55銀座
ツカサが煙と化してテレポートしたのは、内調の護送車の中だった。
中には、巨大な魚、いやイルカにも似た水生哺乳類の死体だった。
「チッ、不二子も死んだか…」
すぐにポレホレの実に作り替えた。
確か一流大学で海の生物を学んでいたはずだった。
人魚のようになりたい、と語っていたが、どうもジュゴンの出来損ないのようになってしまったようだ。
「ほれツカサ、次は東陽町だぞ!」
感慨にふけっていた司をタイランが急かす。
ツカサがテレポートした先では巨大な、ゴリラともオラウータンとも違う霊長類が冷たくなっていた。
警官たちが取り囲んでいたが、既に死んだ猿人に興味は持っていなかった。
すぐに縮め、小玉ねぎのような塊になると、ツカサはすぐに消えた。
後には、猿人、山崎の体内に打ち込まれていた銃弾だけが山のように残った。
ムカデのような体がうねった。
頭は、既にユリコに潰されていた。
「おい、ユリコ!
小百合が餓鬼どもを追って、駅の方に向かっている、俺たちも急ぐぞ!」
ユリコは、おう、と答えて、中居を追って走り出した。
影で見ていたツカサ、いや今は銀座の雑踏なので白井に戻っていたが、は、影繰りたちが去るのを見計らってムカデに近づいた。
「どうやらイサムは死なずに済んだようだな」
銀座の雑踏、とは言ったが、むろん怪物から逃げて、人はいない。
その廃墟のように無人の銀座並木通りの中、頭を割られたムカデに、ポレホレの身を植え付けた。
ハンドボール大の顔が、すぐに人間に戻っていく。
「痛ってー。
凶暴な女だな!」
「どこかの店に入って服を奪って来いよ」
白井は言って、ショーウィンドウのトンボに向かう。
これも、絶命はまだのようだ。
元イケメンの鉄屑はポレホレの実にし、白井は消えた。
小百合は、小柄な少年を捕獲した。
有楽町の雑踏に出る手前で、髪を伸ばして、足を掴んだのだ。
無様に倒れた少年のブレザーの襟首を小百合は掴んだ。
「まず盗んだ品を出すべ!」
と、不意にきつく締めたはずの襟首が緩んだ。
「?」
小百合が二度見した時、グニャリと肉体を失った服の間から、黒銀色のトカゲが飛びだす。
大きさは、尻尾を含めれば1メートルにもなるかもしれない。
小百合もトカゲに怯えるほど都会には住んでいなかったが、その巨大さには息を飲んだ。
思わず襟を放してしまう。
トカゲは、爬虫類独特の素早さで、ビルの壁面にスルスルと登った。
「逃がすか!」
ただの高校生なら、盗品さえ取り返えせば逃がしてもいい。
小百合は警察ではないからだ。
が、奴もトカゲに変身する者なら、影繰りではないとしても逃すわけにはいかなかった。
「小百合!」
ユリコが超人的な速度で走ってきたが、
「もう一人、駅の方に逃げた。
髪の毛をつけてある!」
トカゲに数本の髪の毛を伸ばしながら、小百合が叫んだ。
「わあった!」
ユリコは脱兎のごとく、駅に向かい、やがて中居がやってきた。
小百合は、ベリッと壁から巨大トカゲを剝ぎ落した。
ドスン、と重い音を立てて、巨大トカゲが落ちてきた。
トカゲは逃げようともがくが、もがくほど小百合の髪は締まっていく。
キィ、と最後の域を吐き出し、トカゲは絶命した。
「やれやれ。
困るなぁ内調さん。
せっかく僕の作った勇者の元を、勝手に殺してもらっちゃあ」
白井は、20代の細身のイケメンに変身した。
確かモデルだったと思うが、顔を盗んでから何年も経っていたので、正確には覚えていない。
「てめぇが学生連合の元凶か!」
中居が左手を青い炎に燃やすが、ふと気配に気がついて、背後に飛んだ。
トンボの翅をはやした人間が、あのトンボに変貌して血だらけになったはずの高校生が、にやりと笑って
中居に手を向けた。
と、弾丸のようなものを中居に撃ち込んでいく。
影繰りには弾丸は効かない。
誠ならダメージくらいは受けるかもしれないが、中居はバリバリの近接戦闘のプロフェッショナルなのだ。
が、違和感を感じ、中居は地面に転がって弾を避けた。
「何っ!」
地面にめり込んだのは、甲虫のような生物だった。
「避けたのは正解だぜ。
影のオーラで、それは止められない。
体のどこかに当たれば、そこから皮膚を破って内臓に食らいつく可愛い奴だ!」
トンボ羽根の高校生が笑った。
「まずいべ。
ユリコが一人だべ…」
小百合は他人の心配をしていたが、二人の視線がトンボ人間に釘付けになっていた頃、顔泥棒は、まだ本当に絶命したわけではなかったトカゲに、ポレホレの実を植えているところだった。
トカゲは、すぐに少年に戻り、顔泥棒にジャージを渡されると素早く着替え、ニィ、と笑った。
口には、蛇のように長い舌が現れ、すぐ引っ込んだ。