61銀座
竜吉は、無論、渡辺にも連絡しているがバイト中、と断られた。
「まー確かに副業も許可してるがさ」
帰ったとたん、呼び戻された永田がぼやくが、
「就業規約に明記されています」
竜吉は平然と流す。
ザリガニ人間が消え去った誠は、パニックが加速している五反田に向かった。
その頃、小百合は生き返ったトカゲ少年と向き合っていた。
背後で中居はトンボ人間に油汗を流す。
小百合の髪が1本、中居に触れると、糸電話のように小百合の声が中居に届いた。
「敵を交換した方が良いべ?」
確かに、近接タイプの中居では相手の攻撃を避ける以上の事は出来そうにない。
「そうするか」
言うなり、クルンと背中合わせに、中居と小百合は回った。
「さーて、トカゲ君。
いくらでも分身してくれて構わないぜ」
獰猛に中居は笑う。
一方、1マイルの速度で空を飛ぶトンボ人間に小百合は髪を飛ばした。
「ち、そんなもの!」
トンボ人間は避けるが、小百合の髪は1本ではなかった。
斜めになって避けた先に二本目の髪の毛があり、瞬時にトンボ人間に巻き付いてきた。
「くそっ!」
トンボ人間はわめくが、動きが鈍ったトンボ人間の体の各所に髪の毛がまとわり、クモの巣のように体に巻き付く。
「ふざけやがって!」
トンボ人間は、影のオーラを貫通する甲虫弾を小百合に撃ち込んだ。
が、小百合の髪の毛は甲虫を包み込み、そのままトンボ人間に向かって延びていく。
「お、おい…、何をしている?」
小百合は薄く笑った。
「聞くまでも無いべ。
人に攻撃するものは、また自らも攻撃される。
当たり前の事よ」
小百合は美術教師に騙されて、裸婦のモデルとなり、そのまま性的な虐待を受け、反撃した結果、学校から退学になった。
それ以来、力で勝る、と思って己の好きにしようとする男を見ると、腹の底で煮えくり返るものがあった。
「一度、自分も虫に食べられてみることよ」
トンボ人間は、数匹の甲虫に肉を食われて、悲鳴を上げた。
一方の中居は、トカゲ少年の分身を次々に焼き殺し、トカゲ少年はビルの壁面に逃げた。
「ふん、遠距離なら俺には何も出来ないと思ってるな」
言った中居は、ジャケットをめくり、裏生地を現した。
そこには、様々な銃弾が納められていた。
ライフル弾を選んだ中居は、親指とその他の指で銃弾を包んだ。
「点火…」
中居の青い炎が1本の筋になり、トカゲ少年の後頭部に突き刺さった。
トカゲ少年は、頭部の中身をビルの壁面にぶちまけ、道路に落下した。
ユリコは、ジオラマの岩石にぶつかった。
チラノのパワーは凄いが、しかし足は砕いてやった。
背中を岩に打ち付けていたが、岩は本当の岩石というよりは、人工物のようで、少しクッション的にユリコの衝撃を緩衝した。
「足を砕いた、と思ってるかい?
だけど、君が戦っているのは、僕の作ったプラモデルなんだぜ」
砕けた筈の足が持ち上がり、ペタペタと破片が集まり、やがて足に元通りに戻った。
傷一つなかった。
おいおい。
そんじゃあ、どうやったら殺せるって言うんだよ…。
思うが、おそらくそれは今までの影繰りとの戦いで、ユリコにもわかった。
なんとかジオラマの外に出て、あのガキを倒すしかない。
と、言っても、あのジオラマは地面と岩とチラノしかいなかったが、今ユリコが見ているのは深いジャングルのようだ。
おそらく、ジャングルに入れば出られる、という程甘くはないだろう。
逆に、どんな罠が仕掛けられているか予測できない。
だからチラノを倒すのが、面倒なようだが一番の近道だと、ユリコは思う。
しかし、相手はプラモデルのチラノであり、外の世界に持ち主がいて、すぐに直してしまう。
簡単に直せないほど粉々にしてやるか…?
だが影能力なら、プラモを直す能力な以上、どう粉々にしたところで、それだけでは再生は防げまい…。
部品の一部でもこの世から消え去らせればな…。
だが、ユリコの影能力は超人的なパワーであり、粉々には出来るが、焼いたりテレポートさせたりして、この空間から物を消すことは出来ない。
俺に出来る事で言ったら、粉々にスリ潰す、ぐらいか。
だが、石も本当の石ではなく、地面も土ではない世界で、どうチラノをスリ潰せばいいのか?
ユリコが悩んでいるうちに、チラノは雄叫びを上げ、ユリコに襲いかかってきた。
ちっ、舌打ちし、ユリコは横に逃げた。
ユリコを丸飲みできそうな巨大な口は避けられたが、またも尻尾でユリコを打とうとしてくる。
「何度もやられるかよ!」
ユリコは、太い尻尾を棒で殴った。
バリンと尻尾が砕けた。
とにかく、細かく砕くか!
ユリコは、破片を棒と足を使って、可能な限り、細かく砕いた。
「おい!
人の作品に何をするんだ!」
天からガキの声が聞こえたが知ったことではない。
尻尾を失い、バランスを崩したチラノ本体に向かって、ユリコは棍棒を振り下ろした!