新しい協力者 1
リュシエンナの口調は有無を言わせぬ厳しさを帯びていた。
「かしこまりました……っ」
シャヘルは青褪めて即座に踵を返し駆け出す。
だが途中で足を止め振り返ると、恨めしげな目でレオノールを睨みつけた。
「でも、私が望んでしたんじゃありません。私は先輩方から命じられただけなんです」
言い訳なのか、捨て台詞なのか、けしからん恨み言を残してシャヘルは去った。
「殿下より妃殿下に十分な配慮がない場合は即時報告をし、状況によっては処罰の権利まで与えられています。人員を入れ替えますので、ご安心ください」
リュシエンナは眼鏡の位置を整えつつ嘆息すると、頭を下げた。
ただでさえ礼儀作法に疎いのに、リュシエンナの態度が教師と臣下を行き来して、返し方がわからない。
「私としては可愛がってるつもりだったので複雑ですが、ご厚意に感謝します」
「使用人の躾は、女主人の威厳を支える大切な務め。王城勤めの使用人たちは厳選されておりますが、それでもきっかけがあれば悪心を起こす者もおります。あの者たちを増長させた責任は、妃殿下にもあるのです」
多分、この国で一番腕っぷしの強いレオノールにとっては、城勤めの誰もが小動物のようにか弱い生き物だった。
”凍てつく波動”を使えば猛獣をも縮み上がらせられる。
ちょっと怒鳴れば”咆哮”となり、手でも上げようものなら即死だ。
だから、優しくしてやらねばと考えていたが、リュシエンナの指摘もまた事実だ。
元勇者であっても、今は王太子妃なのだから。
「私が浅はかでした。ごめんなさい」
レオノールは頷き、反省した。
レオノールがきちんとシャヘルを導けていれば、あの子達は罷免されずに済んだはずだ。
「お分かりいただければ結構です。妃殿下は優雅さとはかけ離れていますが、お人柄と素直さは美徳だと思いますよ」
厳しく指導しながらも、合間にきちんと承認を挟む。
リュシエンナは優秀な教育者だった。
彼女の指導のもと、その日からレオノールは王太子妃たる人物の在るべき姿を学ぶこととなる。
そこからはまた、目まぐるしく状況が一変した。
身辺の人員を入れ替えるのだから当然だ。
侍女長を伴ったシャヘルが戻り、リュシエンナの叱責の後、各人に新しい配置が割り当てられた。
いきなりクビにされるわけでもなさそうだったので、その点はホッとした。
「メリッサと申します。至らぬところもあろうかと存じますが、精一杯お仕えいたします」
ほどなくして、淡い栗色の髪と目を持つメリッサがレオノール付きの侍女と決まった。
くるくるとした癖毛と大きな瞳はあどけなく感じられるが、真っ直ぐにレオノールを見上げる表情には誠実さがあった。
少々おっかないリュシエンナと比べると、どんな動作もいちいち可愛らしい。
イメージは森の子リスそのものだ。
「よろしくね、コリスちゃん」
「《《メリッサ》》とお呼びください、妃殿下。今後一切、おふざけは禁じます」
「はぁい……ベーレンドルフ夫人」
リュシエンナとレオノールのやり取りに、いきなり面食らったメリッサだったが、仕事ぶりは中々のものだった。
まず、メリッサはレオノールをダルマ姿から解放してくれた。




