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2 新たな人生

ごめんなさい。今回文字多めで読みにくいです。




 それから二日に渡る精密検査を経て、無事退院した私は自宅へと戻って来た。

 もっともアラサーのシングルマザー、『中井和泉(いずみ)』としてではなく、花も恥じらうJK、『永戸愛奈ながとあいな』としてではあるが。


 それはともかく、私の父(と呼んでもよいのか、いまだに迷うのだが)永戸琢磨ながとたくまは、都内の中堅IT関連企業に勤めるサラリーマンで、都内にあるマンションの五階の一室にきょを構えていた。

 3LDKのごく一般的な間取りに、一人娘の私のために子供部屋(今は勉強部屋という、まわしい呼び名に変わってはいるが)も用意されていた。


 あの日、かつて『愛奈あいな』と呼ばれる少女であった人物の記憶が私の意識下に流れ込んできた時から、父のこと母のこと、私に与えられたこの部屋や、その他様々なことも、全てすんなり受け入れることが出来るようになっている。


 もっとも、本当の?『愛奈』なる人物が、今はどうなっているのか私には知るよしもない。

 いつかの時代にどこかの場所に生まれ変わって、かつて自分が『愛奈』だった時の記憶などないままに、幸せに暮らしているのだろうか。

 それとも私のように、過去の記憶を保持したまま、別の人として暮らしているのだろうか。それとも、すでに彼女はこの世に居なくて…。


 ・・・いや、やめておこう。いくら考えたとて、それは今の自分にはどうしようもないことだ。


 それはさて置き、自分が生まれ変わったことを自覚したあの時・・・。

 同性だったこともあってか、意外とすんなりとそのことを受け入れることは出来た。

 これがもし男だったとしたら、さぞ混乱していたことだろう。あるべきところにあるモノがなく、あるはずのないところに見慣れぬモノがぶら下がっていたりしたら…。そう思うとゾッとする。

 しかしそれにしても、未だに一つだけ違和感がある。それはこの胸の大きさだ。


 自慢じゃないが、元の私、中井和泉は自他供に認めるほどに見事な貧乳。今では笑い話だが、敦史を身籠みごもった時、本当に母乳で彼を育てることが出来るのだろうか、などと真面目に悩んだほどだ。

 あくまで前世の自分と比べてのことであって、永戸愛奈が特に男達の妙な視線をくほどの巨乳、という訳ではないのだが。

(それでもなんだか肩がりそう、このカラダ・・・)


 まあ、そんなこと今は別にどうでもいいのだけれど、病院で目を醒まし、意識が戻ってからというもの、混乱した頭で色々なことを考えた。

 まず最初に考えたのはもちろん、敦史あつしのことだ。


 あの後、医師や看護師、両親たちが部屋を出て行き、やや落ち着きを取り戻した私は、サイドボードの花瓶かびんかたわらに、小さな卓上のカレンダーがあるのに気が付いた。


 それを手に取り、日付と共に目に飛び込んできた見知らぬ年号と西暦の数字を見た瞬間、私は卒倒そっとうしそうになった。なぜなら私は、自分が死んだ後、すぐに別の人間に生まれ変わるものとばかり思っていたからだ。


 カレンダーにしるされた数字は、私の死後からちょうど十年の月日が流れていることを示していた。だとすれば、敦史あつしは今十六歳、高校二年生になっているはずだ。もし元の私、中井和泉(いずみ)が生きているとすれば、アラサーどころか、アラフォーになっている計算だ。


  (女)神さまはあの時、選択肢の一つとして、前世の記憶を持ったまま、生まれ変わることが出来ると言った。けれど、そのことは他人に告げることはできない、という条件付きで。もちろんそれはあっくんにも。


 つまりもし、敦史と再会することが出来ても、自分が母親だったのだと明かすことは出来ない。けれど私が望めば、かげから彼のことを、その成長をそっと見守ることは出来ると言う訳だ。


 であれば、私が誰か全くの別の人の赤ん坊に生まれ変わったとしても、そこは上手く彼の母親に近い年齢になるように調整されて生まれ変わるのだろう、と勝手に思い込んでいた。

 それがまさか、植物状態の少女の身体に、その記憶を残したまま生まれ変わろうとは。

 しかもよく考えてみれば、今現在、永戸愛奈は現役バリバリの女子高生。


(ってことは…。ちょっと待って私、敦史と同じ高校二年生、同い年の同級生になってしまった、ってたこと?)


 そう気が付いた時、気が遠くなるほど動転してしまった。一体私は、どんな顔をして成長したあの子に会え、というのだろうか?



      ☆☆☆☆☆☆☆



「ほんとうに大丈夫?」

 不安気な顔で、つい先日から私の母となった人は、パジャマ姿で朝食に用意されたトーストを、不機嫌そうにもしゃもしゃかじっている娘の顔をのぞき込んだ。


「うん。たぶん」

「もう少し休んで、おうちで様子を見てからにした方がいいんじゃない?」

 明後日あさってから始まる高校二年生としての新学期を前に、母は心配そうに言った。


 私が退院して家に戻ってからまだ三日。検査の結果、主治医の林先生はもうどこも悪いところはない、と太鼓判たいこばんを押してはくれた。  

 が、それでもやはり母は心配らしい。


「うん。でも、みんなから勉強も何もかも遅れた分、早く取り返したいから」


 そう答えた私の気持ちはうそではない。しくも、もう一度高校生から人生をやり直すことになってしまった私は、十年後の今のこの世界に生まれ変わった。


 永戸愛奈のこれまでの十六年間の記憶が、私、中井和泉(いずみ)の記憶にプラスして上書きされたおかげで、それほどの混乱はないものの、知らないうちに年号が変わっていたり、得体えたいの知れないウイルスのために、長期に渡って人々が外出できない時期があったりしたということには、少なからず驚かされた。


 とにかく何とかして早くこの時代のことを理解して、少しでもこの世界に馴染なじんで対応していかなければ。


 それにもう一つ。早くあっくんの、敦史あつしの足取りを追わなければ。

 あの時、(女)神さまはあなたの息子は無事だと言っていた。

 けれど、あれからすでに十年の月日が過ぎているのだ。今現在、彼がどうなっているのかはわからない。人の一生などはかないものだ。それは今、私自身が身に染みて感じていることだ。


 あの時六歳だった彼が、まさかすでに死んでしまって、もうこの世にいないなどということは考えにくい。が、それもまあどうだかはわからない。

 仮に生きているとして、幼くして両親を失った彼が、どのような生活をしているのか、つらい思いをしていないだろうか、不憫ふびんな目にってはいないだろうか、などと思うとキリキリと胸が痛む。


 とは言え、もし現在の敦史がつらく苦しい思いをしていたとしても、彼とおなどしの女子高生に生まれ変わってしまった今の私に、彼を助けたり、救ったりするすべなど、あるはずはないのだけれど。


 自室に戻って学習机の椅子いすに座り、ハンガーにるされた制服をぼんやりと見つめながら、明日から復学する学校の新学期を前に、取りめもなくそんなことを考えたりした。




今回もお読みいただきありがとうございます。

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