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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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54歌舞伎町

白井は、というか福地が新宿歌舞伎町の安宿のベッドで我に返ったのは、すっかり夜になった頃だった。


「おい、ツカサ!

起きないか!」


安宿の、向かいのビルに手が届きそうな窓にタイランのカラスが停まり、声をかけたのだ。


福地は全裸で飛び起き、


「うわっ、俺、寝ちまったのか!」


心身ともに若返っているので、つい睡眠も深くなる。


「いいか、シーツァの花が咲き始めた!

今こそお前の集めたポレホレの実が必要なんだ。

とっとと仕事を始めろ!」


「えっ!」


福地はすぐにツカサに変貌し、驚いた。

それは、もう二、三ヶ月後のはずであり、だから顔泥棒は、およそ週一のペースで顔を盗み、また遺体からポレホレの実を作り出していたのだ。


シーツァの花が咲き、薬を飲んだ子供たちが変身を始めたら、そのときにポレホレの実を植え付けなければならない。


でないと、本当の力は発揮されない。


ここ日本では桃太郎の昔話とされている東南アジアの故事では、桃源郷から運ばれたシーツァの木から花が咲いたとき、勇者とその従者の動物化した仲間たちはポレホレの実を植えられ、本当の力を得る。


彼らの軍団は、故事では、神に立ち向かう反逆の使者となり、人々を解放する、のだと言う。


「くそっ、こんな親父のために!」


ツカサは腹を立てるが、しかしポレホレの実は、充分な数が無い。


ツカサは、隣でイビキを立てていた中島の顔を盗むと、同時に命を失った顔の無い遺体を、臨時のポレホレの実にすることにした。


本来は、ポレホレの実になるのは、それなりの猛者でなければならない。


だから、すぐに量産するのは避けていたのだが、もはや花が咲いたのでは、間に合わない。


ツカサは慌てて服を着ると、テレポートを使った。


命を失った元勇者、ならポレホレの実になるにふさわしいので、タイランの誘導の元、急遽、必要な数の実を集める事にした。




新宿には、壁、が作られていた。


新宿通りに出来た巨大な穴がメガシティに再生されるのにしたがって、周囲はスチールの5メートルを越える壁に塞がれ、北の歌舞伎町から新大久保辺りは、数々のギャングが入り乱れたカオスになり、南の高層ビル街は、オフィス地帯化が激しい。


駅の機能は回復しているが、ここも外壁が目隠しをし、メガシティの実態は判らない。


建設業者は、当然のように歌舞伎町側に流れていたので、今は歌舞伎町は、西武新宿も完全に飲み込んで巨大なカオスに成長していた。


ションベン横丁として知られた大ガード南側線路際や大久保通り方面まで、今はほぼ歌舞伎町なのだ。


ここでは、むしろトー横ギャングたちは正義の味方のように機能していたが、その日は、特に白井が消息を断った後から、様相が違い始めていた。


「ちっ、メンドクサイガキどもだ!

リー、構わないから銃を使え!」


中国紅竜会の幹部が部下たちに叫んだ。


すぐに中華製トカレフが部下のスーツの内側やズボンの後ろから取り出される。


今まで、日本国内で、さすがの紅竜会も銃は使わなかったが、今の歌舞伎町には警察権力は入り込めなかった。


日々、現場が変わり、様相が変化する巨大都市に、警察の監視が間に合わないのだ。


幾つかある、本当にヤバい町では、平気で白い粉まで売買されていた。


そこで買い、そこで注射する分には、誰も咎められないのだ。


無論、ラリって町の外に出ようとする能無しは、容赦なく屠殺された。


そこは、日本の他の場所とは、命の値段はまるっきり違っている。


現場で死んだ、と会の息のかかった医師が診断書を書けば、何しろメガシティには、専用の火葬場まで付属していた。


お骨になって歌舞伎町を出てしまえば、薬など後からは調べようがない。


整形かもしれない、ホストでも通るような紅竜会の部下たち、まとめてリーと偽名で呼ばれる、は容赦なく子供に銃を撃ち込んだ。


橘ヤマトは、白井の薬をラップごと飲み込んだ。


と、不意に加速し、映画の如く、銃弾を交わして、ホスト張りの高い鼻に汚れたナイキのスニーカーを叩き込んだ。


リーが、サバの如く光る、銀のスーツを着て、吹き飛んだ。




「おいおい、さすがにチャカはまずいな」


雑居ビルの三階の事務所から、関西系ヤクザが顔を覗かせた。


実のところ、彼らはホヮン和也のトー横ギャングとは表面上、仲良く接していた。

何しろガキの集団なので、時おりジュースでも差し入れいておけば、結構なつく連中だ。


チャイニーズマフィアが銃を持ち出したりした場合、怖いお兄さんとして仲裁に乗り出し、そこそこの稼ぎを保っている。


何しろ、一時、治安は乱れているものの、メガシティが完成すれば、すぐ政府と警察は、今度はこの辺を洗濯にかかるのは判っている。


目を白黒させて争う価値は、今のところは無いかもしれないのだ。


新首相の鳳は、やや頭のネジがぶっ飛んでいるので、あるいはある程度グレーゾーンを残して外国人労働者に居心地よくさせるかもしれない。

少子化を埋め合わせるのは、移民であるのは、日本以外の全ての国の常識であり、その事は鳳も判っていそうな臭いはある。


もし、そうなったとき、本気でシマを取りに行くため、今、ヤクザは人のいい兄さんを演じていた。


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