上書きをしてくれないか 4
口調は尋ねているのに、クラウディオに待つ意思はなさそうだった。
レオノールも突然訪れたきっかけに動揺しそうになるが、拒否する気はない。
カナリーがこの唇に触れた姿を目撃して、どれだけ憤ったか。
(私がーー)
指先で顎をすくい上げられ、瞳を合わせる。
吸い込まれるような美しい紺碧に射すくめられて、心臓はドッドッと激しく脈打った。
クラウディオを初めて見た時に、彼を欲する欲望の火が胸に灯った。
手に入れることの意味をその時はまだ、真に理解できてはいなかったのだと思う。
拒絶されてもなお、夫婦としての縁が、レオノールの気持ちを満たしていた。
けれど今は、狂おしいほどの欲求がうねりを上げて全身を支配する。
(この男性は私のもの。誰にも渡さないーー)
恥じらいの気持ちなど、かけらも残らず吹き飛んでいた。
こちらを見据え、細められた相貌が色っぽい。
もう今は、彼の唇に触れることしか考えられない。
頬に落ちた髪を、左の指がそっとすくい、耳にかけてくれた。
レオノールからも両手を伸ばして、クラウディオの首に回す。
(クラウディオ様が欲しい)
彼の端正な顔が傾き、ゆっくりと近づいた。
「レオノール……」
名を呼ぶ声に熱が込められた気がして、胸が震える。
瞼を落として、その時を待つ。
やがて、クラウディオの柔らかな唇が、レオノールのそれを覆った。
***
――キスって、こんな感触なんだ。
ふわふわで、しっとり吸い付くような質感にうっとりと身を委ねる。
クラウディオの唇が触れた瞬間、初めて実感する幸福だった。
柔らかいだけじゃない。心を満たす多幸感に、じんわりと目頭まで熱くなるようだ。
そうやって、唇が触れた喜びをかみ締めていると、ふっと温もりが遠のく。
残念に感じたのも束の間だ。
腰を抱かれ、少し角度を変えて再び塞がれる。
「ん……」
一度離れていくことで、もっとと欲する気持ちが加速した。
惜しんだところに再び柔らかな感触が与えられれば、更なる歓喜が湧き上がる。
何度も角度を変え、啄むように重ねられ、頭がクラクラしてくる。
徐々に大きくなる互いの呼吸音だけが耳に響いて、次第に何も考えられなくなった。
(ああ、こんなに気持ちいいなんて。クラウディオ様が好き。もっと、ずっとキスしていたい)
もっと欲しい、もっとクラウディオに満たされたい。
理性もなくなり、夢中で貪る。クラウディオが頭を引けば、レオノールから追い縋った。
もっと食べたいし、食べて欲しい。
このまま全部、食べられちゃってもいいかも……。
「レオノール。時間をかけてと言っておきながら、性急かもしれないが……」
息継ぎの合間に、クラウディオが囁く。甘さを孕んだ低音が、ぞくりと体の芯を刺激した。
「はい。……もちろん」
吐息の熱さに、クラウディオが何を望んでいるのか。それすら、わかった気になる。
恥じらいを感じる間もなく頷いていた。




