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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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59井の頭、五反田

さすがに誠にも、それがクラスメートの滝田の成れの果て、とは判らない。

顔色まで変わりすぎていたし、エビの真っ黒い目だけでも人の印象が全く違うからだ。


水上に上げられた滝田は、誠に向けてザリガニを弾のように口から発射した。


これか…。


誠は瞬時に悟り、ザリガニを透過すると共に、ザリガニ人間の脳血管を切断した。


滝田は即死した。


と、同時に誠は愕然とした。


ザリガニ人間はそのままだったが、魂は誠の隣に並び、今までの事情を訴えたのだ。


「え、もう一人は大川くん?」


最初はユリといざこざのあった二人だが、その後は向こうから悪かったな、と謝られ、今は挨拶程度は交わす間柄だ。

誠にしてみれば、かなりの親密さ、と言えた。


学生連合の薬と怪物化に因果関係があるらしい。


とはいえ、誠は霊と話せる、など誰にも語ってはいない。

そんな事を喋れば、霊の集まりそうな事件は誠担当になり、結果、膨大な霊が集まるのは目に見えていた。


真子は体まで変わるので言い訳も難しく、特例的に話していたが、この状況を全て話すわけにはいかなかった。


が、大川と判って、ザリガニ人間を殺せるか、は微妙だ。


誠は、自分が、冷静なようで極めて爆発したとき感情の抑えが効かない人間なのを、爽太の死で悟っていた。


知人の死など見たくないし、ましてや、自らが殺すなど厳しすぎる。


とはいえ、見逃しても大川が新たな悪事を不可抗力で行うだけになってしまう。

悪いのは学生連合だった。


「誠、大川を殺してくれ」


滝田は言った。


「今の奴は獣と同じなんだ。

助けてやってくれ!」


確かにザリガニ人間のまま生きていることに価値があるのか、誠には判らない。


今、ここにいるのが誠なのだったら、誠はザリガニ人間を殺す義務があった。


大川は、池の縁の穴に隠れようとしていたが、巨大すぎて全ては隠せない。


それに幸也とミホが追跡しているため、完全に誠は捕捉していた。


誠は影の手を伸ばし、大川の脳を破壊した。


滝田の横に大川が現れた。


「俺は七瀬ちゃんを殺しちまった…」


打ちひしがれていた。


ザリガニ人間を池から出し、滝田の体と並べると…。


滝田の死体の前に、一人の少年が立っていた。


「勝手に人のコマを殺すなよな」


感情を込めずに、そう語ると、そのまま煙のようになり、風に流れた。


「あっ!」


誠の手元にあった大川の死体、そして滝田の死体が少年の消失と共に消えていた。






山手通りと第二京浜の合流地点に当たる五反田は、山手、京浜東北線と東急池上線、臨海都市線の合流地でもあり、大型店舗から個人商店まで網の目のように延びる路地に密集した繁華街だった。


芋之助たちが、王商店の事件に巻き込まれたのは午後三時過ぎだったが、夕暮れも闇に呑まれる時刻となっても、芋之助たちはこの町で戦っていた。


王商店が、店の規模以上に周辺商店に食材を下ろしていたものか、怪物化は、町中に広がっていた。


考えてみれば、椎茸、タケノコなどどんな料理にも使う食材は多かったし、王商店では多量の調味料の類いを、また香辛料の類いを扱っていた。


元々学生連合が東京じゅうの学生を巻き込んでいるフットワークを考えれば、五反田の多くの店で被害が出るのは当たり前だったかもしれない。


芋之助は浅草線とJR線の間に立ち、化物化した人間たちを切って切って切りまくっていた。


怪物に追われてくる人々は数時間たっても減る兆しは無い。


そろそろ学校帰り、会社帰りの人々も避難民に加わっていた。


芋之助の駅を挟んで反対側のJR中央口にはハマユが守り、怪物を凍らせていく。


また東急側に猫が回り、怪物を引き裂き回っていた。


「そろそろ疲れたんですけどぅ!」


猫は近距離も遠距離も戦え、一度に多くの敵も切り裂ける強力な影繰りだったが、まだ中学生のため、スタミナには問題があった。


「自衛隊も出動します。

もう少し頑張ってください」


キスマークが首筋に付いているのに気がつかない竜吉が、真面目くさって励ます。


「内調でも装甲車ぐらい買ったら!」


猫は文句を言うが、そもそも影繰りには装甲車は通用しない。

今回は、全くの予想外の敵だった。


激しい戦いのさなか、白井は怪物の遺体からポレホレの実を作っていた。


とはいえ、白井もいつまでも都内を駆け巡ってはいられない。


ツカサとして撮影所へ行かなければならないのだ。


元々ツカサが芸能界に入ったのは偶然だった。


本来はポレホレの実を作り、学生連合の薬を配れば良い筈だったのだが、日本人旅行者の顔を盗んだところ、彼は売れない芸能人だったのだ。


組織系の事務所に移り、ツカサは、第三の力、才能を盗む能力により、移籍前とは比べ物にならない演技力や歌唱力を身に付け、あっという間にアイドルになった。


ただし才能を盗むにはポレホレの実を相手に植え付け、それから抜き取って、ツカサ自ら食べなければならない。


なかなか簡単には使えない力だった。


とまれ五反田でツカサは数十の実を作り、急ぎ煙となって撮影所へ飛んだ。


顔泥棒が使う顔は、意図的にふけさせない限り歳を取らない。


良い歳で子役も出来るツカサの秘密は、十年間、全く歳を取っていないことにあった。


とはいえ天才的な演技力もあり、実年齢は五十を過ぎていたので、見た目は顔を盗まれたときのまま少年でも、演技で小柄な大人には充分なれる。


が、シーツァの花が咲く頃には引退なり、長期休養なりはするつもりでいた。


まさかドラマ撮影の真っ最中に急に花が咲くとは思わなかったのだ。


お陰でツカサは、不眠不休で動き回っていた。


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