攻略7
「わしの名はカノー・ソルダカゼーラ。生涯をかけ武に邁進する者。お嬢さんのような人にこそ、我が武術の秘奥義を伝授して頂きたい」
「いや、あなたがどのような武術を納めたかは存じ上げませんが、相手は理外の力を持ってます。一瞬で学園を半壊させる力を相手に、肉弾戦でどうにかなるとは思えません」
「確かに並の武術なら結果なぞ火を見るより明らか。しかしわしの武術ならばどうかな。我が流派の名は幻想幻魔夢想流。自惚れでもなく、この世で一番強い武術じゃよ」
そ、そのなんだかむず痒くなる名は聞いたことがある!
かつて魔法、武術含め何でもありの大会で無傷の五連覇を果たし、時の王様をもってして「古今東西並ぶ者なし」と言わしめた伝説の武術の名前だ。五連覇した大会を機に表舞台から姿を消したとか。
魔法理論学では、使い手はその人しかおらず対策のしようもないので存在だけを教わったんだ。流派の名前がアレすぎて使い手の名前が飛んでたけど、確かカノー何ちゃらだったはず。え、本人?でも最後に表舞台に出た大会って私の生まれるずっと前だぞ……
あたしが狼狽えるのを見て、おじいさんの表情がパッと明るくなった。
「その様子だと我が流派を知っているな。いやな、わしは先ほどのお嬢さんの話を全面的に信じる。肉体強化の魔法を半日も維持しながら息切れ一つ起こさないなど、余程練度を積まなければ不可能だ。ましてやここと学園は速馬を走らせても一日かかる。そんなこと、その若さでできるはずがない。適当に走ってここに来たというのは、きっと女神様の思し召しに違いない」
矢継ぎ早にそう言うと、今度は私の両肩をガッと掴んで鼻息荒くして、目なんかも血走らせちゃって、え、乙女のピンチ?
「頼む!我が流派を完成させてくれ!わしはもう長くはない。三年後、わしの体ではなまじ生きていた所で役にも立たない。しかしお嬢さんは三年後戦う運命にある。その時我が流派を使ってくれれば、世界を救ったとして武術の名は永遠に残る!それこそが幻想幻魔無双流の真なる完成じゃ!……我が人生は平和すぎた。貴族間の小競り合いで活躍した所で意味などない。いくら武術大会で勝ち残っても平時に活躍した武術など歴史書にも載らん」
「し、しかし三年学んだところで会得出来るものでは無いのでしょ」
生涯を賭して磨いてきた武術を、そんじょそこらの小娘が三年で奥義を納めることなんて出来るわけないし。そりゃあ私は物覚えも運動神経も良い。あたしがこの才能を持ってたら、元の世界じゃあ神童なんて崇められていたに違いない。お年玉ガッポリですよ。
「いいや、三年でマスターさせてみせるわい。なあに、やり直しを当てこんでいるんじゃないぞ。お嬢さんにはその才能があると睨んだ上で話しておるのじゃ。強き己こそ真に己の寄る辺なれば、最後に頼れる己があればこそ誰かに助けを求めて泣く事も無くなる」
そうか、強くなればいいのか。あたしの中でその考えが腑に落ちた。何かよくわからないこのやり直しの運命から逃れる為にはとにかく強くなれば良いんだ。そうすれば、負けなければ、あたしはきっと卒業式を迎える事ができるはず。
涙をグッと拭い、おじいさん……いえ、マスター・カノーへ向かって右手を差し出す。
「よろしくお願い致します。私はエリス・スターライト。マスター・カノー、私を強くして下さい」
私の右手をグッと握り返したマスター・カノーは不敵な笑みを浮かべる。
「勿論、世界最強にしてみせるわい」