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episode 3 だらけてやしないか? (全員)

「この前まで夏休みだからといって、だらけてやしないか!?」


 演説に向かう政治家のように熱く言い放つのは、なんちゃって進行役のヒイロだ。


「別にそんなことないわ」


 気温の高さにやられたのか、髪の毛を掻き上げながら返答するのは、叫ぶことが多いと言われるとへこむリリスだ。


「そう思うのなら、あいつを見てみるんだな」


 ヒイロに言われたとおり、目を向けてみると机に突っ伏している少女がいた。その姿は水分が足らずに干からびている魚のようだ。


「すぴー」


 気持ちよさそうに机に伏して、寝息を立てているのは無邪気で意味の分からなさが売りのルナだ。


「ルナも疲れてるんじゃないかな。寝かせておいてあげようよ」


 そう言って笑いながらルナを気遣っているのは、ヒイロの無二の親友であるフォールだ。


「というよりも、一番だらけているのはヒイロ」


 ヒイロに対して辛らつな言葉を投げるのは、おとなしくなんかない文学少女のフブキだ。


「何を根拠にそんなことを言ってるんだ」

「その根拠、ここで言っても構わないのなら言う」


 笑いながらのフブキの発言。ヒイロの身体は電撃が走ったようにはねる。フブキが不適に笑っているだけで、なにか悪寒を感じてしまうからだ。

 その様子を見てフォールがくすくすと笑う。


「実はそんなに大したことないんでしょ?」


 その途端にフブキの顔が不満に染まる。どこからどう見てもばらすなと言っている様な顔。


「騙されたぜ……。ハッタリかよ」

「いくらフブキ相手だからといって深く考えすぎよ」


 呆れたようにリリスはため息をつく。まったくだと肩をすくめるフォール。


「ああ、悪かったなフブキ」

「ヒイロは早とちり。私は、ヒイロがぐへぐへ言いながら小学生を見ていたのを知っているだけ」

「そんな事実ないよ!?」

「興奮しながら小学生を見て、小学生に戻りたいとか言ってる不審者ヒイロが一番だらけている」

「おい待てよ!? 本当のことのように言うなよ!!」

「ヒイロ。それが本当なら、僕はヒイロとの関係性を考え直さなくてはいけないと思う」

「だからフブキの嘘だって!! 早く嘘といって!!」


 ヒイロが必死の形相でフブキに詰め寄る。フブキの隣では青ざめたリリスがごみを見るような目でヒイロを見ている。それに耐えられるほどヒイロのメンタルは強くない。


「……でも、ヒイロが鼻を何度もかみながら、ぐへぐへしてたのは本当だから」

「それぐずぐずじゃね!? 鼻の調子が悪かったんじゃね!?」


 この前風邪を引いてしまってつらかったのを思い出した。薬を処方してもらいに薬局に行ったので、フブキが見たというのはそのときだろう。

 しかし、リリスの警戒は薄れていないようで、依然目は鋭いままだ。


「リリス、事実無根だから。小学生相手にぐへぐへとか言わないから」

「ぐへぐへ」

「いやあああああああ!!」

「声真似とか止めてくれない!?」


 フォールがヒイロの声色に似せたのだ。実際それほど似ているわけではないのだが、興奮状態にあるリリスには男の声というだけでダメだったのだろう。


「私ちょっとお手洗いに行ってきます!!」

「せめて誤解は解かせろよ!!」


 ヒイロの叫びもむなしく、逃げるようにリリスは教室から出て行く。陸上部も白旗を揚げたくなるだろうほどの瞬発力で走っていった。手を突き出したまま呆然と残されるヒイロ。


「当然のむくい」

「明らかに不当だろ!?」


 このままではダメだ、フブキのペースに惑わされてしまう、と心を落ち着かせるヒイロ。もともと、今日は別の目的があったのだ。そのために、だれけている、と投げかけたのだが、脱線に次ぐ脱線で本筋からかけ離れてしまった。


「リリスがいなくなってしまったが、仕方ないのでこのまま話を進めようと思う」

「だれのせいでいなくなったと」

「強いて言わなくてもフブキだからな」


 話を腰を折ってくるフブキにばっさりと言い切る。

 これからの話のためにルナも起こしてもらう。フォールに肩を揺らされて目を覚ましたルナは、まだ眠そうだ。静かに話を聞いてもらうには調度いいだろう。


「夏休みでだれている云々を話したのもこのためなのだが、この集会には気合が足りていないんだ」

「そういうけど、部活や同好会と違って勝手に活動しているだけだし、気合を出すも何もないと思うんだ」


 雑談集会、そう彼らは名乗っているが、部活でも同好会でもないのは、正式に許可が下っている団体ではないからだ。この旧校舎も鍵がかかっていないことと少し奥に入っていることをいいことに利用させてもらっているだけで、非公認なのだ。表立って活動するわけにも行かず、この旧校舎で活動しているのにはそのような理由がある。


「確かにそうだ。だが、忘れてないか? 来月末には、一大イベントが待ちかねていることを」

「来月というと……穫華祭ね」


 穫華祭。ヒイロたちの通っている高校のいわゆる文化祭だ。もともと、高校の周辺の地域は山菜などを収穫してそれを売って生計を立てていたという文献に由来するらしい。高校の内部だけで盛り上がるのではなく、地域の有志も参加することができる。地域密着型のイベントだ。


「穫華祭って言いにくいから僕は嫌いー」

「来年になれば慣れるよ」


 二年であるヒイロたちが一年の頃も、言いづらい文化祭だな、と話題になっていた。しかし二年になってしまうと穫華祭をすらすらといえてしまうところが不思議だった。


「まあ、その穫華祭で何か出し物をして見ないか、という話だ」


 目標を決めて、それに向かってがんばろうとヒイロは語る。変わらない日常に穫華祭出場という刺激を与えるのだ。

 しかし、フォールとフブキの反応は芳しくなかった。……ルナはいまいち穫華祭について理解できていないので、話を聞いてもらうだけにする。


「けど、僕たちは正規の活動してるわけでもないし……」

「有志として参加の登録をすればいいんだ」


 それであれば学内非公式であっても活動できる。実際、去年にも部活に入っていないバンドが演奏をしている、とフォールに説明を加える。ヒイロはフォールの意識が参加に傾いているのを感じながら、次いでフブキの説得を試みる。


「フブキも参加してみようぜ」

「私は……人前、ましては同じ学校の人の目に触れることはしたくない」

「なんか色々と前提からだな……」

「僕ねー、裏方とかすればいいと思う!!」

「それだ!!」


 よくやったとヒイロはルナの頭をなでようと手を前に出す。

 ひょい。

 避けられてしまった。

 ……別に気にしないし。

 誰に言い訳をしているのか自分でも分からないが、自然と思っていた。

 というより言い訳でもないし!!


「絶対に人前に出なくていいと保障するのであれば考えさせて」

「ああ、信じてくれ。フブキを人前には出さない。まあ、答えを出すのは来週とかでもいいからな」


 しかし、できれば早いほうがいいのは明らかだ。それはともかく何をしようかとヒイロは思案にふけようとすると、いつの間にか近くにいたフブキが肩をたたく。


「穫華祭出ない」

「考えるってこの短時間の話かよ!?」

「短時間ではない。それは、永遠に続くとも思われた一瞬……その末に私は決断した」

「もっと短くなってるんだけど!?」

「ヒイロに言うのに勇気が必要だった。なぜなら、ヒイロは私の心を操ろうとするマインドコントロールの使い手だから」

「説得をマインドコントロールとか言っちゃうの止めて!!」


 さらなる妄言が飛んできても大丈夫なようにヒイロは身構えるが、フブキはそれ以上ふざけて会話を続けようとしなかった。ただ、悲しい顔をして、



「私がここでは土橋芽衣じゃなくて、フブキである理由を思い出して……?」



 ヒイロは話そうとした言葉を発することができなかった。フブキがフブキである所以、それは雑談集

会の誰よりも分かっているつもりだった。だから、それを言われてしまうと強く出ることはできない。


「強く言ってしまってごめんな……。でも、俺は皆で穫華祭に出たいと思っているから、気が向いたら言ってほしい」

「……うん」


 フブキは誰とも目をあわさずにつぶやく。気まずい雰囲気が教室内に流れ出す――。

 そのとき、教室の前のドアが勢いよく開いたかと思うと、箒を持ってバケツを頭にかぶったリリスが入ってきた。


「幼女趣味の変態覚悟おおおおおお!!」

「うおっ!?」


 ぶおんと空気を切り裂きながら、箒が振り下ろされる。ヒイロの頭に直撃しそうになるが、間一髪でよけることに成功した。リリス以外の全員が唖然としてその光景を眺める。


「な、何するんだよリリス」


 ヒイロがおそるおそるとリリスに問いかけるが、リリスはヒイロを睨むだけで言葉を発しない。口から漏れているふしゅーふしゅーという音が、さらに異様さをかもし出していた。


「変態がぁぁ……成敗してやるんだから!!」

「うわっ!? ちょっ待て――」


 リリスの腕から性格に突きが放たれる。ヒイロは後ろに跳ぶことによってあたらずにすんだが、あと数瞬判断が遅れていたら餌食になっていただろう。

 木っ端微塵。粉砕骨折。

 不吉な単語が頭に浮かんでは消えていく。

 それもそのはずだ。リリスの突きの反動で、風が起こったのだ。避けて大きく距離を取れたヒイロにもその風が伝わったので、直に箒をくらうときに受けるだろうの衝撃はヒイロにとって未知の領域だった。絶対にごめん被る。


「なんか楽しそう!! 僕もやる!!」


 そういうとルナは教室の後ろのロッカーから使い古された塚の部分がない箒を正面に構える。からからと音を立てる金属の部分にヒイロは戦慄をする。狙われているのはもちろんヒイロだ。

 ルナが仲間になったのを好機をみたのか、リリスはフォールを睨みつける。フォールはリリスと目が合うと傍目から見て分かるくらいに身体を震わせる。ヒイロは必死に助けてくれと目配せをするが、両手を合わせて合掌してからフォールも教室の奥に向かってしまった。


「フブキも手伝ってくれるよね……?」


 今までに聞いたことがないくらいの低い声でフブキに問いかける。フブキは曖昧な笑みを浮かべると腕を組んで考え込むしぐさをする。


「やつのいうことなんて聞いちゃダメだフブキ!! もうお前しかいないんだ!!」

「変態の言うことなんて聞いちゃダメよ。さあ、一緒に滅しましょう」

「どんどん物騒になってないか!?」


 フブキはヒイロとリリスの顔を交互に見ながら、可憐に笑みを浮かべた。めったにみない屈託のない笑顔。


「……ふふふ。なれば、私もヒイロを打ち破る」


 スキップでもしそうなくらいの軽やかな足取りで武器をとりにいく。

 現状、ヒイロ対その他の雑談集会のメンバー。数にして一と四。正面から対抗してもどうにかできるほどの希望がヒイロには全く見えなかった。


「この戦力差は、たとえヒイロでもどうしようもないはずよ」

「過大評価してくれてうれしいんだが、相手のほうが人数多い時点で俺はほぼ無力なんだぜ」

「問答ー!!」

「無用まで言い切ってから攻撃してくれる!?」


 タイミングが遅れて身体に箒がかする。


「僕に常識は通用しない!!」

「そのうち俺とじっくり勉強しような」


 ルナには常識を学んでほしかった。切実に。


「私の箒神剣をくらって塵にならなかったものはいない……」

「それが本当ならなんでこんなところで高校生やってんだよ!?」

「骨拾いはフォールに任せる」

「任された」

「塵になるんじゃないの!?」

「対ヒイロ戦線出動ー!!」


 リリスの掛け声とともにヒイロを囲もうと動き出す四人。それにつかまらないようにと必死に逃げ出すヒイロ。始まってしまった追いかけっこは、この日の活動終了時刻まで続いたのだった。

 雑談集会が穫華祭に向けて動き出すのはまだまだ先に違いなかった。

 途中なんだこれ……。

 こんなはずではなかったのに。


 前でヒイロ君の本名が明らかになりましたが、今回はフブキちゃんの本名ですね

 土橋芽衣=フブキ です

 

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