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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
7/153

7強奪

「確かに人の顔だわ…」


吉岡医師も困惑する。


レントゲンで撮っても間違いなく人の頭骸骨だし、首から下がっているのは内蔵…、心臓や肺、胃袋に違いなかった。


だが、耳は翼のように巨大になっており、中にはコウモリめいた骨まで入っている。


まるで生き物のジョークのような存在だ。


それが解剖台の上で神妙に横たわっているのは、不気味を通り越して滑稽でさえあった。


やりすぎのホラー映画のようなものだ。


だが、これが現実であるだけに戸惑いを隠せない吉岡医師だった。


「影能力で、こんな風に出来るんでしょうか?」


誠は隣で、極めて真面目に訊いている。


「まあ、団子虫を運搬用に巨大化させる影もあったのだから、なんでもあるんでしょうけど…」


困惑しながら。


「耳は、人間ではない生き物なような骨があるでしょ。

見たところ無理に手術で付けた、って感じはないし…。

影にしても、また細いところを攻めてきたものね」


「細いところ?」


誠は、極めて真面目な性格なので、判るまで聞かないと気が済まない。


「妖怪の一種類なんでしょう、これって?」


「はい。

有名なマンガにも出てくるようですが、民俗学的には実在する、というか妖怪が実在する訳ではないにしてもカッパやろくろ首のように、マレーシアでは誰でも知ってる妖怪のようです」


大真面目に調べたらしい。

と、言っても目の前に死体があるのだから調べる理由も判るが…。


「細いところと言うのは、例えば日本人でカッパを作る影繰りなんて見た事はない、から珍しい、という意味よ」


確かに…。


「例えば、あらゆる妖怪を作れる、とかになりそうですよね」


誠は、真面目に考え込んだ。






「あの、誠くん?」


不意に誠は、真子に話しかけられた。


誠は自室に帰ってきている。

入浴は誠が済ませ、その後、真子が表面に出てお肌の手入れをしていた。


「え、どうしたの?」


誠は、心の中に沈んで、ペナンガランの事を考えていた。

意外と、何日も真子に体を明け渡すうちに、完全に孤独になれるので、たまに心の中に沈むのも悪くない、と誠は思うようになっていた。


颯太は影の体を勝手に出してゲームをしており、また田辺は趣味だというミステリー本を、別の影の体を出して読んでいた。


「あの、この中もお手入れをしたいのですけど、できればここは誠くんがしてくれないかしら」


ここ、とはブリーフだった。

誠は入浴後、ブリーフ一枚で真子に体を明け渡したのだ。

さすがに白ではないが、誠はパンツにこだわりはなく、今まではブリーフもトランクスも時と場合で使い分けていた。


体育の時はブリーフの方がいい。

トランクスだと、ハーパンのとき、隙間から見えそうな気がして落ち着かない。


足までのズボンの時はトランクス、動きやすいから、と誠は生真面目に使い分けていた。


今は、真子が手入れをするためにブリーフ姿だ。

トランクスで、ポロリ、と出てしまうと、誠が恥ずかしい。


「え、そんなところまでお手入れするの?」


「もちろんですよ、水着の時に困ります」


「いや、僕、ビキニなんて履かないし…」


女性はビキニ水着なら、男子では考えられないほど細いものを身につける。

だが、誠は真子が恥ずかしがる前から、太股も大部分隠れるようなスパッツタイプの水着を愛用していた。


「いいですか、誠くん。

男子でも、結構ずれたりして、見えるもんなんですよ!」


そんなことはない気がするが、真子は譲らない。

誠は渋々、自分で肌の保湿をした。


パンツの中の部分に、化粧水をつけ、仕上げに乳液を塗る。

かなり異色な感触に、おざなりにしていたら、真子に指示されてしまった。

普段自分では見えないところまで、きちんと塗れ、と怒られる。


「レディさんって、こんなことまでしてるのかな?」


誠はぼやいた。


「してます。

私、見ましたから」


真子って、わりと男子の裸、見るよな…。


と誠は困惑した。

現に今も、色々指図されている。

まだ、大人の体ではないので、平気らしい。


「私、年子の弟もいましたし、誠くんは小柄だから、あまり変わらないですよ」


それはそれで、ディスられている気がするが…。


颯太や田辺は、今や極めてデリケートな男子の娯楽にまで口を出している。


ただし、誠はそれまで、非常に初歩的な物にしか手を出してなかったので、二人は誠を、かなりリアルな世界にまで導き込んでいた。


ここには、さすがに真子に入られたくなかったが、確実に見ていない、とは言いきれない。

見てないにしても…。


興奮や感覚まで遮断できるものだろうか…?

誠にしか判らない悩みだった。





薄暗い森の中だ。


中性的な風貌の男性が、明かりも点けずに森を歩いている。


道も無いような、深い山の中だ。

まだ完全な闇ではないが、足元など、とても見えない。


男性は、成年にも少年にも見える。


美しいのだろうが、どこか、整いすぎているようにも感じる。

人形的な無生物感を、男性は漂わせていた。


やがて、男性は森の奥、まだ細い木の前に立った。


「うん、新しい種も、順調に育っている」


そこは、植林でもしたように、小さな木が何十本も植えられた場所だ。


その先に、穴が幾つか、空いていた。


「さぁて、新しい種を取りに行かないとね」


その夜、都内某所に保管されていた、スモーク、赤い服の女、ゾンビマスター、スカイウォーカーらの死体が、強奪された。

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