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日記2

作者: 八咲

 今日は記念日だったから、独りぼっちでディナーを食べた。なにを食べたかは忘れたけれど、手が油にまみれてたいへん不快であった。そこで、私が手を洗うことにして、水道に手を伸ばすと、自家製のハンドソープに手をはたかれてしまった。「どうしてそんなことをするの。」と言ってみたけど、言葉がでるのにあまりにも時間がかかったものだから、そのとき彼はもうスイカと談笑していて、私のこえを聞いてはいなかった。彼は綺麗好きだから仕方がないのかもしれない、と思うことにした。それからスイカとの会話がそんなに楽しいのだろうかと思って、耳を傾けると、どうやら彼らは新しい同居人について話しているみたいだった。すこし前までは、私の友人がひとりここに住んでいたのだが、さくらの季節に花筏になって消えてしまった。そこで、また新しい同居人がここに来ることになったみたいだ。私は、部屋が埋まってしまったら、花びらになった彼がここに帰ってこられないじゃないか、と思った。新しい同居人なんかよりも、私は彼の方が大切だ。

 でも、数時間後にはさっそく新しい同居人がやってきた。私がなにも言わなかったからである。新しい同居人は、みんなの歓迎のこえを無視して、大きなあしおとを立てながら窓の方へ進んでいった。それで、窓辺によじのぼって座りこんでしまった。窓枠のでこぼこは迷惑そうに顔をしかめてみせたが、でこぼこに顔なんてないので新しい同居人は気にもとめなかった。私は、やっぱり失礼な虫けらなんかより、美しい彼のほうが何倍も優れていたと思った。だからなのかは分からないが、先ほど無性に腹が立った私はそれを指で潰した。だれもなにも言わなかった。でも彼だけは、私に、あなたには同居人なんて一人もいないよ、と言った。それで私はうわぁっという気持ちになって、あたりを見回すと、同居人はみんないなくなっていた。ずうっとなにかを待っていたみたいな心地がしたけれど、悲しい気持ちにはならなかった。

 窓辺にはアリが佇んでいるもので、それは生きていないものなのだ。腐らした野菜を享受しながら、私はちいさなちいさな声で、彼の名前を呼んだ。

うん、おやすみなさい。

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