レオノール・エルグランを派遣せよ 2
他の人間の生死は不明だ。
騎士たちの証言によると、敵の攻撃は予期しない場所からもたらされたらしい。
ノーキエの使節団は国境を超え、まもなくノーキエ側の警備部隊に引き渡される予定だった。
しかし、前泊地から数キロのブラダナスの森にて、不可思議な大穴に遭遇した。
その大穴にアルヴァロが大いに関心を示したのだそうだ。
「それは”マナ溜まり”と呼ぶべき現象です。公の研究で明らかになってはいませんが世界の各地にあり、魔王が死滅しても魔物が根絶せずに生き延びているのはそのためだろうとの説があるほどです」
たった一人の騎士、コルトと共に逃げ延びたルイスは悲しみと恐怖に打ちひしがれながらも、研究者の一人として堂々と語った。
アルヴァロは一行の先頭で、ルイスは後列について進行していた。
忠告するには位置が離れ過ぎていた。
気づいた時には大穴から亀裂が走り、使節団とその護衛、騎士団の大半が消えていたという。
「運良く難を逃れたものの、周囲には複数の魔物が出現し、皆散り散りになりました……」
その結果、生存者はたった2人となった。
近隣の街で助けを求め、王都に報せが届いた。
あの日、城下街でセレスに呼び出された直後、クラウディオは即座に救出隊を組織し、派遣した。
入れ替わりに保護されたルイスと騎士1名が帰還し、聞き取り調査が始まる。
現在はノーキエと連携を取って、エルグラン側と合流する形で先遣隊を派遣するよう要請しているとのことだが、そこで問題が浮上した。
「ありがとう。でも、今日はいいや。そんな気分じゃないのよね」
ノーキエ国王は、エルグランが使節団を護衛している最中に起きた遭難事故の責任を持ち出して騒いでいるらしい。
レオノールはメリッサの心遣いをやんわりと断った。
差し出してくれたバスローブを羽織って、湯殿を後にする。
もう時刻はすっかり夜だ。窓から見える西空には陽光の代わりに星の光が煌めき始めていた。
事件が起きてから5日間、ずっとこんな進展のない毎日が続いている。
クラウディオは連日の会議と交渉。
レオノールだけは基礎教養の学習が再開され、城の敷地内ならどこへ出るも自由の身になった。
けれど、とてもではないが、胸が晴れない。
「自分のとこの護衛だっていたのにさ。エルグランに責任を求めるなんておかしくない? そんな奴、黙らせればいいのに」
ドレッサーの前に座るよう促されたので、腰をかけるついでに腕を振って殴る動作をしてみせた。
もちろん、相手は鏡だ。
「私には分かりかねますが、国同士の関係はいつでも頭の痛い問題だと伺っております」
温和なメリッサは小さく笑いながらも宥めてくれる。
当然、レオノールも理解している。
殴って解決する国際問題など一つもない。
「でもレオノール様のお気持ちもお察しします。せっかくクラウディオ様とお心が通じ合ったのに。ほとんどを執務室でお過ごしですものね」
「まあ、それもまた悩ましい問題なんだけど……」
あの日、乗馬の勝負に負けてから、レオノールの身体はクラウディオに対して特殊な反応を示すようになった。
クラウディオはそれを「恋」だと説明し、彼自身もレオノールに恋心を抱いていると伝えてくれた。
思い返しても頭に血が上るような甘酸っぱい思い出の1日だ。
ずっと嫌われ、疎まれていたレオノールには都合の良すぎる展開だったが、やっぱりそう上手くことは運ばないようだ。




