潜入作戦と義郎の力
「近接戦用のオーラか?
外科手術でなんとでもなるが?」
「いや、そうゆうのではなく…」
今でも、カブトの脳を見てしまったショックは忘れられない。
あんなのはごめんだった。
「もっと最短で、効率よく使える方法が知りたいんだ」
と、アホな中ニのようなことを言っている誠だが、意外にもリーキーは、
「メソットはあるにはあるよ。
僕の研究によれば、オーラは、実は筋肉量に比例するわけではない」
「え、そうなの!」
誠の胸は期待に高鳴る。
「赤ん坊は、生まれながらに影が使えた場合、とても硬いオーラを持っているんだ。
本能の硬さ、と僕は言っている」
ほう、と誠は息を飲む。
「普通の人間でも、虐められっ子とか、あまり大きな怪我をしなかったりするだろ。
例えば、攻められる、怖い、と体を萎縮させるだけでもオーラは厚くなったりする。
君の場合、透過すればいい、と思っている分、オーラが出ないんだと思う。
一度、透過をやめてみると良いよ」
期待は急速に萎んだ。
誠は、痛いのは大嫌いだった。
この歳で、歯磨きに何分も時間をかけるほど、痛いのは嫌いだ。
誠は、毎日デンタルフロスを使い、毎月、歯医者に定期検査に通っていた。
虫歯は、誠にとって悪夢なのだ。
永井友哉から、また薬の要請があった。
あいつも訳の判らない奴だ。
充分な薬を飲んでいるはずなのに、亜人にならない。
いや、おそらく体の一部は既に亜人でなければおかしいが、それに当人が気がつかないので、そこで踏みとどまっている、というところだろうか?
あと意外に大柄で、しかも小太りの永井は、薬への耐性が他より高いのかも知れない。
いずれにせよ、量を飲ませれば、いずれ亜人になるのは間違いないので、白井は薬を取りにマンションへテレポートした。
「ふーん、見ろよ、あのマンション、窓が少し開いているぜ」
ハイエースが、ツカサのマンションの窓側を見られる公園に停まっていた。
アイチが、双眼鏡でツカサの部屋を調べているのだ。
「おそらく換気のため、少し開けて、ロックがかかる鍵を付けてるんだろう」
渡辺は近隣を探っており、Bluetoothで会話していた。
特に避難口の鍵が開いている、ということはない。
確かにオートロックとはいえ、この手の鍵は単純で、セロテープ一枚も貼れば、自在に出入りできてしまう。
多くは、センサーや防犯カメラまで備えてないし、あってもそんなところの出入りには気が回っていない。
通報は、あくまで管理人の役目であることが多いので、常に目を光らす、等は現実には不可能なのだ。
忍び込むのは難しくは無い。
ヌーヌーは、鍵を開ける、等範囲の小さいことも可能だからだ。
ツカサの部屋は三階だが、夜間なら短時間で忍べるだろう。
ロックはヌーヌーで開けられる。
非常カメラは影繰りを映さない。
「今夜やるか?」
渡辺の問いにアイチは。
「そーだな」
ボソリと答えた。
勇気たち五人は、高屋や青山などから格闘の基礎を習っている。
一番の課題は、変身しないで影を使う事だ。
最悪、肉弾戦なら変身ヒーローでも巨大ロボットでも良いのだが、日常、即座に影繰りとバレるのはよろしくない。
色々テストの結果、勇気はパワーやスピードを強化出来るのが判り、樹冷涼は小型コンパスを物質化し、操れた。
愛理は治癒の力を持ち、レイナは小さなネズミを出して、偵察にも使えた。
問題は義郎だった。
影は出ているらしいのだが、目に見える力ではないらしく、さまざまな吉岡の検査でもどういう力か判断が出来ない。
多少力は強くなるようだが、動きはむしろ鈍くなっている。
「なんや、けったいな力やね。
でも、マコちゃんの力も他にあんまり出来る人の無い力やから、なんか強いかも知らんよ」
高屋は励ますが、他の四人はぐんぐん自分の力を伸ばしているので、義郎は、俯きがちだった。
元々、体は大きいが気は小さいところのあるデリケートな義郎である。
「あー、なんか俺も、こっち来いって言われたけど?」
井口が応援に小学生チームに加わった。
「ふーん、なんか力は出てるけど、なんだか判らない?」
そこに、青い顔をした誠が通りかかった。
透過をしないで格闘訓練をすべきだ、と颯太たちに言われ、思い悩んでいたのだ。
「あ、誠!」
「え、僕にそんなことは…」
話を聞いて、断ろうとした誠だが。
「試しにカラスを出して、力を使ってもらったらなにか判らないですか?」
「おお、そうだな」
とカラスを井口が出した。
「義郎君。
あのカラスを、君の力で捕まえて」
と誠はささやく。
ん、と義郎が力を使うと…。
「あれ、カラスが遅くなったな…」
おお、とみんなが義郎に注目する。
「早く出来るか?」
勇気のリクエストに、
カラスは弾丸のように飛び出した。
「早くしたり遅くする力って、聞いたこと無いな」
高屋も驚く。
「おそらく巨大ロボットの駆動力、って感じじゃないですか」
誠は語ってから、これからの自分の事を思い、また青ざめた。