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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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79水の力とユズの死

誠の本質的な力は、どうやら水の力、らしい。


透過は、雨が土に染み込むように地下に物を落とす力。


影の手は、どうも空気中の水分を辿る力のようだ。


飛行は、雲が空に浮かぶのと同質であると言う。


水の力を深めれば、もっと違う力も使えるかもしれない、らしい。


神様の言うことなのだから、それなりの信憑性はあるのだろうが、修行はなかなか苛烈なものらしい。

良いことがあるとしたら、この神様ゴンゲンは、時間を止められる、ということだ。


ゼロ時間の修行なら、嫌だけど、影勝負で負けて無惨な死を晒す事を考えれば、やるべき修行だと誠にも判った。


こうして誠が、ゴンゲンから基礎的な講習と修練法を習っている頃、白井邦一はユズに会いに下北沢へ向かっていた。


あの、出来損ないのようなカフェで、ユズは楽しそうに緑色のクリームソーダを飲んでいた。


「待った?」


軽く尋ねた白井に、ユズは。


「早く来たのよ。

このカフェが気に入ったから」


ユズは古典的なクリームソーダを、気取って飲み、ファッション雑誌を、めくった。


どう見ても素人がリフォームしたような、雑で統一感に欠けた店だが、ユズは引かれるようだ。


問題はユズにホレポレの実の資質があるかどうか、だった。


厳密には、強いホレポレに、だ。


戦いに強い戦闘者は、程度の差こそあれ、強いホレポレの実となる。


だが、全く戦いなど経験していなくとも、例えばゲームチャンピオンとか、スポーツ選手、何らかの捕獲を生業にしている者など、強いホレポレの実になることがある。


料理などでも一流の料理人は優れた実になる可能性があったし、変わった個性を持つものも、実を受ける相手にもよるが変則的な戦いをする戦士になることがある。


戦いは、正攻法だけが全てではない。


罠を丁寧に仕掛け、巧妙にはめていくとか、敵の心を揺さぶって、ほぼ対話で勝利する、など多様な戦い方がある。


スポーツ競技のように審判がいるわけではないから、発想次第でどう汚くも、ズルくも、勝てるわけだ。


セクシー美女が色気で籠絡しても、幼い子供となり背後から心臓を貫いても、勝てば、それは強い戦士なのだ。


ユズの個性は、何者かになるかもしれない可能性を秘めている気がする。


ただし可能性は、あくまでも可能性だ。

ハズレ、も考えられなくはない。


その中でユズも候補に選ぶのか、スルーするかは微妙なところだった。


第一に、あの時白井は危機的な状況にあり、東京じゅうを逃げ回っていた。


そんな中で出会ったユズに何かを感じたのは、特殊な状況がそう見せた錯覚かも知れなかった。


男は、興奮状態にあれば、女がよく見える。


その興奮は、何も性的なものでなくとも、追われる興奮や、沢山の人を襲った興奮など、平常心を失っていれば同じように錯覚する。


白井はユズの隣に座り、コーヒーをオーダーした。


「ふーん、ホー君、コーヒー飲む人なんだ?」


そうか、と白井は思い出した。

逃げ回る中、白井は本名を名乗っていたのだ。

大した個性のない名前だし、仮に白井の身元が割れたとしても、もっと動きやすい誰かの顔を盗めばいい。


無論顔泥棒と言う影あっての事だが、その場さえ逃げ切れば、なんとかなるのだ。


「うん。

わりと好きだよ」


ブラックでコーヒーを飲み、


「その緑、なに味?」


と聞いた。


「判らない」


クスリ、と笑いながらユズ。


こういう感じに、ユズの何か、を感じるのだが、もう少し鮮明に言葉に出来ないと戦士の資質、とは言えない感じだ、と白井は思う。


はぐらかし、別の、自分のフィールドに相手を自然に嵌め込んでいく、という技術は、戦闘であれば、かなり高等なテクニックであり、ましてルール無用の影の戦いなら、それだけでかなり勝てる、とは言えるだろう。


影の戦いは、言わば騙し合いであり、正面から力をぶつけ合う、と言うものではない。


無論、駆け引きなど必要としない能力者も存在しているが、それはピラミッドの頂点の、ほんの数人であり、しかもスカイウォーカーが誠に敗れ、無惨な死体と化し、ホレポレの実になったように、相性やタイミングで戦いは必ずしも不変ではない。


白井は、うっとりと緑の液体の泡を眺めるユズを見ていたが。


「ホー君。

あたしを殺すの?」


ギクリ、と白井は肩を揺らした。


「な、なに急に?

僕たち、殺し合うほど親しくないよね?」


と誤魔化す。


「でも、ホー君、そういう目をしてるよ」


この子は…。


ファッション雑誌に目を落としながら、こういう話をする少女だから、白井は無視が出来ないのだ。


学校にいる、他の何百の子供と、ユズは違っていた。


違うものを装おうと、浅はかな芸能人がおどけるのとは性質が全く違う。


ユズは世界を見る目から、他の女の子とは違っているのだ。


白井は、あえて薄く笑い。


「それじゃあ、僕が一週間前に会って、今日二度目にあったばかりのユズを殺すとして、動機はなんなの?」


ユズは、長い付け睫毛の顔を斜めにして、白井を見た。


「体じゃないね。

ホー君は、男子でも平気で殺すはずよ。

盗みでもないな。

お金のかかった服着てるもの」


少し外しているはずだったが、ユズにはブランドを見抜かれていた。


まあ、それはファッションに目ざとい女の子なら判らないではない。


「じゃあ、僕が快楽殺人者やサイコパス、って訳かい?」


白井は、余裕で笑った。


「うーん、そういうのとは違うな…」


とユズはクリームソーダをストローでかき混ぜて、透明な緑を、濁ったパステルカラーにする。


「テロリスト。

うん、そうよ、大きな目的があって人を殺す人の目なんだわ、ホー君の目は!」


その瞬間、ユズの死は確実なものになった。



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