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もう一度、君に出会うまで  作者: ねこだ りく


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もう一度、君に出会うまで

もう王家には従いません ~家族全員で転生した伯爵家と、うちの猫の物語~に登場する、セドリックとリリアの話になります。


間違えて連載設定にしていますが短編です。

セドリック・ヴァレンティスは、生まれつき身体が弱かった。少し走っただけで息が上がり、季節の変わり目にはすぐに熱を出す。


医師からも、無理をさせないようにと言われ、出来れば空気の澄んでいるところで療養を勧められていた。


そんなセドリックの療養先として選ばれたのが、王都から遠く離れたグランベル領だった。自然が多く、空気も澄んでいる。そして何より、グランベル伯爵夫妻が温かい人柄だったことも大きかった。


「今日から一緒に暮らすんだよ!」


屋敷に到着したセドリックを出迎えたのは、元気いっぱいの少女だった。肩までの栗色の髪、深い青色の瞳。五歳のセドリックより少し年上の少女は、胸を張って笑っている。


「私はアリシア! お姉ちゃんだから、なんでも教えてあげる!」


「……よろしく」


セドリックが小さく頭を下げると、アリシアは満足そうに頷いた。


「任せて!」


その後ろにはもう一人、アリシアの服をぎゅっと掴んで隠れている、小さな少女がいた。淡い銀色の髪、透き通るような白い肌、薄紫色の瞳。


「この子は妹のリリア」


アリシアが振り返る。


「ほら、リリア。挨拶して」


リリアは恥ずかしそうにアリシアの背中へ隠れた。


「人見知りなの。すぐ慣れるから!」


「……うん」


セドリックが微笑む、その瞬間だった。リリアが、そっと顔を上げた。目が合ったその瞬間、胸の奥が、きゅっと締め付けられた。


――悲しい。


けれど、なぜ悲しいのか分からない。胸の奥に、遠い昔から抱えていたような切なさが広がっていく。そして、ぽろり。セドリックの頬を、一筋の涙が流れた。


「……え?」


本人が一番驚いた。悲しいわけではない。泣きたいわけでもない。なのに、涙だけが勝手に流れた。


「セドリック?」


アリシアが心配そうに近づく。


「どうしたの?」


「……分からない」


セドリックは涙を拭った。


「リリアを見たら……なんだか」


言葉にできない。


その一方で、リリアもセドリックを見つめていた。そして、ぽろり。リリアの瞳からも、一筋の涙がこぼれた。


「リリア!?」


アリシアが慌てる。


「どうしたの? 怖かった?」


リリアは首を横に振る。


「……分からない」


二人とも、なぜ泣いているのか分からなかった。ただ初めて会ったはずなのに、ずっと前から知っていたような。ずっと大切にしていた人に、ようやく会えたような。そんな、不思議な感覚だけが残った。


  ◇


それから、セドリックはグランベル家で暮らすようになった。


アリシアは本当に「お姉ちゃん」のようにセドリックの世話を焼いた。


「今日は天気がいいから、少し歩こう!」


「でも……」


「少しだけ!」


「……分かった」


アリシアはセドリックの体調を見ながら、無理のない範囲で外へ連れ出した。庭を歩く、畑を見る、領民たちが働く姿を見る。そんな穏やかな日々の中で、セドリックはリリアと過ごす時間も増えていった。


リリアは人見知りだった。けれど、セドリックには少しずつ心を開いていった。


「セドリック、一緒に行こう」


「うん」


二人で庭を歩く。本を読む。花を眺める。そんな時間が、セドリックにとって何よりも楽しみになっていった。けれどリリアは、とても危なっかしい少女だった。ある日、庭を走っていたリリアが、石につまずいた。


「きゃっ!」


セドリックが振り返る。

リリアが地面に倒れていた。


「リリア!」


助けに行こうとする。

けれど、身体が思うように動かない。走ろうとすると、すぐに息が苦しくなる。足がもつれる。その間にも、アリシアが駆け寄っていた。


「リリア、大丈夫!?」


「うん……」


リリアを抱き起こすアリシア。セドリックは、その光景を見つめながら拳を握った。


――僕が助けてあげたかった。


けれど、自分にはそれができなかった。別の日にも、リリアが木の枝に引っかかって転んだ。またアリシアが駆け寄った。そのたびに、セドリックは悔しかった。


ある晩、セドリックはアリシアに相談した。


「アリシア」


「なに?」


「僕……リリアを守ってあげたい」


アリシアは少し驚いた顔をした。


「うん」


「でも、僕は身体が弱いから……リリアが転んでも、すぐに助けに行けない」


セドリックは俯いた。


「それが……嫌なんだ」


しばらく黙っていたアリシアは、ぱっと顔を上げた。


「じゃあ、まず健康にならなくちゃ!」


「……健康に?」


「そう!」


アリシアは指を一本立てた。


「いっぱい食べる!」

「よく寝る!」


「うん」


「それから、無理しない程度に運動!」


「運動……?」


「私が一緒にやってあげる!」


こうしてアリシアによる、セドリック健康計画が始まった。グランベル領で採れた野菜、新鮮な肉、魚、穀物、栄養のある食事をきちんと食べるようになった。そして、毎日少しずつ歩く。体調の良い日は庭を歩き、慣れてくれば少しだけ走る。


「今日は昨日より遠くまで行けた!」


「本当だね!」


「でも疲れた……」


「じゃあ今日はここまで!」


無理はさせない。少しずつ、一歩ずつ、その積み重ねだった。やがて、セドリックの身体は、少しずつ丈夫になっていった。以前なら一日寝込んでいたような疲れも、翌日には回復するようになった。


走る距離も伸びた。そしてある日、庭で転んだリリアのもとへ、セドリックが誰よりも早く駆け寄った。


「リリア!」


「セドリック……?」


「大丈夫?」


「うん」


リリアは笑った。その笑顔を見て、セドリックの胸が温かくなった。


――守りたい。


その気持ちは、いつしか単なる友情ではなくなっていた。リリアが笑えば嬉しい。リリアが悲しそうにしていれば、胸が痛い。リリアが誰かと楽しそうに話していると、なぜか少し寂しい。


そしてリリアもまた、セドリックを特別な存在として見つめるようになっていた。


  ◇


セドリックがグランベルへ療養に来て、五年が過ぎた。十歳になったセドリックは、すっかり健康を取り戻していた。


公爵家へ戻る日、別れを惜しむリリアを見て、セドリックは決意した。


「リリア。僕、必ず君を迎えにくる」


「……本当?」


「約束する」


二人は小指を絡めた。


「約束」


セドリックは公爵家へ戻った。そして、帰宅して間もなく、父である公爵の執務室を訪れた。


「父上、お願いがあります」


「言ってみなさい」


「僕は、リリア嬢との婚約を望みます」


公爵はしばらく息子を見つめた。


「……グランベル伯爵家の次女か」


「はい」


「お前は本気なのだな?」


「本気です」


公爵は考えた末、首を横に振った。


「認められない」


「……なぜですか?」


「お前は三男とはいえ、公爵家の人間だ。グランベル伯爵家も名門ではある。だが、リリア嬢はグランベル家の跡取りではない。家同士の釣り合いを考えれば、認めてやることはできない」


セドリックは唇を噛んだ。


「……分かりました」


セドリックは頭を下げた。それでも諦めなかった。それから数年、アリシアが第二王子フェリクスの婚約者に決まった。それをきっかけに、グランベル家では領地を継ぐ者がリリアへ変更された。


リリアがグランベル家の跡取りとなったことで、ようやく公爵も二人の婚約を認めた。セドリックは、ようやくリリアとの婚約を結ぶことができた。


それからさらに時が流れ、ある夜セドリックは父から執務室へ呼ばれた。


「座りなさい」


「はい」


公爵は静かに息子を見る。


「お前は、自分からリリア嬢との婚約を望んだな」


「はい」


「ならば、一つだけ覚えておけ」


公爵の声は厳しかった。


「これから先、ヴァレンティス公爵家とグランベル家が対立することがあるかもしれない。それでも、お前はリリア嬢を守りなさい」


セドリックは父を見つめた。


「公爵家と敵対することになったとしても?」


「そうだ。お前が自分で選んだ相手なのだから」


セドリックは深く頭を下げた。


「……はい」


この時の言葉を、セドリックは生涯忘れなかった。


  ◇


そして、王城で開かれたパーティー。グランベル一家とともに出席したセドリックは、そこで第二王子フェリクスの婚約破棄宣言を聞いた。


「私はアリシアとの婚約を破棄する!」


会場がざわめく。

そして次に、耳を疑う言葉を聞いた。


「そして、私はリリア嬢を新たな婚約者とする!」


セドリックの胸が冷たくなった。隣を見る。リリアが震えている。けれど次の瞬間、リリアがセドリックの手を握った。


ぎゅっ。


小さな手。

その手をセドリックも強く握り返した。


「大丈夫」


小さく囁く。


「僕がいる」


リリアは頷いた。

そしてセドリックは、一歩前へ出た。

王へ向かって、深く頭を下げる。


「ヴァレンティス公爵家の人間としてではなく」


静かな声が謁見の間に響いた。


「リリアを愛する一人の人間として、申し上げます」


顔を上げる。


「グランベル家が、自らの領地と家族を守る決断をしたのなら」


リリアの手を握る。


「私は、その意思を尊重します」


そして心の中で。


――たとえ、父上と対立することになったとしても。


――たとえ公爵家を敵に回すことになったとしても。


――僕は、リリアを守る。


そう誓った。


やがて宣言通り、グランベル領は独立した。それに伴い、フェリクスとの婚約を失ったアリシアは、グランベル家の跡継ぎへ戻ることになった。リリアも、それを喜んだ。


「お姉ちゃんと一緒に、この領をもっと良くしたい」


「うん」


セドリックも頷く。


「僕も手伝う」


二人で手を取り誓った。

アリシアを、そしてこれからのグランベルを支えていくことを。


  ◇


そして一年後の春、リリアとセドリックの結婚式が行われた。


式の準備が整う中、セドリックはリリアの控室へ向かった。扉の前に立つ。深呼吸をする。そして扉を開けた。


「リリア――」


その瞬間。


セドリックの視界に、純白のドレスを身にまとったリリアが映った。淡い銀色の髪。薄紫の瞳。幸せそうに微笑む姿。その瞬間、頭の奥で何かが弾けた。


  ◇


高校の図書室。


「すみません」


一冊の本を取ろうと手を伸ばした時、同じ本を取ろうした少女の手か重なる。


目の前の少女を見ると、顔を真っ赤にしていた。自分も顔が熱くなる。


「どうぞ」


「いえ、先にどうぞ」


「でも……」


「ふふっ」


「……ふふ」


お互い譲り合っしまい、その姿に二人で笑ってしまった。話をしてみると、好きな本が同じでとても気が合い、それから図書室で会うことが増えた。本の話、学校の話、将来の話。話すほどに、会うたびに、彼女のことが好きになっていった。


高校の卒業式、震える手声で告白した。


「ずっと好きでした」


彼女は泣きながら笑った。


「私も好きでした」


そして、付き合い始めた。大学を卒業後、二人とも地元の企業へ就職した。どんなに忙しくても、休みのたびに会ってデートを重ねた。


就職から数年が経って、お互いの生活が少し落ち着いた頃、二人で貯金をして結婚を決めた。


「式場、ここがいい」


「じゃあ、ここにしよう」


笑いながら予定を立てた。とても幸せだった。結婚式まで、あと一か月、そんな時だった。地面が大きく揺れた。立っていられないほどの揺れに、嫌な予感がした。彼女の家へ向かった。


そして目の前にあったのは、崩れた家だった。


「美紅!」


必死に名前を呼んだ。


「美紅! どこにいる!?」


瓦礫を退かす。手が傷だらけになっても、雨が降っても、何度も何度も名前を呼んだ。


そしてようやく見つけた、瓦礫の下から見えた美紅の姿。けれど身体は冷たかった。


「……美紅?」


返事はなかった。


「嘘だ……」


抱き上げる。


「美紅……」


その後のことは思い出せない。


――そして。


目の前にいるウェディングドレス姿のリリア。その姿を見て、震える唇から一つの名前がこぼれた。


「……美紅」


リリアの瞳が大きく見開かれた。


「……え?」


セドリックの頬を、涙が伝う。


「美紅……」


もう一度、今度ははっきりと。


「僕は……ずっと君を探していたんだ」


リリアの胸が大きく鳴った。美紅、それは前世の私の名前。


「……あなた」


リリアの瞳から、涙が溢れた。


「あなた……悠真なの?」


セドリックは頷いた。


「ずっと……分からなかった。どうして初めて会った時、君を見て泣いたのか」


五歳のあの日、二人が初めて目を合わせた時、理由も分からず流れた涙。


「あの時から……僕は君を知っていたんだ」


リリアも涙を流しながら笑った。


「私も……」


そして二人は抱きしめ合った。

強く、二度と離れないように。


「会いたかった……」


セドリックの声が震える。


「ずっと、会いたかった……」


リリアは彼の胸に顔を埋める。


「もう、離れないで……」


「離さない」


セドリックは強く抱きしめた。


「今度こそ、絶対に離さない」


前世では、結婚式を一か月後に控えたところで、二人の未来は突然奪われた。けれど、今度は違う。長い年月を越えて、二人はもう一度出会った。


幼い頃には理由も分からなかった涙。

あの日から続いていた切ない想い。

それらすべてが、ようやく一つにつながった。


扉の外では、アリシアが二人を待っていた。


「リリア、そろそろ――」


扉越しに声をかける。


すると中から泣き笑いの声が聞こえた。


「お姉ちゃん……!」


アリシアは少し驚いて、それから優しく微笑んだ。


「……ふふ。幸せそうね」


扉の向こうでは、二人が何度も涙を拭いながら、互いの手を握っていた。


今度こそ、誰にも引き裂かれない。


誰にも奪われない。


二人の人生が、ここから始まるのだった。

やっと、恋愛物が書けました。

…うん?恋愛物と言っていいのかなこの話…。

切ない系ですが、とりあえず恋愛物ということで、よろしくお願いします。


恒例のchat GPTによる、人物紹介イラストです。

挿絵(By みてみん)

なかなか思うイラストにならず大変でした。

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