部を気取っているフブキが命令を下す。


「さあ、下っ端ヒイロ。リリスに何か下種なことを」

「おい、俺の時だけ下っ端ってつけるな」


 非難するようにフブキを見るが、そ知らぬ顔で目を背けられる。


「そもそも今は選択肢ゲームの途中だろ? 続きしようぜ」

「ちっ。ヒイロを社会的に抹殺するチャンスが……」

「部活から犯罪者をだそうとするなよ」


 リリスが乱れた服を正してルナが机の前まで戻ったところでゲームが再開される。

 ルナはリリスの袋を選んだ。


「次はー、『見当も付かない』」

「これはどっちなんだ? 欲がありすぎて、もしくは無欲なのか? まあ、リリスのことだから、欲に溢れかえっているんだろうが」

「何その偏見!?」

「さっきのどたばた劇にも大げさには反感を示してなかったからな。いたずらされたい欲みたいなものが強いんだろ?」

「べ、別にそんなことないもん」

「まあまあヒイロ。女性のそんなところを分かっていても口に出さないのが大人の交流だよ」

「そうか。ごめんなリリス」

「だから違うって!!」

「そうだね。ヒイロだからだよね」

「きゃああああああ!! フォールは黙ってよ!!」


 べしべしとフォールの肩を揺らすリリス。わざわざ椅子から立ち上がってフォールの元まで行くのだから、リリスにとっては余程のことだった。

 ヒイロはため息をついて激情しているリリスに近寄る。フォールに威嚇しているリリスを引き剥がして椅子に座らせて、自分も席についた。


「お題は『願うなら?』だな。ルナ、続きを頼む」

「頼まれたー!!」


 そう言ってルナは自分の名前が袋に手を突っ込んだ。ごそごそとして手をまさぐっている。


「引いた!! 『右!!』」

「もはや話を聞いてないわね!!」

「ていうか右ってなんなんだ? いきなり言われても困るだろう」

「いや、こうも考えられるよ。尋ねた人が握った両手を前に出して、どちらかを選ばそうとしている、とかね」

「なるほど。しかし、答え方が『右!!』だったら、どっちから見てを提示してないから、はずれの方をひかされるだろうな」

「そんなひねくれてるわけないでしょ……」

「私が考案した、悪徳商法だから」

「まだそれ続いてたの!?」

「リリスなら騙され……いいカモになってくれると信じてる」

「カモって言ってるわよ!?」


 フブキの言葉にヒイロは頷く。


「そうかもしれないな」

「僕なら騙されないかも!!」

「確かに。リリス以外は騙されないかもね」

「かもおおおおおお!!」


 リリスが頭を抱えて叫びだす。長い髪がひらひらとなびいていた。


「おいおい、ゲシュタルト崩壊するのはまだ早いかもよ」

「ルナは鳥で何が好きかもしれない?」

「鴨かも!!」

「今度ねぎ背負ってあげるから、それでこの場は収めて!!」

「じゃあ、今度はねぎの早食い競争をするか……。じゃあ、続きを頼む」

「はいや!!」


 次にルナはフォールの袋を選んだ。中身を取りだして読み上げる。


「なるほど。『趣味が見つからないので、それについて』」

「やっとまともに話を聞いてあげてるわ!! ……もしかして、これが該当する答えなんじゃないの」

「僕のはすでに出てるから違うよ」

「あ……そうだったわね」


 最初の番だったヒイロが引いたお題が『よく当たると有名な占い師がいた。何を占ってもらおう?』で、それをフォールのものだと見事に当てたのだった。これだけ、横道にそれているならば失念することも仕方ない。

 リリスは考え込むようにして頭を下に向ける。そしてはっとしたように顔を上げた。


「じゃあ、もしかして――」

「それは次の選択肢の内容をきいてから吟味しよう」


 興奮して高い声色のリリスをさえぎるようにヒイロは進行しようとする。不満そうなリリスの顔が目に入るが無視する。


「うん。じゃあ、最後にヒイロ!!」


 宣言するように声を張り上げてヒイロの袋の中から紙を取り出した。腕をぴんと伸ばしてルナの頭上に紙を掲げる。

 そしてそのまま動かない。

 ……動かない。


「……おい、ルナおい」

「ヒイロ、なに?」


 ルナの上方をちらりと見る。


「なにっていうか、読もうよ?」

「ばれたー!!」


 なにがばれたか。

 ルナはもったいぶったようにゆっくりとした動きで紙を顔の正面に持っていく。頷きながら、文章をなぞるように目線を動かす。


「『十時間睡眠』!!」

「堕落した生活!?」

「そうでもなくね」


 思わずつぶやいたヒイロ。

 驚いた顔をするリリスを尻目に、ルナは前方にいるある人物に向かってビシッと指を挿した。その人物に視線が集まる。


「お前が犯人だっ!!」

「……なんで探偵を気取ってる」


 ずばり、その人物はヒイロだった。


「でも……ホントに?」


 納得できないのか、腕組みをして考え込むしぐさをするリリス。


「何を言っているんだ。明らかにそうじゃないか。いいか? お題の分が『願うなら』で、それに対する受け答えの文が『十時間睡眠』だぞ。ばっちりじゃないか」

「なんか違うというか、しっくりこないというか……」


 そんなリリスを見かねたのかフブキが手を上げてアピールをする。助け舟を出してくれるのならと、ヒイロはフブキに任せることにする。


「普通の人なら願いを聞かれて睡眠と答えるわけがない。普通の人なら。でも、これを答えるのがヒイロがという点を重点に置く」

「納得したわ。ありがとうフブキ」

「俺を馬鹿にしてるだろお前ら」


 リリスとフブキはヒイロの視線から逃れるように背中を向けた。フォールも思わず苦笑していた。


「じゃあ、次は誰が行く?」


 ヒイロが睨みばかり利かせているので、代わりにフォールがたずねる。

 最初がヒイロで、その次がルナ。残るは、リリスとフブキとフォール。だれから行っても変わらないように思える。

 フォールの声にヒイロは顔を向ける。


「次はフォールだな」

「どして?」

「うおっ」


 興奮状態にあるのかルナは席に着かずにヒイロの背中のほうから寄りかかるように肩に手を回してくる。ルナは学年が下でその中でも背が低いことがあるので、自然にヒイロの身体はルナの腕につつまれる。

 ヒイロはその腕をはがそうとするが、ルナが互いの腕のひじをつかんでいるために頑丈でぴくりともしなかった。もちろん、手加減はしてある。

 ヒイロは一息吐いてからルナに説明をはじめる。


「数学の問題だ。事故みたいなものでルナの文章の頭が分かっている。まあ、ほかに重なっているものはないだろう。そして次がリリスやフブキとする。残っているのはリリスとフブキとルナのものだ。ルナのはどんな文章か大体分かっているし、もちろん自分のは引きなおしだ。分からないのは残りのひとつだけ。消去法で導き出せるんだよ」


 少々長くなってしまったなと思いながらもルナに説明をし終える。途中聞いているときも頷いていたので理解はできているのだろう。ルナは満面の笑みを浮かべる。


「全部分かってた」

「よし、そこになおれ。殴ってやる」

「ばれたー!!」

「自分でばらしただろ!?」


 ルナの腕をはがしにかかるが、ルナも力をいれているのだろう、はがせそうではがせない。というより、はがそうと力を入れている時にルナが頭突きをしかけてくるのでそちらに気をとられていた。


「て、てめっ。頭はやめ痛い!! ちょっとまて石頭痛い!!」


 ルナをはがしにかかるヒイロとそうはさせまいと抵抗するルナの戦いがさらに盛り上がりを見せようとしているところで、そっぽを向き続けていたリリスとフブキが何が起こっているのかを振り向いて確認した。二人はルナによっていきヒイロに今度こそ助け舟を出した。


「ちょっとルナ!! ヒイロから離れなさいよ」

「これ以上するなら私の悪徳商売の餌食にする」

「……分かったー」


 不満がありそうな声を出しながらヒイロから離れるルナ。ヒイロは最後のほうで締め技にかかっていた喉をさすりながらフォールに次を頼む。


「はいよ。僕は全部分かってるからね」


 フォールは嫌味な笑顔を顔に貼り付けながら教卓の前に向かう。ヒイロはフォールの言葉を心中で反芻するが理解できないので何も言葉を発さなかった。


「それなら、次は僕の番ということだね」


 フォールは自分に言い聞かせるようなトーンで言葉を発したあと、色つきビニル袋の中に手を入れて一つの紙を取り出した。

微妙な終わり方ですみません


頑張ってもう一話で収めたいです。

プロットとは別に逸れてしまったら悲惨でした。

半端ない量です。この文字数で終わってる予定だったのですが……

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