第12話 呪詛 弐
綸 様
秋気さわやかな季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
これを読んでいるということは、君は、また僕に会いに来てくれたってことだよね。
まずは、自己紹介から始めようか。
僕の名前は、白羽。年齢は十八になるよ。
僕はとある神職の家に生まれて、ちょっとした理由があって、花仙楼に住まわせてもらっているんだ。
朝菊たちのようにお客さんを取ることはない。ただの厄介者なんだ。
そんな中で、綸は僕に、三度も会いに来てくれた。妓楼の人ですら、僕に会いに来ることなんて滅多にないのに。不思議な人だね。
だから、それに甘えて、君と関わりを持ちたいと思った。僕は外の世界をあまり知らないから、君が教えてくれたら嬉しいな。
迷惑だったら、無視して構わないから。
また、会えることを願っています。
白羽
*
「これは……どう、返事をしたものか」
清蓮寺に戻った綸は、白羽の手紙を読み終え、独りごちる。
彼の見た目どおり、繊細で、整った字で書かれた手紙の内容は、思ったよりも短かった。
手紙から知れた、白羽の新しい情報。
十八歳で、神職の家の子で、ちょっとした理由があって、花仙楼に住まわせてもらっている。
——その、『ちょっとした理由』が、一番気になるんだが。
聞いていいのだろうか。いや、まだ聞くべきではないか。
白羽が綸に期待しているのは、外の世界の情報だ。身の上話は、もっと仲良くなってからにした方がいいだろう。
綸は筆記具を手に取り、机の上に置いてある便箋に向かう。
とりあえず、自分も簡単な自己紹介をした方がいいだろう。
——俺は、赤銅綸。帝都で医院を営む赤銅家の三男。帝都大学医学部に所属する学生だったのだが、ちょっとした理由があって、陰陽師見習いになることになった、と。
何だ、これは。
こちらも、『ちょっとした理由』の部分が、一番、気になる感じになってしまった。
「ええい! いいんだ! 俺が誰で、白羽が誰なんて——そんなことは!」
一人叫び、溜息を吐く。
どうして白羽が、男娼でもないのに妓楼にいて、しかも、普通の部屋ではなく——座敷牢の中で暮らしているのか。
たしかに、気になる。気にはなるが、もっと知りたいことがある。
白羽はどんな食べ物が好きで、どんな動物が好きで。何色が好きで、何をするのが好きなのか。
どうせなら、白羽の、『好き』が知りたい。白羽も言っていたではないか。綸の『好き』が知れるのが楽しみだ、と。
ならば、綸が外の世界で、好きだと思うものを教えよう。
そうすれば、きっと。
白羽も答えてくれるだろう。
*
綸は何とか文をしたため、床に就いた。
今日は、とても忙しい日だった。朝から馬場に付き合い、夜は妓楼で散々弄られた。
寺の高い天井を見上げながら、ふと、思う。
——人を好きになるって、何だろう。
馬場は、朝菊を諦めたみたいだが、きっとまた、すぐに他の人を好きになりそうだ。
綸の、白羽への思いは、何なのだろう。
こうやって、眠りにつく前。必ずと言っていいほど、脳裏に白羽の顔が浮かんでくる。
相手は男だし、正直、まだよく知らないし。
だが、白羽を一目見た瞬間から、その鮮烈な姿が、頭から離れない。
白羽と距離が近くなると、心臓の音が煩くなる。白羽からはほんのりといい香りがして、それを嗅ぐと頭の中がふわふわする。
着物からちらりと見える、白羽の細い手首。彼の肌は、冷たいのか、暖かいのか。しっとりしているのか、さらさらなのか——。
生々しい想像を繰り返してしまい、自分自身に嫌悪感を覚える。
なんてザマだろう。帝大生が一人の少年に執着するなど、あってはならない。いや、現在は休学中なのだが。それでも、こんなのは駄目だ。
綸が考えるに、これは恋ではない。これはもっと幼い、好奇心に似た、何かだ。
そこまで考えて、綸は、白羽に『あること』を言われたことを思い出す。
白羽は、別れるときに、何と言ったか。
——僕がここから出られない理由はね、神様の——呪いがかかっているからなんだ。
よくよく考えてみる。
神様の呪いって——何なんだ。
呪いとは、呪詛者が、対象に害を与えることを願ったりして、それが何らかの悪い形で、相手に降りかかることだろう。
その『呪詛者』が、『神様』だというのだろうか?
まさか。呪いや生霊の存在は信じたが、まだ綸は、神様の存在を信じるわけにはいかなかった。
見たこともないし。意思疎通ができるのかどうかも知らないし。
だが、どうだろう。
白羽に、何らかの呪いがかかっているとして、そのせいで白羽が座敷牢に閉じ込められているとしたら。
白羽と知り合いだという、至ですら祓えない呪いだということ。そんな恐ろしい何かが、白羽の自由を奪っているとしたら。
自分は、彼のために、何ができるだろうか。自分にできることなんて、何もないのではないだろうか。
そんなことをぐるぐると考えてしまって、その日はなかなか寝付くことができなかった。




