表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
76/153

76捕獲

白井邦一がユズに会おうと下北沢へ向かっている頃、誠は新聞部と共に伊豆に向かうバスに揺られていた。


まータクシーは無いとは思ったけど…。


新聞部は、大真面目に特大の捕虫網をいくつも用意し、捕獲したペナンガランを入れるためにクーラーボックスまで用意していた。


クーラーボックスもかなり大きな魚の入るものだ。

一メートルクラスのものも入るのではないか?


また、餌は生肉だと考えているらしく、クーラーボックスに入れれば良いのに常温で大量の肉を運んでいた。


それと無く聞くと、


「相手は吸血妖怪として有名だ。

だから、強い臭いを出させるようにするんだ!」


三年の、部長だという、身長や体格は誠とそう変わらないメガネの少年が熱弁をふるった。


問題はどうやってこの人たちを守るかだな…。


誠は考えている。


新聞部、今回の捕獲作戦がどこまで本気なのかはわからないが、大人数なのである。

誠を入れると七人の男女がかかわっていた。


影は一般人には見えないのだが、しかし誠の能力、透過や飛行はさすがに人前では行えない。

まして相手は、新聞部とは言うが実質オカルト部のようなものだ。


判らないが、多分誠が微かにも能力を使う素振りが感じられれば、無限の好奇心で影の存在に接近を試みるだろう。


山沿いをうねるように走っていた路線バスは、やがて前回ペナンガランに追われて必死に逃げたと言う登山道に到着した。


誠は聞いたようなこともない山だが、たいていの山には登山道がある。

別に観光登山をしない山でも、居住地と山の距離の近い日本では、全く山の手入れをしない、という訳にはいかないのだ。


とはいえ、伊豆のこの山には、たまに登山者が入っているらしく、山道も一応整備されていた。


だが山道は草がしげり、倒木や落石もゴロゴロある、かなり危なっかしい道だ。

姉貴分のヨシエは静香に、


「彼氏なんて連れてきて、さすがに今の子は違うわね」


一つ上だけのはずだが…。


これが新聞部なのか、というほど巨体でマッチョな大杉は、カメラ担当で、何度かコンクールでも入賞しているらしい。

また、一番小柄で、最初は誠は男の子かと思った春名はビデオカメラを担当している。


もう一人の一年生大西はライト担当で、今のところ大量の荷物の運搬係のようだ。


ペナンガランがいるのは、誠も見ているので確実なのだが、その存在は今のところ不明だ。

一番すっきりするのは東南アジア系マフィアの白井たちが、何らかの目的で日本に持ち込んだ、という考えだが、特にペナンガランと学生連合が連携をとっているところを誠は見ていない。


なにか、新種の野生動物なのか、というほど動物臭い行動パターンで人を襲うし、だがその割にはまだ、どんなマスコミもペナンガランについては何も語っていなかった。


まー大体が、飛び方も独特だし、誠もその姿が妖怪のペナンガランに似ている、という以上の事は何も言えないのだ。

吉岡にも判らないようだった。


ただし、水の化け物は絶対に生物ではない。


学生連合、ペナンガラン、水の化け物の間にどんな関係があるのか、誠はまだはっきりとは知らなかった。


山道をよろよろと七人は登っていく。


空とはいえ巨大クーラーボックスは一人で持つのは難しいし、生肉や捕虫網もあるのだ。

全員が分担して山道を進んでいく。


唯一、大杉だけは記録用スナップを撮るため、大きなカメラケースに何本もレンズは入れていたが、自分の荷物だけで、その頑強な体ゆえか、前に後ろに、巨体で身軽に動き、写真を撮っていた。


誠は、額の汗をぬぐったが…。


キリキリキリキリ…。


いつの間にか、かつて耳にした鳴き声が森に響いていた。


「聞こえるわ!」


ヨシエが不安げに森を見上げた。


なにしろ武器と言えるものは網しかない。

誠がいなければ、まさに死の行軍だった。


「みんな、捕獲するためには、ここで円陣を組むんだ」


ほぼ自分達を餌にするような作戦を部長は提案した。


バイクを追いかける速度で飛ぶ怪物だ。

網で捕えられる訳も無い。

なんとか新聞部に気取られずに、誠が倒すしかなかった。


キリキリキリキリ…、と物悲しい鳴き声は、森にこだまするのか、または複数集まっているのか、誠にも判らない。


と、キャア! と少女の悲鳴が響いた。

が、声の主は一年の大西だった。


大西の頭をかすめて、ペナンガランは一瞬で森の奥に飛び去った。


昼なお暗い山道で、バイク並みの速度で飛ぶ怪物を捕獲するのは、誠でも難しかった。


誠は、貴樹以外の霊を放って、ペナンガランを探すことにした。


「大西!

フラッシュを用意しろ!」


カメラマンの大杉が指示をするが、大西はへたりこんで立ち上がらない。


誠は颯太たちの連携プレーで一匹のペナンガランをなんとか無限の牢獄に閉じ込めた。


「部長。

網だけじゃ、とても無理ですよ。

怪我人が出る前に撤退しましょう」


誠がいうと、案外あっさり部長は退却を決意した。


立ち上がれない大西を誠が背負い、全員は山を降りた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ