1(女)神さま?のお告げ
ここ、は…。 どこ…。
えっ? 待って、私、死んだの…。
――そうだ、あっくんはどこ! あっくん! あっくん!
「目が醒めましたか?」
その人は白く光り輝く絹のような、見たこともない衣装を纏っていた。
誰?
「私は人の縁を司るもの」
私の心の声に応じるかのようにその人は答えてくれた。
が、しかし、その顔は眩く輝く光によって朧気で、判然としない。
あっくんは、敦史はどこ⁉
縋るように、この「人?」に訊いてみた。
「あなたの息子はちゃんと生きていますよ。安心してください」
優しく、労わるような声だった。
だったら会わせて、敦史に会わせて!
「それは出来ません」
悲しげに目を伏せた、ような気がした。
どうして? あの子にまだ私が必要なの!
「残念ながらあなたはたった今、その天寿を全うし終えたのです」
やっぱり、私死んだんだ…
「あなたもわかっているでしょう。死んでしまった人間は、二度と生き返るとことはありません」
だけど、敦史はまだ六歳で、父親もいないし…、あの子には私が必要なんです!
「あなたの気持ちはよくわかります。けれど、こればかりはどうにもなりません。何人もこの理に抗うことはできないのです」
そんな… あっくん…
「したがってあなたは、これからまた新たに生まれ変わらなければなりません。本来ならば、死んだ人間が生まれ変わる際、当人に意思を確認することなどないのですが、今回はこちらにちょっとした手違いがあったために、特例を設けました」
手違い?
特例? なんの?
でもそれじゃ私、またあっくんと一緒に暮らせるんですか?
「先ほどお話した通り、それは出来ません。しかし、特例として、あなたには選択の機会が与えられました」
選択?
「そうです。ひとつは他の全ての人と同じように、前世の事は何もかも忘れ、別の人間として生まれ変わること。そしてもうひとつの選択は……」
☆☆☆☆☆☆☆☆
真っ白い天井を見つめている。
わたしはダレ?
ここはドコ?
・・・重たい思考がグルグルと頭の中を駆け巡る。
白衣の女が入って来て、部屋のカーテンを静かに開けた。窓際のサイドボードの花瓶に、少し枯れかかった花がそのまま生けてある。そこに、いつものように白いレースのカーテン越しに差し込んで来る朝日。
これもいつも通り、彼女はそこに静かに横たわる少女の姿を認める。しかし、今日はいつもとは少しばかり様子が違っていた。
彼女が視線を落としたその先には、数ヶ月ぶりに目を開き、蒼白くぼうっとした表情で天井を見つめている私が居たのだった。
不意に、白衣の彼女はその目に驚愕の色を浮かべ、身を翻すと、足早に部屋を出て行った。
「奇跡です」
背凭れ代わりに角度を付けた電動ベッドの上に、静かに身を起こした私の傍に立ち、医師は何度も同じ言葉を繰り返した。
その隣で感極まった様子の「私の母?」が、涙を浮かべて頷いている。
「よかった…。あいなちゃん、本当によかった…」
「愛奈!」
不意に、勢いよく病室のドアを開け、男の人が一人飛び込んできた。よほど急いで駆け付けて来たのか、薄っすらと額に汗を浮かべ、短髪のヘアスタイルは少し乱れ、襟元のネクタイも大きく曲がっている。
「祐子、愛奈は本当に…」
そう言って、目の前の妻を見遣った「私の父?」は、すぐにベッドに上半身を起こし、ぼうっとしている私に気が付くと、ふらふらとこちらに歩み寄って来た。
「よ、よかった…。愛奈、意識が、意識が戻ったんだな」
そう言ってじっと私の顔を見つめた。その時、私にはその人の顔が一瞬歪んだように見えた。
父が私に触れようと手を伸ばした時、
「娘さんはまだ頭が混乱している状態のようですから、あまり刺激しないようにお願いします」
医師が注意を促した。その言葉に、弾かれたように慌てて父は手引っ込めた。
私は静かに首を動かし、二人の方へ顔を向けた。そこには不安気に私を見つめる、四十半ばくらいの男女の顔があった。
――この人が私のお父さん。そして、この人が私のお母さん。
違う!
私の両親はこんな顔じゃない。私の母は・・・、晩婚だった私の父は・・・、こんなに若くはない。第一、私自身すでに結婚していて、子供にも恵まれていたはず・・・。
「鏡、鏡を!」
突然、私は思わず大きな声で叫んでいた。その場にいた人たちが鏡を探して慌てる中、機転を利かした父が、スマホのカメラを反転させ私に手渡してくれた。それを覗き込んだ私は、心臓が止まりそうになった。
「!!!」
嘘だ・・・。これは私ではない。それに私がこんなに若いはずがない。そう思った時、頭の中に、もう一人の「私」の、過去の記憶が早送りされた動画の映像のように、目紛しく一気に雪崩れ込んできた。
それは物心がついてからの十六年間、確かに目の前のこの二人によって、私が育てられてきたのだという紛れもない事実。そしてそれは、あたかも自分の意識の中に刷り込まれるかのように、私の潜在意識の奥深く、刻み込まれた。
その瞬間、すべてを理解した。
そう、私は死んだのだ。そうして今、この若い十六歳の女の子の中に生まれ変わったのだ、ということを。あの時、(女)神さま?が言っていた、もうひとつの選択。それは・・・。
前世の記憶を持ったまま、全く別の人間に生まれ変わること。
お読みいただきありがとうございました。
週一ペースでゆるゆると更新していく予定です。
お気に召しましたらしばらくお付き合いいただけると嬉しいです。
(今後は使っていなかった活動報告のページも活用していこうと考えております)




