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雪解けの空に羽ばたいた。  作者: 津森太壱。
【寂しさを忘れられない。】
11/14

01

*アノイの弟子のお話です。






 ゆらり、ゆらゆら、ひらり。

 ひらり、ひらひら、ゆらり。

 雪の降る光景に音をつけるなら、それだ。


 アノイは窓辺の長椅子に深く腰かけて、背にした窓から見上げるように雪空を眺める。

 目を閉じると聞こえてきそうな雪の音に、耳を澄ませた。アノイが感じた擬音ではなく、耳が痛くなるほどの静寂さが、部屋を包んでいる。


「アノイ」


 呼ばれてふと顔を上げる。

 灰色の中に僅かな金を含ませた髪を揺らし、蒼い瞳を真っ直ぐと、しかしどこか不安そうに揺らした子どもが、開けた扉の向こうに立ち竦んでいた。


「どうした、マル?」


 アノイは背を預けていた長椅子から僅かに身を起こすと、マル、と呼んだ子どもに小首を傾げた。不安そうにしている子どもは、アノイのそれだけでは動かず、部屋に入ることも躊躇っている様子だった。


「……おいで、マル」


 いつまでも扉の向こうにいる子どもを呼び寄せて、それで漸く、子どもは転がるようにしてアノイのもとまで駆け寄ってくる。両腕を広げてやれば、子どもはするりとアノイの腕の中に入り込んできた。


「どうした、マル」


 小さいアノイから見ても小さい子どもは、親の手がまだまだ必要な歳だ。それでも親のもとにはいられなくて、アノイのところに来た。魔導師の力があるから、アノイの弟子として、これからを生きていくことが決まっていた。

 寂しいだろうな、と思う。

 アノイも、雪が深々と降る今の時期は、寂しいと思うことがある。

 親の手が必要な歳のこの子どもにとっては、その寂しさは大きいに違いない。


「アノイ……」


 すり寄ってくる子どもに、可愛い、といとしさを感じながら、抱き上げて膝に乗せる。ぽんぽんと背中を撫でてやると、ホッと安堵の吐息が聞こえた。


「おまえは言葉が少ないな、マル」


 まるで多くの言葉を知らないかのように、子どもは滅多に口を開かない。開くとしたら、それはアノイを呼ぶときか、魔導師の力を使うときくらいだ。だから、その口から「アノイ」と出るとき、さまざまな感情が含まれる。読み取るには難しいが、返事をすると表情が和らいだ。


「アノイ」


 親を求めるようにアノイを呼ぶ子どもに、本当の親ではないのに、親のような気持ちにさせられる。いや、もうアノイはこの子どもの親だと言っていい。師であると同時に、アノイは親だ。

 親が子を不安がらせてはいけない。

 そう思って、不安がる子どもを、アノイは深く抱きしめた。







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