忍び寄る悪意 2
「殿下、連れて参りました」
不意に背後から声を掛けられた。
思考に没頭していて遅れを取ったが、誰なのかはわかっている。
立っていたのは黒髪の騎士、エルネスト・ガライ(20歳)。
この王宮騎士団に所属し、抜きん出た剣技で副団長の地位に就いている。
クラウディオとは学院時代からの友人でもある。
エルネストの冴え冴えとした黒い双眸を見返すと、幾ばくか冷静さが戻るようだ。
「たった一人か? しかも見慣れない顔だ」
「王族がご成婚された翌日は本来、祝日です。非番の者は皆、酔い潰れて出てきません。唯一応じたのはこのセレス・アルバレスだけです」
エルネストが半身を引くと、長い銀髪が目を惹く青年が首を垂れた。
「セレスは先の魔王討伐の褒章に騎士団への入団を希望し、本日付で配属されました。お目通りは明日の予定でしたが、丁度良かろうかと連れて参りました」
「セリス・アルバレスです。よろしくお願いします」
セレスは一見すると、青年のようなスラリとした容姿の持ち主だった。
身につけているものはズボンと革製の貫頭衣で、騎士団からの支給品だ。
だが、オーダーメイドではないため、ややゆとりがある。
目の高さからして、身長は170センチ程度だろうか。
実際よりも小柄に見えるタイプだ。
祝賀の翌日も功績に酔いしれず、機動性を保っている姿は好感が持てる。
「覚えている。アルメリアの出身だそうだな。騎士団に魔法の使い手はいない。期待しているぞ」
腕前は定かでないが、このセレスは魔法と剣を融合させて戦う能力を持っているらしい。
魔法を使える者の多くは北西の地で生まれ、小柄な者がほとんどだと聞く。
普段と変わらず、抑揚のない声だった。
けれど、幾ばくかの好感を示して労うと、意外な返答がある。
「はい、レオノール妃と同郷です。覚えていてくださって光栄です」
言わずとも、忘れたくても忘れられない。
妃の名前を持ち出されて、クラウディオは内心で舌打ちをした。
「失礼しました」
「いやーーでは、折角だ。腕を見せてもらおう。エルネスト」
しかし、態度にも出ていたらしい。
不機嫌を目敏く悟られて、謝罪を手で制す。
セレスに非はない。
名を呼ぶと、エルネストがセレスに木剣を差し出した。
軽く打ち合うために、土の上へ移動を促す。
セレスは浅く頷いて付き従った。
あまり口数の多い質ではなさそうだ。
無駄口を嫌うクラウディオの目には
これも、好ましく映る。
「いつでも打ち込んでくると良い」
向き合い木剣を向けると、急にセレスの雰囲気が変わった。
徐々に質量を増す、殺気にも似た覇気が空気を重くする。
ただならぬ気配に応じるべく、クラウディオも息を詰めた。




