レオノール・エルグランを派遣せよ 6
怒りなのか混乱なのか、自分でもどういう感情か分からない。
思考は追いつかないが、無性に苛立ちが募ってレオノールは二人を交互に見やった。
カナリーはともかく、クラウディオは変わらず顔を伏せている。
「クラウディオ様、聞いてるんですか!!?」
「う……ン……その声は……レオノール? 何故、ここに……」
勢いのまま机を回り込んで、ガッとクラウディオの肩を掴むと、彼は頭を振って視線を定めた。
何かを掴み損ねた手が宙を泳いだまま、口元をぼんやりと拭う。
「私がいる理由なんてどうでもいいんです! これは! カナリー嬢がここにいるのは、どういう事情なんです」
「は? カナリー嬢が……? 待て、今は何刻だ? どうしたんだ、その格好は?」
クラウディオは驚いたように立ち上がろうとして、再び椅子に尻をついた。ガタンと椅子の脚が音を立てる。
「もしかして、立てないんですか? まさか、腰が抜けて?」
「いや……? おかしいな。力が」
クラウディオは机に手をついて、顔をしかめた。
本当に身体がふらつくらしい。
「待って。大丈夫ですか……?」
レオノールはつい、心配になってクラウディオの背に手を当てる。
すると、机の死角に入っていたカナリーが、好機とばかりに立ち上がり、一目散に扉を目指して走り出した。
しかし、そうは問屋が卸さない。
レオノールは手近にあった燭台を掴み、振り向きざまに投擲した。
灯っていた炎は風圧で消え、残った蝋燭はまるでなかったかのように潰れた。
燭台の尖った先端が、吸い込まれるような滑らかさで、木目の扉に突き刺さる。
バタン!
その勢いで扉も閉まった。
「ヒャア!」
「逃がさない。次逃げたら、当てるよ」
鋭く、警告を放つ。
カナリーはなすすべなく立ちすくむ。
「あ……」
目頭に力を入れて睨みを利かせれば、カナリーはブルブルと震え出してその場に頽れた。
「その、私は……どうか、お許しを」
涙を流しながら謝罪を口にし始めたので、そちらは一旦、捨て置く。
「くっ……いったい、何なんだ。俺は……寝ていたのか?」
クラウディオは眉間を指で押さえながら呟いた。
たった今この部屋に辿り着いたばかりのレオノールも、起きた出来事をきちんと把握できてはいない。
けれど、状況の欠片を繋ぎ合わせれば、うっすらとだが輪郭が見えてくる。
レオノールはツカツカと窓に歩み寄ると、大きく窓を開け放った。
涼しい風が吹き込み、滞留していた甘い香りが霧散する。
「催眠系の類かもしれませんね、あの子も吸っているからそんなに強いものじゃないと思いますけど」
レオノールの声には、今にも舌打ちせんばかりの苛立ちが滲んでいた。
衝撃から、驚愕。徐々に理解が追いついてくるから、余計に腹立たしい。
「……そうか、ここのところ疲れていたからな。なるほど、俺が迂闊だった」
クラウディオも少しずつ飲み込めてきたようだ。
小さくうなずくと、手こそ机から離れなかったが今度こそ腰を上げた。
「カナリー嬢、これはどういうことなのか、説明を」
「説明など、いらない。……誰かいないのか!?」
クラウディオはレオノールの言葉を遮るように口を開いた。




