01
*アノイの弟子のお話です。
ゆらり、ゆらゆら、ひらり。
ひらり、ひらひら、ゆらり。
雪の降る光景に音をつけるなら、それだ。
アノイは窓辺の長椅子に深く腰かけて、背にした窓から見上げるように雪空を眺める。
目を閉じると聞こえてきそうな雪の音に、耳を澄ませた。アノイが感じた擬音ではなく、耳が痛くなるほどの静寂さが、部屋を包んでいる。
「アノイ」
呼ばれてふと顔を上げる。
灰色の中に僅かな金を含ませた髪を揺らし、蒼い瞳を真っ直ぐと、しかしどこか不安そうに揺らした子どもが、開けた扉の向こうに立ち竦んでいた。
「どうした、マル?」
アノイは背を預けていた長椅子から僅かに身を起こすと、マル、と呼んだ子どもに小首を傾げた。不安そうにしている子どもは、アノイのそれだけでは動かず、部屋に入ることも躊躇っている様子だった。
「……おいで、マル」
いつまでも扉の向こうにいる子どもを呼び寄せて、それで漸く、子どもは転がるようにしてアノイのもとまで駆け寄ってくる。両腕を広げてやれば、子どもはするりとアノイの腕の中に入り込んできた。
「どうした、マル」
小さいアノイから見ても小さい子どもは、親の手がまだまだ必要な歳だ。それでも親のもとにはいられなくて、アノイのところに来た。魔導師の力があるから、アノイの弟子として、これからを生きていくことが決まっていた。
寂しいだろうな、と思う。
アノイも、雪が深々と降る今の時期は、寂しいと思うことがある。
親の手が必要な歳のこの子どもにとっては、その寂しさは大きいに違いない。
「アノイ……」
すり寄ってくる子どもに、可愛い、といとしさを感じながら、抱き上げて膝に乗せる。ぽんぽんと背中を撫でてやると、ホッと安堵の吐息が聞こえた。
「おまえは言葉が少ないな、マル」
まるで多くの言葉を知らないかのように、子どもは滅多に口を開かない。開くとしたら、それはアノイを呼ぶときか、魔導師の力を使うときくらいだ。だから、その口から「アノイ」と出るとき、さまざまな感情が含まれる。読み取るには難しいが、返事をすると表情が和らいだ。
「アノイ」
親を求めるようにアノイを呼ぶ子どもに、本当の親ではないのに、親のような気持ちにさせられる。いや、もうアノイはこの子どもの親だと言っていい。師であると同時に、アノイは親だ。
親が子を不安がらせてはいけない。
そう思って、不安がる子どもを、アノイは深く抱きしめた。