貴方の妃でいるために 3
後ろ手で窓を開けるとカタン……と音を立てて外側に開いた。
入り込んだ外気は冷たいのにどこか水気を含んでいて、湿っぽい。
雨が降るのだろうか。
「行くな。そんな義務はもう、どうだっていい。この俺が行くなと言っているんだ」
レオノールがクラウディオとの結婚を望んだ際、王家には”エルグランの危機には国の切り札としてレオノールが立ち向かってくれる”だろうとの打算があった。
反対派もその確たる見返りがあるからこそ、認めざるを得なかった。
レオノールもそれを覚悟でエルグランとクラウディオに忠誠を誓い、夫となった彼の為に身を捧げると決めている。
圧倒的な戦闘力。
それが身分も後ろ盾もないレオノールが持っている、唯一無二の武器だった。
「頼むから、行くな。君が……俺を愛しているなら、行かないでくれ」
呼びかけに応じず、窓の桟に爪先を掛けると、クラウディオの声が僅かに掠れた。
哀願するような呟きに、心が震える。
愛してると言ってくれた。
行かないでと乞うてくれた。
きっと一時的な方便でなく、今のクラウディオはレオノールを愛してくれている。
でも、だからこそ行かなければ。
これからも妃として、彼の隣に立ち続けるために。
「愛しています。クラウディオ様、でも行きます」
一言で総てを託して、レオノールは窓枠に飛び乗った。
胸が痺れるほど甘く、切ない感触に後ろ髪を引かれながら、そっと振り返る。
蒼い双眸と絡むように見つめ合って、レオノールは笑った。
夜の闇に身を踊らせると、クラウディオの叫びが宙に木霊した。
悲鳴に近い叫びの内容は不明瞭だ。
けれども、届いた気がした。
だから、レオノールは窓から身を乗り出しているだろうクラウディオへ、笑って手を振った。
遙か上空には分厚い雲が空一面に広がって、月の明かりを遮っている。
思ったより風は強くない。
(……門衛を叩き起こして、武器庫を開けてもらおう。それと馬も)
レオノールは空中で身を翻して、大地に着地した。
どんな希望の明かりも、友もない。
初めての孤独な旅に、レオノールは身を投じようとしていた。
***
今回は出立を秘匿する理由がない。
レオノールが馬を引き、堂々と開門を迫ると、城門の門番は大慌てで桟橋を下ろしに向かった。
「そんな形でどこへ行くのさ」
寝巻きのまま、部屋を飛び出したレオノールは、武器庫に常備してあった騎士服を身に纏っていた。
身の丈は合っているが、男性とは体型が違うためフィットしていない。
ウエストはガバガバのためベルトで縛っても布の余りがひどく、ズボンも貫頭衣もシワシワだ。
胸元はキツくて動きにくい。
サイズの合わないソードベルトに借り物の大剣。
確かにあまり、いい格好とは言えない。




