攻略0
何かピカッと光った気がして思わず目を瞑ってしまった。とても長い間目を閉じていたと思う。しばらくして強烈な吐き気と倦怠感を伴いながら、なぜか反射的に目を開けてしまった。
「ここは……」
目の前に広がるのはお城のように立派な煉瓦造りの建物。花壇には色とりどりの花が咲き誇っている。そして一際目立つ場所に大きな噴水。そしてそしてさらに目立つアニメみたいな髪色の集団。めっちゃイケメン。マジやばい。特に金髪の人語彙力死ぬくらいカッコいい。足なっが。髪サラサラ。やばい。
そんなやばいイケメンに負けないくらいえげつない美女がツカツカと歩み寄って行った。まつ毛ばっしばし。お肌真っ白。すっご、縦ロールなんて初めて見た。なんか後ろには取り巻きっぽい娘が4人ついて行ったけど、その娘達もなんか気品あるし。何これ。
「ご機嫌麗しゅうアーレント殿下。本日はご入学式で代表スピーチをなさるとか。流石は殿下ですわ」
で、で、ですわ!やっば!お嬢じゃん。うわぁ昭和の少女漫画みたいな人がいるもんだなぁ。
てか殿下?殿下って何さ。なんか偉そうだけども。
しかし入学式か。イケメン集団もだけど、お嬢との会話を遠巻きに見ている男子はみんな同じブレザーを着ていて、どうやら学生っぽい。女子も、てかあたしも揃いの制服を着てるから間違ってないと思う。
なんか周りの様子を伺っていたら殿下とお嬢の会話がいつの間にか終わっていた。殿下がどこかに歩き出して、お嬢が悔しそうに見送ってる。
殿下の取り巻きの赤髪マッチョが「いいのかよ婚約者にあんな態度で」とか諌めてたけど何があったのさ。殿下も心なしかムスッとしてるし。
さて、人混みに流されながら辿り着いた体育館らしき場所で入学式に臨むこととなった。パイプ椅子そっくりの謎椅子に座りながら、とにかく現状を確認する。
あたしは覚えている。間違いなくさっきまで日本にいて、部活帰りに部活のみんなとマックで駄弁ってたはず。でもそれと同時に"わたし”としての記憶もある。
エリス・スターライト。パン屋の長女として生まれた15歳。ある日突然ハイランド王立学園から入学願書を送付され、ほぼ強制的に学園に通うこととなった。理由はわからない。
そして今新入生代表としてスピーチをしている殿下こそ、センリーフ国第一王子のアーレント様だ。その婚約者といえばソーンシャトー公爵の一人娘フレアデリック様。王子様の取り巻きも庶民のわたしでも聞いたことのある名門一族の子弟たち。公爵令嬢様の取り巻きもきっとやんごとなき人達に違いない。
え、ちょっと待って。じゃあなんであたしはここにいるの?死んだの?でも死んだ記憶が無い。さっきまで飲んでいたはずのバニラシェイクの味だってはっきり思い出せる。じゃあなんであたしは……あたしは……あたし?
あたしって誰?名前が出てこない。名前が……
全身の血の気が引いて、今にも気絶しそう。名前と、あと何か大切なことを忘れている気がする。とても大切なこと。
なんとなく殿下からの視線を感じた気がするけど、とにかく倒れないようにすることと、思い出そうとすることに一杯一杯だった訳で。あたしは一体誰なんだ。