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「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚  作者: きぬがやあきら


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4/8

プロローグ 4

「なんであんなに怒るかな~。怒る? 怒るか。プライド高そうだもんね……」


 一人でごちながら、レオノールは卓上のワインボトルを持ち上げた。


 クラウディオがあおったグラスに、そのまま液体を注ぐ。


 新たに夫婦となった二人は、初夜の晩に盃を交わす慣わしだ。


 トポ……と空気の抜ける音と共に、芳醇な果実の香りが漂った。


(ん……良い香り。高級そう)


 グラスをくゆらせながら、腰を上げる。


 窓辺へ寄って、グラスを月明かりにかざすが、色合いまではわからない。


 くるりと反転し、扉へ向けてグラスを目線の上に掲げる。


「乾杯!」


 拒絶され、出ていった背中に、声は届かない。


 十二分に承知した上で、堂々と乾杯の音頭を取った。


 レオノールはクラウディオと同じグラスをあおり、一気に飲み干す。


「これで私と貴方は正式な夫婦です。クラウディオ様」


 誰に見せつけるでもないが、にっこりと、自分史上で最も優雅な微笑みを浮かべてみせた。


 勇者レオノールは強き女だ。


 冒険のどんな局面も、勇猛果敢に乗り越えてきた。


 今さら、夫ひとりに背を向けられたくらいで、傷つくような繊細さは持ち合わせていない。


 レオノールは己の選んだ結婚を後悔しない。たとえ一方通行であろうと、契りは契り。


 これは自分の意思で選び取った未来だ。


 無償で全てを受け取った訳じゃないし、レオノールが差し出したものもある。


(そうだ、落ち込んでも仕方ない。良い方向に捉えよう。現状で嫌われているなら、これ以上悪くなることもないでしょう)


 そう割り切ると、胸が軽くなった。


 胸が軽くなると、思い出したように、ゴクリと喉が鳴る。


「それにしても、美味しいな、コレ。どうせもう戻って来ないだろうし、全部飲んじゃっても良いよね」


 およそ1分は佇んでいたが、すぐに気を取り直して、レオノールは再びソファに戻った。


 残りのワインで一人、晩酌を始める。


 味わいは濃厚で、果実味の余韻が長く続く。


 いつもの安酒とはちがう、熟成されたフルボディの味わいだだ。


 窓の外には、薄雲を割って月が浮かんでいた。


 舌鼓を打ちながら朧月を見上げ、レオノールはこれからの新婚生活に想いを馳せる。


 その一方でーー


「護衛が執事長に報告しているところを目撃しました。クラウディオ殿下が自室に戻られたそうですよ」


 夜の闇に乗じて暗躍する、影があった。


「それは、そうでしょう。王命といえど、あの気高い殿下が甘んじて受け入れるわけがありませんわ」


 客人に用意された一室で、不穏な火種が燻り、揺れる。


 そうして誰も気づかぬところで、小さなさざ波は立ち始めていた。


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