影繰りの集団
前の三人に足止めされれば、奥の七人、その奥の二人の餌食になるだろう。
「誠、影の体を全部出せよ」
颯太が囁く。
人数的には敵より多い。
ただし、影の体は影能力が使えるわけでは無いが…。
影が使えるのは、真子と大工だった大家だけだ。
(どんな影繰りだか判らない?)
誠はミホに聞いてみたが、そこまでは不明のようだ。
12人の敵の正面にいたトランプの男が、不意に一枚のトランプを投げた。
投げた、というより撃った、というに相応しい速度だ。
以前の誠では避けられなかったかもしれないが、今の誠は18人の魂にサポートされていた。
首を傾けるだけで、カードを避ける。
(誠、回転して後ろから襲ってくるぞ)
颯太は言うが、誠は、
「大丈夫。
影に飲み込んで、土の中に落とす…」
今まで、誠の透過と影の手は別の能力だったが、日影さんの動きを真似、影の中に自分の体を入れてから、
誠の影には、もう一つ、何かを飲み込み、影により繫がった別の場所に動かす、という力が生まれていた。
トランプの男は、自分のトランプが消えると、微かに眉を動かしたが、所詮は12体1、と言うことか薄く笑った。
その笑顔が消えないうちに右側の両手をポケットに入れた男が、素早く誠に接近すると、スピードを乗せたままキックを放った。
誠は片手でガードするが、男はもう背後に下がっている。
だが、蹴りのパワーだけは腕のガードをすり抜けて、誠の側頭部に突き刺さった。
誠はしかし、ミホが、
(力だけを飛ばす技のようです)
と知らせてくれていたので、透過で難を逃れた。
だが、皮手袋の三人目は、既に動いていた。
(誠! 足だ!)
裕次の声がしたのと同時に、誠は足を掴まれた。
皮手袋の手が、誠の足を掴んでいた。
五メートル離れた地点で、皮手袋の男は素早く手を動かしている。
誠の体中に、皮手袋が現れ、誠を掴んでいた。
トランプの男と手をズボンに入れた男は、即座に誠へ攻撃を始めた。
(おい、誠、透過しろよ!)
颯太は言うが、誠は唸る。
「動けない…」
革の手には、ユリの虫に似た力があるらしい。
(しゃーねーな!)
影の手が無数に表れ、敵の攻撃を防いでいく。
だが、これは本質的な解決はしていない。
掴まれた無数の手から、誠は逃れられていないからだ。
まだ、後ろの男たちは静観している様子だ。
大抵は前の三人で勝てるからだろう。
「仕方ないな…」
誠は己の影の中に入り、革手袋の男の側面に出た。
影の手を使い、革手袋の男の心臓から脳に向かう血管を指で塞いだ。
一瞬で革手袋の男は昏倒し、影が消える。
颯太と裕次が飛び出し、トランプ男と手をズボンのポケットに入れた男を瞬殺する。
後ろに三列。
四、三、ニ人と並んだ男たちは、不意に瞬間移動して、無敵と思われた三人を一瞬で倒した誠に愕然とした。
四人の一番端の、小柄な男は、誠より5センチほど背が高いぐらいで、体もスリムだった。
周りが驚愕して動きを止めるなか、男は滑るように前進し、誠に連続パンチを打ち込む。
ボクシング系のパンチだったが、それだけでは総合ともムエタイとも、本格的なボクシング選手とも判らない。
誠は最小限の動きでパンチを避けながら、相手の影能力を推察しようとするが、男は鋭いパンチを連打するだけだ。
パンチを受けたときに発動するような能力なのかも知れないが、それなら、何故二列目にいたのだろう?
誠は、タイミングを見計らってカウンターパンチを撃ち込んだ。
瞬間、男の目が輝いた。
反撃されたときに、多分発動する影だ!
誠は直感した。
が、既にパンチは始動している。
今から止めることなど不可能だった。
と…。
偽警官がボクシング男に殴りかかった。
偽警官は…。
パン!
と爆発する。
「あ、警官さん!」
どうも誠を守ったらしい。
一瞬、驚いた誠だが、破裂したのは影の体で、幽霊である偽警官は無傷だった。
「危ないぞ、注意しろよ」
助かったが、偽警官の身を呈しての保護は、どこか生暖かかった。
偽警官が爆発した直後、誠のパンチがボクシング男の顎をとらえると、ボクシング男はあっけなく倒れた。
と、奥のメガネの男は、倒れたボクシング男になにかを注入するような仕草をした。
ヒーリング担当だろうか?
その二人の前に、中段の残り二人が飛び出してきた。
一人の能力はすぐに判った。
独特の唸るような羽音と共に、影のスズメバチが大量に現れたからだ。
毒を持っているのかは判らないが、かなりの脅威だ。
誠はともかく、虫は全般、大嫌いな上、蜂など悪夢でしかない。
もう一人の男は、ヒーリングしている男の前に立ったが、特に何をするでもなかった。
が、同時に動いたこと、前列の三人がコンビプレーだったことを考えると、蜂の攻撃をサポートするか、逆にサポートされるか、だろう事は誠も判った。