表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
56/153

56新しい力

中居は唸って、一度は倒したはずのトンボ男を睨んでいる。


が、近接戦闘に特化した中居は、空飛ぶ敵に何も出来ない。


そもそも、影繰りで本当に空を飛ぶ能力を持っているのは、誠を始め数名に過ぎない。

元来は、空に影など出来ないものなのだ。


が、影繰りではない化け物となると…。


今までの影繰りの戦い方では太刀打ち出来ない。


一方、小百合はトカゲ少年から目を放してはいたが、髪はまだ、絡ませていたため、再び動き出した瞬間に、振り向いた。


「あ、テメェ、見んじゃねーよ!」


ジャージに着替え中だった少年は裸を見られて甲高い声で叫んだ。


小学生か…?


うんざり小百合は思ったが、影繰りとしては新米な小百合は、目を背けた。


誠の裸なら、真子に体を乗っ取らせて見ているし、それより幼いような少年だ。


「ケケケ、バーカめ!」


「なにっ!」


小百合の髪は少年の体に付いている。


が、あらぬ方向体からジャージ姿の少年が殴りかかってきた。


腕でガードするが、小百合のカードを腕ごと弾くほどのパワーがあった。


「ハハハ!

トカゲは、分身するもんなんだよ!」


いや、尻尾が切れるぐらいだろう…、と小百合は思うが、どうも少年の能力は分身のようだ。


しかも、小柄な少年とは思えぬパワーを持っている。


確か、もう一人、大人がいた。


と、思い、見回すが、あの男は姿を消していた。


どうも奴の力は、死にかけた敵に、再生と新たな能力を与えることのようだ。


小百合は、二人と同時に戦ったが、やがて三人目が唐突に小百合の背後を襲った。






小百合の毛が一本、ユリコの指に絡み付き、逃げたガキの居場所を教えた。


どうやらマリオンの中に逃げ込んだらしい。


追ってユリコも飛び込むが、いつも人で賑わっているはずのマリオンに、誰もいない。


厳密には、誰もいないのではなく、人はいたが、全て倒れていた。


毒ガスか?


思うが、常人よりはるかに敏感なユリコの嗅覚にも、違和感ある臭いは感じられない。


無人のマリオンの奥に、学生服の少年が、薄笑いを浮かべてユリコを待ち構えていた。


「さすがに体力馬鹿なだけあって、早いな」


鼻で笑いながら、少年は語る。


「てめぇ、ここの人たちをどうしたんだ?」


フフン、と笑い少年は、ポケットには、到底入らなそうな板と、その上のプラモデルを自慢げにユリコに見せた。


それが趣味なのか、かなり凝った情景をプラモデルで作ったもの、ジオラマが少年の手に乗っていた。


きれいに彩色された兵士たちがガスマスクをつけ、ボンベのなにかをばらまいている。


半透明の綿のようなもので、噴霧されている何かも見える。


「千九百十五年、ドイツ軍は世界初の毒ガスを戦場で使用した。

その情景のジオラマだ!」


得意気に少年は語った。


「テメェ、毒ガスを使ったのか!」


「まあ、待て。

僕はこの人たちの魂をジオラマの中に招く能力を持ってるんだ。

だから、近づいて調べてみれば判るが、彼らは皆、寝ているだけだよ」


ユリコはもよりの老紳士に近づくが、安らかな寝息を立てているようだった。


「で、そのオモチャであたしと戦うのか?」


ニヤリ、と少年は笑い、もう片方のポケットから、新たなジオラマを取り出した。


巨大なチラノザウルスが車を踏み潰している、映画のシーンのような精密なジオラマだ。


「君は、ここに招く!」


言われた瞬間、ユリコは、見上げるような巨大生物と向き合っていた。


ジオラマのチラノだ…。


「おいおいおいおい…」


ユリコは、やや引きつりながらも、薄く笑った。


ジャキン、と棍棒を長く伸ばした。


チラノザウルスは、その金属音に敏感に反応し、ユリコを見た。


映画か何かで、動かないものは識別できない、とか言ってたよな…?


巨大チラノから子供と恐竜博士が脱出する名シーンだ。


チラノは、野太い声で唸りながら、巨大な顔をユリコに近づける。


えーと、目が合ってるんだが…。


脂汗をかきながら動きを止めていたユリコに、頭上から声がかかる。


「ああ。

映画は参考にしないでくれよ。

それはあくまで、僕が作ったチラノだ。

古代生物とは全く違うよ」


言った途端、チラノの顔が消えた。


一瞬でユリコの体を飲み込んだのだ。


ユリコは、持ち前の瞬発力で、前にスライディングし、恐竜の足元に滑り込んだ。


まるで象のような足だが、チラノは、この二本の足だけが移動手段だ。

手は、冗談かと思うほど貧弱だ。


つまり、足さえ潰せば、この怪獣は、無力化出来る。


計算した訳では無かったが、思いの外ラッキーな場所に移動したユリコは、起き上がりながら、渾身の力でチラノの足を砕いた。


ギャア、と叫んで転倒するチラノだが、


「ヘヘン、このユリコさんに、そんな獣なんかで対抗できっかよ!」


勝ち誇った。


が、瞬間、チラノの巨大な尻尾が、ユリコを撥ね飛ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ