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第9話 告白 壱

 翌日。りんは無事に退院した馬場と共に、桜郷さくらごうの道を歩いていた。


「えーと、これから何処に行くんだ? 話って何だ? 松葉杖だと、坂がけっこうきついんだけど。綸~?」


 文句を言いながら、馬場は綸の後をついてくる。


 朝菊を呪っている人物——それが、馬場だった。


 綸はとりあえず馬場を青蓮寺せいれんじに連れて行き、いたるから呪いを祓うための助言を貰おうと考えたのだった。


「青蓮寺ってところだ。会わせたい人がいるんだ」


「そうなのか。で、綸。俺がいない間に、大学を辞めたって本当なのか?」


 馬場に言われ、ぐっ、と声が漏れる。


「辞めてない。休学だ。そのうち戻る」


 後々大学に確認したら、綸は一応、『休学』という扱いになっていた。陰陽師になって、呪いをちゃんと扱えるようになったら、綸はすぐにでも大学に戻るつもりだ。辞めたわけではない、そう自分に言い聞かせて今を耐えるしかなかった。


「ほら、見えてきたぞ。青蓮寺だ」


 青蓮寺は、遊郭を出てすぐ、櫻神社の横の道を登ったところにある。緑が豊かな、静謐な寺だ。無理やりに連れてこられた場所だけれど、綸はここの空気感だけは気に入っている。


「お~! こんな所に寺があったんだな! 初めて来たけど立派だな!」


 境内の草木を眺めながら、馬場が口にする。綸は馬場の前を歩き、本堂の裏にある庫裡くりへと入る。


「至さん、馬場を連れて来ました」


 至の部屋の前で声を掛けると、至が、ああ、と言って部屋から出てくる。


「は、初めまして。綸の大学の同級生の、馬場です」


 緊張した面持ちで、馬場が至に挨拶する。


「ああ。わざわざ来てもらって悪かったな。綸、客間に案内しとけ」


「は、はい……」



 客間は八畳の和室だ。中央に長机が置かれており、壁には桜が描かれた掛け軸が掛かっている。


 綸と馬場は至と向き合うように座り、沈黙していた。しばらくすると、至が話題を切り出した。


「で、だ。馬場くん。お前は朝菊あさひを呪っている……という自覚はないんだな?」


「は、はい……正直、何を言ってるのかよく解りません……」


 神妙な顔つきで、馬場が答える。


「どういうことですか、至さん。馬場は、アサちゃんを呪ってなかったってことですか?」


 綸が聞くと、至は、いいや、と首を振る。


「たしかに馬場くんが、朝菊に呪いをかけている。世に言う呪いの儀式ってのを行わなくても、呪いというものは発生するんだ。馬場くんは恐らく、生霊を飛ばしやすい体質なんだろうな。馬場くんの朝菊を思う気持ちが……朝菊に呪いとして降りかかったんだ」


「へ、へえ~、そうなんですか~」


 馬場が苦笑いを浮かべながら答える。きっと、内心胡散臭いと思っているのだろう。綸だって実際に呪いの被害にあうまでは、呪いなんてものを信じていなかった。


「まあ、そういうことだ。綸、これから馬場くんに付き合って、朝菊への思いを消化させてやれ。そうすれば朝菊の呪いは祓えるだろうよ」


 至は立ち上がり、こちらを振り返る。


「ま、ゆっくりしていけ」


 そう言い残し、客間を出て行ってしまう。


 取り残された綸と馬場。しばらくぽかんとしていた馬場だが、やれやれと口を開く。


「ねえ、綸。あの美丈夫、呪いとかマジで言ってんの? 陰陽師ってのも、マジなの?」


 馬場の意見はもっともだ。だが、実際、呪いは『ある』のだから仕方がない。


「ああ。とりあえず、お前がアサちゃんに向けている思いを、何とかしなくてはならない」


「なんとかって……俺、ただ、朝菊さんのことが好きなだけだけど……確かに、最近ずっと病室にいたし、寂しさで朝菊さんのことを考えまくってたけど、それが呪いになるなんて。どうしたらいいんだ? 綸」


「ううん……」


 正直、どうしたらいいか解らない。


 馬場が抱えている悩み。それは恋の悩みだろう。恋の悩みをどうこうしてやれだなんて、綸には難しすぎる話だ。


 何故なら——綸はろくに、恋愛というものを経験したことがないからだ。


「お前は、アサちゃんとどうなりたいんだ?」


「どうって、そりゃあ、仲良くなって、恋人になって……行く行くは一緒に暮らすとか?」


男娼だんしょう相手にか?」


「か、関係ねえよ! 好きなもんは好きなんだよ!」


「そうか……」


 しばらく考え、そして口を開く。


「告白すればいいんじゃないか?」


 その言葉を聞き、馬場は真っ赤になって立ち上がる。


「ちょ、それは、お前……早すぎるだろ! 順序ってもんが……!」


「でも、お前の、その燻っている思いをどうにかしないといけないだろ? アサちゃんに想いを伝えるしかないんじゃないか?」


「そんな……そんなことできねえよ!」


「じゃあ、お前は今のままでいいのか? お前のせいで、アサちゃんは呪いでどんどん弱っていくかもしれないんだぞ?」


「そ、そんな……」


 泣きそうな顔をする馬場を無視し、綸は立ち上がる。


「とりあえず、行くか」


「え? 何処にだ?」


 胡乱げに綸を見る馬場に、高らかに告げる。


「……本屋だ!」

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