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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
91/153

91臭い

白井は、スカイツリーの全体像がよく見通せる、東武浅草駅の上階にあるカフェから、六三四メートルの塔を見上げていた。


これから、この塔は大変な騒ぎに見舞われる事になる。


併設されたソラマチも含め、大騒動になるだろう。


なぜ、スカイツリーなのかと言えば、これが現在のテレビ塔だからである。

ここが機能を失えば、情報は発信源を失う。


無論、ラジオやSNSなどは生きているが、むしろそれはデマと混乱を東京じゅうに広めてくれることだろう。


白井はアイスラテを飲みながら、事が始まるのを楽しそうに待っていた。





永井友哉は、ソラマチ地下のパーキングに行くよう指示を受けた。


ま、学生連合アプリのミッションが意味不明なのはいつもの事であり、友哉は特定の駐車スペースの番号を探して歩き回っていた。


スカイツリーでは立体駐車場と地下の平置き駐車場が併設されており、用途により使い分けられている。


エレベーターでパーキングまで降りると、友哉はスマホを見ながら指定の場所を探した。


微かに、甘いような、腐ったような、なんとも言えない臭いを感じる。


が、微かなので不快に感じるほどでは無い。


何種類かの芳香剤の臭いが、長い年月の中で混ざった、と言われればそんな気もする。


それぞれは花のよい匂いでも、混ざるとこんな風になりそうだ。


スカイツリーが出来たのはいつだったか?


昔の事など興味はないが、多分平成の早い時期だ。


換気などは気を使ってはいるのだろうが、地下だし、多少の臭いはあって当然かもしれない。


アプリに略図が乗っていたので、手間取りながらも友哉は指定された駐車スペースを見つけた。


だが、気取った高級国産車が場所を塞いでいた。


「おいおい、どーすんだよ…」


友哉は困惑するが、スマホがブルッと震えて、アプリに新しい指令が入った。


(車の底に潜り、区画の中心部の石を拾え)


友哉は、自分のふくよかな肉体を眺めたが、数年前なら近所の車の下から子猫を拾った事もある。


まー、やってやれないこともあるまい。


友哉は、這いつくばり、ゆっくり高級車の下に潜り込む。


大型なので、車高も高めなのか、思うほど大変ではなかった。


中心部へ這い進むと、丸い石があった。


手で掴むが、コンクリに刺さっているのか、なかなか抜けない。


力の入る位置に移動しながら、捻るように石を回すと、コリ、と音がして、石が取れた。


やった!

十万ポイントだ!


思った友哉だったが、石を取った穴から吹き出した、甘い匂いに包まれ、車の下で動きも取れずに、ゆっくりと意識を失っていった…。






クラゲの水槽か…。


田中崇は不思議な光景に目を奪われるが、やがて辺りは大人のカップルだらけなのに気がつくと、きまりが悪くなり、奥に下がって薬を口に入れた。


いつも体育に飲んでいるのと、ちょっと違う味がする。


なんか違う力の薬なんだな…、と少し楽しみになるが、なんとなく田中は、ペタンと座り込んだ。


視線が変わって、カップルの間からクラゲがよく見える。


右に左に、上に下に、同じ円形の幾何学的な生物が、田中の周りでゆっくりと泳ぎ回る。


ふわり、ふわりと…。


田中は、体の力が抜けていくのを感じていた。




押上駅で地下鉄を降りた川上は、ラフなジャージと人工素材のハーパン姿でスカイツリーに向かった。


地下鉄駅には、なにか甘い香りが、漂っていた。


まー、観光地だもんな。

スイーツかなにかを売ってんだろうな…。


特に気にせずスカイツリーへの案内板を頼りに、歩いていく。


その川上の足が、止まった。


駅のホームのベンチに、若い女子が座っている。


その辺りで、匂いが強い。


女子がスイーツを持っていても、至って普通なのだが、なにかがおかしい…。


女子は、身動きもせずにベンチに座っている風だが、なにかが動いているのだ。


全身が、微妙に動いていた。


仕方ない、やるか…。


川上は影を発動させることにより、犬のような耳が立ち、全身を剛毛が覆う。


足も爪先が蹄となり、かかとが第三の関節となる。


この状態で誠を泣かした蹴りを繰り出せる。


スピードも桁違いに早くなるし、ジャンプで地下鉄の天井まで飛ぶなど造作もない。


嫌なのは、剛毛である。


秘密だが、川上は毛深いのだ。

脱毛がかかせないが、なにか正体を暴露するかのような影の姿が気にくわなかった。


毛深いとはいえ、小学生の頃から脱毛しているので、誠と遜色無いツルツルである。


誠は天然らしいが、羨ましいことこの上ない。


だが、本当に毛を生やした事はないので、どこまで毛深いかは川上も判らない。

まさかこんなに狼男のような事はあるまいが、なんとなく自分の姿に怯むのである。


だが、目の前の女子は、なにか異様だ。


匂いもおかしい…。


川上は諦めて、犬耳変身を開始した。


耳が毛の多い頭髪の間から延びてくる。


顔自体は変わらないが、嗅覚は何倍も鋭くなる。


すぐに判った。


これは、スイーツなどの匂いではない。

どこか甘い中に腐敗臭が混ざった、生臭い臭いだ!


スイーツの植物的な匂いではなく、動物の血の臭いだった。

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