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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
58/153

58発見

多眼多手の怪物の攻撃を、カブトは周遊する火球でやすやすと防いでいる。

激しい多手の攻撃に火球は次々爆発するが、カブトの口からは消費を上回るほど、火球が吐き出されていた。


今や火球はカブトの全身を二重螺旋に取り巻いており、怪物の攻撃を全て体から20センチのところで防いでいる。


怪物は、業を煮やしたものか、踏み込みを強くし、より力を入れてカブトに撃ち込むが、カブトはさりげなく剣を避けると、そのまま踏み込んだ怪物の懐に滑るように入り込んだ。


周回していた火球が、怪物に連続してぶつかり、複合的な連鎖爆発を起こした。


巨大な他手多眼の怪物が、学校の二階にぶつかり、ドスンと落ちた。


「ふん、基本がなってないな」


カブトは勝ち誇る。


だが…。


「なんか音がするっス!」


川上が驚いたように言った。

何もない場所から、突然、生命反応を示す音がし始めたのだ。


怪物の横に、白井が現れ、すばやく、黒焦げの怪物の腹部にポレホレの実を埋め込んだ。


怪物の目が、ギン、と一気に見開かれた。


「まずいぞ、カブト君!

その怪物、生き返った!」


青山も叫んでいた。




誰もいない井の頭公園に、誠と美鳥は着陸した。


一見、池は鏡のように静まっていて、まだ赤さの残る空をフォトジェニックに輝かせていた。


美鳥は、蝶や羽虫、それに水に入れるゲンゴロウなどを影で作ると、周辺調査を始めた。


「困ったものね。

これだけの池と森があると、生命反応が多すぎて敵が発見できないわ」


しかも、にわかには信じられないが、人々を襲ったのは、その池の中の生物たちだという。


だが誠たちは来る途中で粘菌の怪物と出会っていたので、ザリガニや魚が人を食うのは判っていた。

ただし、公園は人っこ一人いない無人状態で、殺戮があったとは信じられない。


「血の匂いは漂っているわ。

確かに、誰かが人を殺したのよ…」


美鳥は、鋭い目で周囲を見渡した。


大きな池と、周りを囲む木立。


ただし、ウイークエンドの夕方なのに、ここに誰もいないのは明かに異常だ。

賑やかに人々が行き交う、活気ある都会の公園なのだ。


ボートが、池に無人のまま、放置されている。

五艘、六艘…、オールが流れてしまったものもある。


美鳥のゲンゴロウは羽根でボート近くまで飛来し、ポチャン、と池に潜った。


人の気配は、無い。


その井の頭池の水底で、元滝田と大川だったものが、身を潜めていた。

それは、人間がザリガニの殻をまとったような不気味な姿だった。

生臭いプレートアーマー、と言えなくもない。


彼らは、まだ影繰りの強さは知らなかったが、誰かが自分たちをもっと強くしてくれることを知っていた。


「敵がいないのは、どこかに移動したにせよ、死体がないのは謎ですね?

食べたにせよ、何の残骸も残らないとは考えにくい。

粘菌の場合、残骸だらけだった。

警察も来ていませんね?」


吉祥寺駅周辺は暴動に近い騒ぎも多数起こっていて、警察は公園まで到達できていなかった。


通常であれば周辺警察から応援も来るのだろうが、今、東京では無数の怪事件が多発しており、完全に機能不全に陥っていた。


しかも井の頭公園から人々が逃げたように、東京じゅうで避難する人々がゴッタ返していて、そうした人と人のトラブルも多発していた。


吉祥寺から青梅街道を進めば新宿だが、ここではトー横ギャングが赤竜会と血みどろの乱闘を繰り広げている。


また環八を北上すれば光が丘だが、ここは小学生が必死の戦いを繰り広げていた。

環八を南に行った自由が丘でも怪物は暴れており、また亀戸、東陽町、有楽町も騒乱が広まっている。


そして渋谷も騒ぎは刻々と深刻化しており、それらの元凶ともいえる五反田では芋之助も猫もハマユも、苦戦を強いられていた。


その中で、騒乱の中心ともいえた井の頭公園は、不気味に静まっていた。


(誠さん。

池の底になにかがいます…)


中学生カップルの幸也とミホは常に一緒に行動していたが、今はどうやら池に潜っていたようだ。


彼らの見たものは、誠も見られる。


ただ数が多いので、同時に、とは行かない。

繋がれば共有できる、程度のものだ。


なんだ…?


巨大な石にも見えるが、それにしては生々しく赤い。

アメリカザリガニの色な事は、生物嫌いな誠も、小学生時代、見せられて知っていた。


だが、これ程巨大なザリガニは誠は知らない。

あるいは生物嫌いな誠の無知かもしれないが、調査は必要だろう。


誠は舞い上がると、ザリガニの上空まで飛び、影の手でザリガニを持ち上げた。


一匹は横に逃げたが、一匹は水上に持ち上げた。


無数の節足を持った下半身が、ガサガサ音を立ててもがいていた。


手のハサミは、ほとんど小型のクレーンのようだ。


頭は、ザリガニであり、尖った頭頂部には、1メートルを越える触覚がせわしなく動いている。


だが…。


まるでザリガニ型のカブトをかぶったかのように、触覚の下には、異様に人間らしい顔面があった。


目は、ザリガニの目のように真っ黒で、口は小さな足のような幾つかの顎が蠢いていたが、それでも…。


輪郭の人間くさい面持ちは、ハッキリと確認できた。


ザリガニ人間?


得たいの知れない生々しい奇怪さがあった。

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