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悪役令嬢に転生したけれど、とりあえず放置していいですか?  作者: シエル


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Ep.9 原作が動き始めました





入学式は無事に開始された。



淑女の微笑みを貼り付けて、じーっと微動だにせず、ただただ黙って座り続けた。


……ええ……例え学園長の話がどんなに長かろうと、在校生代表がちょっとナルシストっぽい人だと思ったとしても。



その点、クロード様は素晴らしかった!



新入生代表の挨拶をすると聞いた時、さり気なく『堅い話が長いと聞いているほうも飽きると思うんですよねー』と伝えた甲斐があり、端的に、それでも伝えるべきことはきちんと伝えるという見事な出来だった。



式が終わり生徒たちが自分たちの教室へ移動を始めたけれど、微動だにしなかった弊害で体が硬直しきった私はなかなか動けずにいた……。


隣に座っていたフィリップ様は、動こうとしない私の様子に困惑している。



……すみません。放っといて先に移動してください。



そんなことを考えている内にクロード様が、オスカー様とセドリック様を連れて戻って来た。




「ベアトリス、どうしたの?教室へ行かないの?」



「……行きたいのですが、緊張で体が強張ってしまって……」




動こうとしない私を不思議そうな顔で見つめながら、クロード様は小首を傾げた。



……あざとい!!あざと過ぎる!!



さすがに周囲の目を気にして微動だにしなかったら体が動けなくなっちゃいました!とは言えず、無難に『緊張』で誤魔化す。


側近三人衆からは、心なしか呆れたような視線を向けられている気がする……。



クロード様は顎に指を当て、少しの間沈黙すると急ににっこりと満面の笑みを浮かべた。




「……なら、僕がベアトリスを教室まで連れて行こうか」




連れて行く……連れて行くとは?



脳内がはてなで埋まり、恐る恐る問い掛けてみた。




「……連れて行く、とはどうやってでしょうか?」



「もちろん、こうやってだよ」




私の問いに対し、クロード様は笑みを崩さずに両手を広げてお姫様抱っこの形を取ってみせた。



……いや、絶対に無理!!乙女的にも体重とか気になるから!



おまけに移動中の注目度が抜群過ぎる!一体何の公開処刑ですか?




「……それは遠慮致しますわ。大丈夫です。すぐに動けるようになると思いますので」




淑女の微笑みをフル活用して断固拒否!すると、クロード様は残念そうに眉尻を下げて「そっかあ……」と呟いた。


しょぼんと垂れ下がる犬耳の幻覚が見える気が……。



何とか無理やり体を動かして、全員で教室まで移動を始めた。




私たちはSクラス。


成績がトップクラスの者しか在籍出来ないから、みんな優秀な人たちだ。



クロード様や王太子妃候補の私はもちろん、側近たちもSクラス在籍が望ましい。



けれどその中で、オスカー様は能力値を剣術に全振りしていたせいでSクラスに入るには学力が足りなかった。


そこで、クロード様たちのスパルタ指導……もとい『勉強会』という名のオスカー様にとっての地獄の日々が開催された。



その甲斐あってオスカー様も無事にSクラスに入ることが出来たのだ。


……黒い笑みを浮かべたクロード様とフィリップ様コンビによる指導を見て、心からベアトリスが優秀で良かったー!と思ったのは秘密だ。



——そして、Sクラスには『彼女』も在籍しているはず……。



教室に一歩踏み入れると、視線が一斉に注がれたのを感じる。


それを『気にしてませんよー』と装って、クロード様たちと近くの席に着いた。



基本的に学園側でクラスの編成は行われるが、教室内の席までは指定されていない。


他のクラスは分からないけれど、最も優秀なSクラスの者がくだらない些事で揉め事を起こすことはないだろう——という学園側の『信頼』と、遠回しな『牽制』なんだと思う。




さり気なく視線だけで教室を見回すと——いた。



私たちとは反対側の前の席に座り、数人の人に囲まれている一人の女生徒————。



ブラウンの貴族令嬢らしくないセミロングの髪、桃色の瞳、少し幼さのある顔立ち——間違いない、彼女だ。



————アイリス・シュプリーム子爵令嬢。




シュプリーム子爵とメイドの間に生まれた庶子で、当時使用人を孕ませたことを知った正妻の子爵夫人が激怒(いや、当然だよね)。



屋敷から追い出され平民街でアイリス嬢を出産し、そのまま平民として暮らしていたけれど、二年ほど前に『光属性魔法』が発現したことで聖教会から『聖女』に認定された。


そのことを知った権力欲の強い子爵が、実の娘だと申し出て引き取られることとなったのだ。



……やはり原作の設定が全く分からないのは不安だったから、お父様にお強請りして公爵家の『影』を貸して貰った。



せめて分かる範囲でアイリス嬢の情報は必要だったからね。


外見も知らないままじゃ避けるにも避けられないし。



ふと教室の扉付近に目をやると、取り巻きに囲まれたシュバルト公爵令嬢が扇子で目元以外を覆い、分かりやすく鋭い視線をアイリス嬢へ向けていた。


……私よりもよっぽど悪役令嬢っぽいから、ぜひ交代して欲しいんだけれど。



しかし彼女は、何が気に入らなくてあんなに睨んでいるのか。



元々下位貴族を見下している節があるけれど……自分じゃなくてアイリス嬢が囲まれていることが不満なのかな?


不特定多数が寄って来ないなら、それはそれでいいことだと思うんだけれど。



たまに金魚の糞のように付いて来る令嬢がいると、本当に困る。


日本人固有スキルの『遠回しに拒否』が通じず、クロード様たちに何度助けられたか……。




「ベアトリス?」




遠い目をしながら過去の救出劇を思い出していると、クロード様が覗き込むように顔を近付けて来た。



近い!近い!!



クロード様はたまにこうやって距離感を間違える時があるのだ。




「……クロード様。また、お顔が近過ぎますわ……」



「うん、ごめんね?ベアトリスがまたどこかへ意識を飛ばしていたから、ついね?」




……気のせいでなければ、『また』と言われなかっただろうか?



キラッキラ王子様スマイルで、こてんと首を傾げながら「ごめんね」と言われたら許さざるを得ないと思うのは、私だけでしょうか?


いや、そんなはずはない!その証拠にクロード様の後ろにいる令嬢たちの頬が赤く染まっている!



いつものことなので微笑みはキープしつつ呆れたような視線を向けていると……。




「あの、王太子殿下でいらっしゃいますか?」




突如声を掛けて来た方へ視線を移すと——アイリス嬢が立っていた。



先ほどまで彼女を囲んでいた人たちは遠巻きに戸惑った表情を浮かべ、シュバルト公爵令嬢は驚きで目を見開いている。


……公爵令嬢としてどうなんだろう?と思わなくもないけれど、気持ちは分かる。



クロード様は『王族』だ。


学園内だから『近付いてはいけない』とまでは言わないけれど、それでも身分が下の者から気軽に話し掛けていい、ということではない。



本来、王族や貴族は誰かの紹介なしに身分が下の者が理由もなく声を掛けるのはマナー違反なのだから。




「……そうだが」



「良かったです。間違いだったらどうしようかと思いました!」




明らかに怪訝そうな顔をしているクロード様を前に、アイリス嬢はほっとしたような笑みを浮かべている。




「初めまして。私、アイリス・シュプリームと申します」



「……シュプリーム……シュプリーム子爵家の令嬢か」




クロード様のいつもよりも低い声に対して、弾むような声で「はい!」と満面の笑みを浮かべているけれど……この子、心臓に毛でも生えているのか?


私ならビビって逃げ出したくなるよ。




……てか、側近衆は何をしてるんだ!



こういう時こそ、君たちの出番でしょ!?





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