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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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95蠍

ホースの先のノズルを押すと、思いの外、すごい勢いで泡が跳び、女にかかった。


だが、その泡に反応したのか、髪が伸びて泡にまとわりついた。


髪は、成人女性を持ち上げるほどの力がある。


が、流石に泡が相手では髪にどれだけパワーがあっても捏ね回す事しか出来なかった。


そして髪が盛んに泡を掴もうとする動きが、泡を撹拌させ女の全身に泡を浸透させていった。


女の全身から、青黒い蔓が伸びるが、ただ泡と格闘するばかりだ。


地下鉄がホームへ入ってくる。


川上は、元女だった泡まみれの蔓の処置に困るが、元々、水族館へ向かう予定だ。


横を走り抜けて、川上は改札に向かった。





何だ、あの緑のスカイツリーは!?


誠は空中で驚愕した。


地上の建物に何の興味もない誠だが、流石にスカイツリーの姿は薄っすらとは覚えていた。


銀色の、日本に数多あるような塔の一つで、新しいのが取柄、ぐらいの感想ではあったが。


だが今見るスカイツリーは、朝顔市でも行おうというのか、全体に蔓を伸ばして緑にもやっていた。


蔦というほどビッシリと生えているわけではなく、まるでそういう装飾、とでも言うようにスカイツリーを緑の膜が覆っているかのようだ。


だが、あれが夜、環八で車を押し潰しながら移動した軟体物のようなものだとすると、迂闊に接近するのはマズいかもしれない。


接近速度を落とした誠だが、スカイツリーには普通に鳥が停まったり、飛び立ったりしていた。


軟体物の中にいたのが魚やザリガニだったのを考えると鳥に襲われないとは限らないが、その程度なら透過でしのげる、と考え直し、スカイツリーの展望台に飛び込んだ。


そこは展望回廊と呼ばれる、地上450メートルの展望台だった。


それなりに美しい場所だったのだろう、と誠は思った。


今は、惨劇の舞台でしか無い。


至る所に死体が倒れ伏しており、それらを貪っているのは誠の両手を合わせた程もあるサソリだった。


ザリガニの次はサソリなのか…、とうんざり見回す誠だが、とにかく数が多い。


一つの遺体に10も20も、巨大サソリが群がっていた。


「影の手…」


とにかく、死んでいるものを気にしても仕方がない。

陰の手でサソリを殺して回る。


だが…。


ぼとり、と天井からサソリが落ちてきて気がついた。


サソリは天井にも無数におり、しかも誠に気がついたようだ。


これが影繰りならば操るものがいるはずだが、環八の軟体物にそんなものはいなかった。

いや、見つけられなかっただけかもしれないが…。


誠は天井のサソリを影の手で切り裂いた。

おそらくは刺されれば、それで勝敗が決する程の毒を持っているはずだ。


天空の回廊は、無数の死体が様々な形で事切れており、サソリとしては大型、とはいえ、衣服の裏などにサソリがいる可能性も多大にあった。


誠は、透過をしながら歩く事にした。


飛行することも出来るが、それで全く襲われない、かは判らない。


サソリの事はよく知らないが、おそらく、昆虫に可能な動きならサソリも出来そうな気がする。


つまり、蜘蛛のようにジャンプしたり、かなり硬いものでも噛み砕いたり…、その程度はできる可能性も考えないと、刺されてから驚いても遅過ぎる…。


誠は、透過しながら前進し、影の手でサソリを殺しまくった。


遺体の損壊もある程度仕方がない。


サソリの能力を知らないのだ。


もしかしたら人体内部から、こっちを狙っているかもしれない…。


回廊は緩やかに登り、その先に…。


どうやら犯人が、いた。


生きて立っているのだ。

犯人としか考えられない。


だが…。


それは勇気たちより、少し年上の少年だった。


意味は不明だが、詰め襟の上着に、同じ生地らしい半ズボンを履き、よく磨かれた革靴を履いていた。


「困りますねー、サソリは僕のペットなんです。

弁償してください」


口紅でもさしたような赤い唇が、薄く笑う。


「君は人を殺した…」


誠は指摘するが…。


「サソリは臆病な動物なんです。

大騒ぎしなければ、むやみには刺さないですよ。

本来は人間はサソリの餌じゃ無いんですから。

つまり、悪いのは殺された人の方なんです」


「一体、こんな沢山のサソリをどうやって…?」


誠の言葉を遮るように、少年は詰め襟の袖を捲った。


白い、細い、少年の腕に、大きなサソリが何匹も付いている。


サソリはポタポタと少年の腕から、何十も落ちてきた。


手品なら、あの学ランに秘密があるのだろうが、そもそも彼らは影繰り、しかもヤギョウの隼人に(妖怪)とまで言われた相手だ。


もはや手品よりは魔法、という方が理解しやすい。


だが、その程度なら、誠なら無数の影の手で殺しまくるだけだ。


「仕方ないなー。

僕の本気を見せますよ…」


言うと、少年の半ズボンの中からサソリが溢れた。


足は、溶けたように消え、代わりに、学ランの下半身が、巨大なサソリになった。


少年の背が、誠より高くなる。


尾の先まで入れれば、三メートル近い巨大サソリだった。


サソリは、走った。


アリにしろ、本気で走っている場合、昆虫はかなりの速度を出せる。


無論、体重の軽さゆえだが、妖怪に体重など意味を為さないらしかった。


誠が透過していなかったら、一瞬で潰されていた。


颯太がサソリを蹴り上げるが、中に砂の入ったドラム缶のように、揺れもしない。

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