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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
92/153

92展望台

川上は、動かない女性から立ち上る甘い香りの正体に愕然とした。


濃い血の臭いだ!


しかし、彼女の周辺に赤いものなど、飴玉一つも見つけられない。


そして、女性は全く動いていないのだが、さっきから全身が、ざわざわと頭髪から靴の先まで、微かに揺れていた。


最初は空調のせいかとも思ったが、エアコンの風がいかに強くても、靴が動くか?


彼女の履いている艷やかな白いローファーは、不自然なほど動いていた。


よく磨かれた革か、エナメルの靴である。

風で動くようなものではない。


長めの、足まで覆うようなスカートを履いている。


靴からスカートまでの僅かな部分は肌色が見えていたが、素足かと思ったら、獣化してみると、どうもベージュのストッキングのようだ。


が、それも風で動く訳が無いのに、微細に動いている!


頭髪は肩を覆うようなロングヘアーだったが、その髪も、まるで全身が、痙攣しているように動いていた。


虫か!


ユリの虫を知っている川上は、思わず飛び下がった。


川上はユリの虫が大量発生したときの破壊的な状態は見ていなかったが、話には聞いていた。


それはユリの、暴走状態なので、周りの仲間は、そうならないよう気を配る必要があるので聞かされていたのだ。


が、それなら女性だけを襲う、というのはおかしい。


だが、この血の臭いは…?


川上を追い越して、サラリーマン風の女が足早に女性の横を通り過ぎて行く。


「はぁっ!?」


川上は叫んだ。


ベンチの女性の、髪が、突然動いてサラリーマンを捉えた。


羽織ったカーディガンが手も触れずに左右に開き、中から緑の蔓が津波のように吹き出すと、一瞬でサラリーマン風の女をカーディガンの中に飲み込んでしまった!






誠は下腹部を押さえた。


看護婦を待って治療を受けなくとも、誠はこれくらいの傷は自分で治せた。


痛みと、泣いてしまった気恥ずかしさで今までそれを忘れていのだ。


骨が折れている訳でもないので、細胞を修復すれば傷は癒えた。


少し顔を洗ってから、誠は飛び立った。


基地の天井を透過して空に舞い上がった。


スカイツリーを放置は出来なかった。


とはいえ、スカイツリーを襲う必要が、敵になにかあるだろうか?

前は都内各所を同時多発的に襲撃したが、今度はどうなのか?


推測できることではなかったが、スカイツリーといえば観光地であり、もし吉祥寺や五反田のような騒ぎになった場合、途方もない災害に発展しかねなかった。


永田に連絡しながら、誠はスカイツリーに向かった。

幸い、都内最大の建築物なので迷うこともない。


一直線に、誠はスカイツリーに飛んでいった。




ユリは、案内板を確認しながらスカイツリーに進む。

虫は、既に上に向かうエレベーターに乗っていた。


エレベーターは、最上階まで行くと三千円を超えるチケットが必要だが仕方なかった。


内調は極秘の組織なので身分証などは無い。

一応、自衛隊の階級は持っているのだが、当然ながら自衛隊に捜査権などは無い。


カエルの財布から小さく畳んだ千円札を取り出し、チケットを購入した。


どのみちユリは学食料金ぐらいしかお金を使わない。

着るものがあるのに新しいものを買う、などユリには考えられなかった。

洗濯はするので着替えはあるが、それも最小限だ。


靴は、前は大人の貰い物だったが、初めて自分のサイズの靴を買った。

走る速度も、敏捷さも格段にそれだけでアップした。


虫を頼りに、エレベーターに乗り込む。


相手に今のところ、違和感は無かった。


前の夜は、カッパに変身をしていたが、今度はどうなのだろう?


他のみんなの話を聞いても、トンボ人間だとか巨大なザリガニの集まったスライム状の化け物だとか、とても影とは思えない怪物集団だ。


平日でもエレベーターは満員に近く、上の混雑も予想できる。


高速エレベーターは、一分とかからずに真ん中の

展望台までユリたちを運んだ。


眩しい外光と共に、ユリは広い展望室に出た。


人波がユリを運んだようなものだったが、すぐに人々は散らばった。


思うほど、人がいない…。


と、いうよりはエレベーターから出てきた人間以外、誰もいなかった。


おかしい…。


無論、この展望台の上に、もう一つ、空中回廊と呼ばれる展望台があるのだが、しかし、ユリも結構並んでエレベーターに乗ったのだし、誰もいないのは異常だった。


他の観光客はそれほど深く考えていないらしく、また、眼の前に広がる大パノラマに魅了され、興奮して左右に散って行く。


ただ、錦糸町から走って来たユリは、スカイツリーの大きさも目視していた。


何処かに人は集まっているのかもしれない。


ユリは用心しながら窓際を歩き始めた。


虫を付けてあるから、敵がこのフロアにいることは判っていた。


ただ、背中につけたため、あまり周囲の状況が判らない。


虫を動かせて、敵に見つかるのもまずい。


ユリは円形のフロアの外周を歩き始めた。


同じエレベーターに乗っていたカップルや家族連れが、景色を眺めながら楽しげに話している。


悲鳴や、不穏な兆候は今のところ、何もなかった。

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