エピローグ
花火の音が止み、祭りが終わる。
提灯の明かりが一つ、また一つ消えていき、遂には闇一色となった。
一方で、綸はボロボロの着物のまま、清蓮寺の自室で正座をしていた。
隣にいるのは、白羽。
何も考えていないような顔をして、同じくボロボロの姿で、ひな人形のように上品に座っていた。
「おい、お前ら」
綸たちの目の前に、仁王立ちの至の姿。
「はい、何でしょうか」
畏まった態度で、綸は返事をする。
「結果として、禍津桜神の呪いは消えた。だが、お前たちはとても危険なことをした。一歩間違えたら、お前ら二人とも死んでいたし、桜郷にも大災害が起きてたかもしれないんだぞ? それは解っているな?」
長い前髪の隙間から見える、刺すような至の視線に綸は縮こまる。
「……至様の仰る通りです」
「白羽、お前も解っているな?」
「うん、多分」
あっけからんと答える白羽に、綸はぎょっとする。
「こら! 白羽! ここは反省しているフリをしないと駄目だろう! 至さんを怒らせたら、どんな酷いいびりを受けるか……」
「……ほう、綸も反省してないのか?」
「い、いいえ! 滅相もない!」
慌てる綸と、動じていない白羽。そんな二人を交互に見ながら、至は嘆息する。
「まあいい。お前たちには、罰を与える」
「ば、罰!?」
思わず、身体が硬直する。至は邪悪な微笑みを浮かべ、綸の額に人差し指をあてる。
「綸は、これからも陰陽師を続けること。今よりもっと、色んな人を助けるために動くこと。修行もバシバシするぞ。早く一人前になって、俺に楽をさせろ。あと、白羽」
「はい」
「白羽もここで、作務をすること。掃除や料理もできるようになれ。俺の役に立て」
「えっと、それはつまり……僕は、ここに住んでもいいってこと?」
白羽が問うと、至はばつの悪そうな顔をする。
「……好きにしろ。二度は言わねえぞ」
そう言うと、顔を掻きながらそっぽを向いてしまう。
「綸! 僕、ここにいていいって!」
輝かんばかりの笑顔で、白羽が口にする。
「ああ、これからはずっと一緒だ! 白羽!」
綸も嬉しくなって、白羽の両肩に手を置いた。
「ほら、イチャついてんじゃねえ。さっさと風呂入ってこい!」
「痛っ! は、はい!」
至に背を蹴られ、慌てて立ち上がる綸。
「わあい、お寺のお風呂、初めて!」
白羽も立ち上がり、勢いよく部屋を出ていった。
部屋を出る手前——綸は立ち止まった。
「至さん」
「なんだよ」
「ありがとうございます。本当に、色々と」
「今更、礼なんていらねえんだよ」
「はい。でも、言いたかったんで」
「ニヤニヤしてんじゃねえよ。気持ち悪りぃな」
憎まれ口をたたく至だが、ほんのり耳が赤い。その様子にどこかほっとして、綸は表情を緩めた。
「……なんだか、一件落着って感じですね!」
後ろから聞こえてきた、愛らしい子どもの声。
ドキリとして振り返ると、そこには赤い着物姿の、小さなさくらの姿があった。
「さ、さくら! お前、何でこんなところにいるんだ!」
「あれ、忘れちゃったんですか? さくらはお兄さんに調伏されて、お兄さんの式神になったのです。いつでも傍にいるのは当たり前なのです」
得意げな顔をして、ふんぞり返るさくら。
「そ、そういうものなのか?」
「ええ。あと、あなた、言ったじゃないですか。さくらも、我儘を言っていいと。さくらはもっと、お兄さんたちと一緒にいたいですし、もっと甘いお菓子が欲しいのです」
愛らしく笑って、さくらは続ける。
「これからはさくらのために、毎日、おはぎを用意してください。そうすれば、陰陽師としての仕事を、少しは手伝ってあげるのです。あ、あと、さくらは最近、『かすていら』というものが気になっています。お兄さん、よろしくお願いしますね」
言い終わると、白羽の向かった先へ、ぱたぱたと走っていった。
綸はしばらくその場で身動きを止めた後——我に返る。
「……こら! さくら! 調子に乗るな!」
さくらの後を追い、綸も部屋を出ていく。
——ああ。なんて騒がしくて、それでいて幸せな人生だろうか。
明日、目が覚めても、どうかこのままで。
これからも、この幸せが、ずっと続くことを信じて。
彼らとともに、居られることを信じて。
了
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
少しでも、日常から解放されるひと時をお届けできていましたら、これ以上の喜びはありません。
もし本作を気に入っていただけましたら、前作の
「ダクスの女神」
もお時間のある際に覗いていただけると嬉しいです。
こちらもまた、違った雰囲気で楽しんでいただけるかと思います。
そして、また次の物語で皆さまとお会いできることを、心から楽しみにしております。
森松より、感謝をこめて。




