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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
94/153

94地下鉄

ユリは足を止め、風景に見入るふりをしながら、虫の目で背後を見張った。


花たちがゆらゆらと動いている。

極めて緩慢な動きであり、空調の微かな風の影響かもしれない。


敵が、この花影に潜んでいるのなら、微かにも動きが判るか、とユリは考えたのだが、動きは一様であり、どこに敵がいるとも判らない。


だが、敵に付けたユリの虫の位置は判るので、おおよそ、自分の背中に当たる部分の後20メートルに敵が潜んでいるのは判っていた。


その辺りは、一番花が多い所だ。


大輪の百合の花が白い花弁を下向きにして咲いており、奥にはビロードのような赤のバラの花がたわわに咲き誇っている。


その前に、おそらく菊だと思う黄色の草花が床から直に生えており、天井から垂れ下がった、紫色の、ウツボカズラに似た花も彩りを添えていた。


ユリは、動かない。


敵の攻撃を見るまで、迂闊には動けなかった。






小百合は本部から車を出してもらい、スカイツリーに向かっていた。


隅田川を渡り、直線道路の先に、今はスカイツリーが午後の日差しに眩しく輝いている。


前は都内各所で同時多発的に起こった敵のテロ? 意味不明の虐殺事件? だったが、おそらく今回はスカイツリーに絞られるのではないか、と小百合は直感していた。


同じにすれば、同じ結果になるはずだから、だ。


内調は、前回があるから全ての影繰りをスカイツリーには集められない。


だから一箇所に兵力を集める、と小百合は読んでいた。


最大兵力で、少数と戦う。

戦略の基本の一つだ。


しかし上は、小百合の考えは理解しても、一か八かのギャンブルをする気はないだろう。

国家機関は、それが当然だ。


だがユリの坊やに初心者の川上、小百合も影繰りとの戦いを多く経験している訳では無かった。


小田切…。


頼りないが、奴に賭けるしかなかった。


「嬢ちゃん、なんかスカイツリーが変じゃないかい?」


運転手の白髪の優しげな男性が、声をかけた。


え、と小百合が改めて前方のフロントガラスに視線を向けると、さっきまでメタリックに輝いていたツリーが、何か緑の煙をまとったようにくすんでいた。


「火事?」


小百合のつぶやきに、運転手は、


「いやぁ、あんな緑の煙なんて花火じゃあるまいし。

蔦でも覆ったみたいだね…」


いや、しかし634メートルの建築物が、蔦に覆われるだろうか?


しかも、覆ったとすれば、ほんの何分間かの出来事のはずだ…。


小百合は、永田に電話をかけていた。





ベンチに座った女の横で、川上は迷っていた。


この女性は被害者なのか加害者なのか…。


どのみち、川上に彼女を救う術は無いが、しかし、既に命は無いにしても、被害者の体を粉砕するのは気が引ける。


しかし、既に一人のサラリーマン、いやサラリーウーマンが餌食になっている…。


川上が先に進むためにも、彼女は破壊するしか無かった。


接近するのは余りにも危険だったが、幸い川上には、八匹のウサギという、中距離攻撃の出来るしもべがいた。


外見はウサギだが、破壊力はなかなかのものだ。


川上は、首から下げた角笛を吹き、ウサギを出現させた。


そして動かない女に、集中攻撃をかけた。


だが…。


女のロングヘアーが伸びてウサギを絡め取る。


首、手足から黒緑の蔓が銃弾のような速さで飛び出てきて、8匹のウサギは、全て女の内部に消えた。


のみならず…。


今まで動かなかった女が、クルンと、人形のような不自然で、体は動かさずに首だけを回し、川上をみとめた。


あの速さはヤバイ!


川上は、慌てて飛び退くが、しかしここは駅のホームだ。


やがて後続車両もやって来るだろう。


川上は、それまでに、この怪物を倒さなければ、何十人が被害に会うか、想像もできない!


しかし、一瞬でウサギ8匹を飲み込んだ、この怪物に、接近戦など通用するだろうか?


それ以前に、あの蔓に巻き付かれたら、接近戦も何も無いではないか…?


ホームにアナウンスが響いた。

間もなく地下鉄が到着するらしい…。


川上を睨むように見つめた蔓の女は、ゆっくりと髪の毛を逆立て始めた。


襲ってくる!


これは殴ったり蹴ったりして倒せる類の相手ではない…。


川上は唐突に理解した。


燃やすとか、薬剤で枯らすとか、そういう方法でなければ到底、倒せない…!


火は!


周りを見回すが、地下駅である。

火気は厳禁だった。


消火設備は、逆にあるはずだ!


背後の壁に、それらしい赤い箱があった。


川上は一跳びで箱に飛んで、金属のロッカーを開いた。


泡、消化器?


普段見かけるような、ピンを抜いてレバーを握れば消化できるものでは無いらしい…。


逆さにして、揺すれ、と書いてあった…。


再びアナウンスが、列車の到着を告げる。


トンネルの奥から、ゴゥ、と巨大な物体が接近する音が聞こえ、同時にひんやりした風がホームに流れた。


やるしか無い!


川上は消化器を取り出して、逆さにし、慌ただしく揺すった。


何も起こらないぞ!


川上は慌てるが、消化器の側面にホースがあり、先端がボタンになっていた。


列車が間近に近づいたのが、音で分かる。


川上は、女に向けて、ホースを伸ばした!

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