攻略6
まただ。またあの景色に戻ってしまった。
六年間も見た噴水や校舎。まだ幼さの残る学友たち。そして今回で三回目となる殿下とお嬢のやり取り。
みんなが入学式のために、当初あたしが体育館と勘違いしていた講堂へと向かっている。でもあそこに行ったらまたあの学園生活がスタートしてしまう。殺される。
死ぬ瞬間はいつだって覚えている。不思議と痛みは無かったけど、加速する意識の中、徐々に全てが崩れていくかのような感覚。マジで無理。本当にもう味わいたくない。
気がつくと学園から逃げ出していた。
無我夢中で駆け抜ける。気がつくと舗装された道からとっくに外れ、鬱蒼と草木の生い茂ったところにいた。無意識にかけていた身体強化の魔法のおかげで、半日ほど走ってもあまり疲れないし、学園なんて全く見えないほど遠くに来ていた。
「……パパ、ママ。あたし、何か悪いことしたかなぁ」
ここがどこかも分からなく、多分誰もいないだろうと思ったら自然とそんな言葉が漏れた。ヤバい、泣ける。本当に、何で死ぬような目に遭わなきゃならないんだろう……
この世界に来てから既に六年。あの頃よりはだいぶん大人になった気がする。でも振り出しに戻るたびに、心が体に引っ張られるように15歳の私に戻ってしまう。あたしは17歳なのに。
でも悪いことか。私にとっての両親は、あたしが学園から逃亡した事によりおそらく捕まるだろう。
あたしだって六年間学園で過ごして、何となく私は特別なんだって事ぐらいわかる。そして私を学園に推薦したのは間違いなく王族だ。そんな王族の顔を潰してしまった以上、タダでは済まないはず。
そう思えば、報いを受けるべし悪行を行なったとも言える。でも因果逆じゃん?
怒りやら悲しみやら情けなさやら、もう心の中が本当にぐちゃぐちゃ。何をすればいいの?なんでこんな目に遭うの……
「誰か……助けて……」
「ほう、これはこれは珍しい。こんな辺鄙なところにお嬢さんがおるわい」
本当に気配なんて全くしなかった。
泣き腫らした目をあげると、いつのまにか仙人みたいなおじいちゃんが佇んでいた。長い総白髪を後ろで結わって、これまた白い髭は胸の辺りまで伸びていた。しわくちゃの顔をニカッと笑わせて、何故だか不思議と警戒心を抱けない。
「お嬢さんその制服、ハイランド王立学園の生徒さんか。ここからは随分と距離があるもんだが、もしかして迷い込んだかいな」
「迷い込んだですか。ある意味ではそうかもしれません。逃げ出して、どこともしれず走り抜け、気がつくとここに居ました。ご迷惑でしたらすぐに去ります」
「走り抜け….…。つかぬことをお伺いするが、ここへはどれくらいの時間をかけて来たのかのう」
「さあ、今朝から走って、半日ほどでしょうか」
「半日か。学園との距離を半日……。相当な才を持ってるとお見受けするが、なにから逃げ出したというのかいな」
何だろう、おじいさんの目つきが変わった気がした。しかし半日走ったって情報で何の才能がわかるのさ。駅伝?襷に青春をかけろってか。
でもまあ、なんだか何話しても良いかなって気もする。自棄になってるのかもしれないし、話しても信じられる内容じゃないし。
どうせ知らない人だしと、これまでの経緯を話してみた。
庶民なのに学園に入学することになったこと。
何故か殿下やその取り巻き達と仲良くなったこと。
お嬢が暴走して殺されたこと。
何故か一年生からやり直しとなったこと。
仲良くならないよう努めたけど、結局無駄だったこと。
そしてまた違う人に殺されたこと。
一応違う世界の記憶がある事とかは伏せておいた。なんかややこしくなりそうだし。
神妙な面持ちで、時折うんうんと頷いたおじいさんは、あたしの話を全部ちゃんと聞いてくれた。
なんか、我ながらだいぶん無茶な話だよなぁ。でも話してすごく楽になった。
「おじいさん、聞いてくれてありがとう。私、学園に戻ってみます。初日に欠席くらいならまだそんなに重いお咎めも無いでしょうし」
そういってお辞儀をし、もと来た道を戻ろうとした時、ガッと肩を掴まれた。
「そう焦らんでもよい。どうせ今のままでは学園に戻ったところで解決策などないのだ。ならばいっそのこと、ここで強くなっていかないか」