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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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51福の毒

福は内調の施設に怪魚の死体を渡したが、初音さんの芋は、お預けになった。


駒形橋の先、観光都市浅草の吾妻橋に、何かが川から上ってくる、というのだ。


福はママチャリに乗って浅草に向かったが、吾妻橋では、すでに大が、その何かと戦っていた。


「えっ、あれは!」


福は叫んだ。

吾妻橋の橋げたに水上バスが激突し、斜めになっている。

その、半ば土台に乗り上げた水上バスを足場として、何か黒々としたものが昇って来ていた。


無数に。


群がるように。


それは、遠目にも人間のように見えた。

が、どこかおかしい。


何か水生生物が陸に上がるような、体の重さを引きずるような素振りが見えるのだ。


全体的に、どこか動きの重そうなそれは、福の知っている言葉でいうのなら…。


ゾンビ、のようだった。


逃げる観光客の何割かは駒形方面に走ってくる。

地下鉄に乗るか、もしかすれば浅草橋まで進むつもりかもしれない。

ママチャリは買ったばかりだったので、ガードレール沿いに移してカギをかけ、福は大の元に走った。


大の力は、漁師の力だ。


何トンもの魚の詰まった網を引き揚げ、鍛え上げた筋力が影になっているのだ。


「ギガトンパンチ!」


その超パワーで黒い人間を吹き飛ばし、隅田川に叩き落す。


漁師なので、足は常にしっかり船底を捉えている。


闘うのは、常に二本の手か…。


「ストロングヘッドバット!」


大の頭突きを食らったゾンビが、頭を吹き飛ばされて、倒れた。


頭部である。


逃げる人込みを小柄な体で搔い潜り、福は吾妻橋方面に進んでいく。


と、キャッ、と悲鳴が上がった。


水上バス乗り場が、吾妻橋のたもとに作られている。


そこから、黒い人間が昇ってくるものらしい。


福は大との合流を諦め、そちらに向かった。


そうでないと、大は背中から敵の集団に襲われることになる。


隅田川は、春は花見の名所であり、川沿いに遊歩道が整備されている。


既に葉桜の季節だが、ここはいつでも人々の憩いの場所だ。


そこに黒々とした人間が水中から上がってきて、人を襲い始めている。


水の中にいたため、臭いはそれほどでもないが、接近してみると、これらは全て、腐敗した人間、つまりゾンビのようだった。


「七人岬だ!」


誰かが叫んだ。


七人岬は元々は西国の伝説だったらしいが、千葉でも普通に語られている。


船幽霊とも言い、無数の水死体が、新たな仲間を求めて船を襲う水上ゾンビとも言えるものだ。


水上バス乗り場に走っていくと、女性が、全身真っ黒に腐敗した女性らしい船幽霊に、髪を掴まれて押し倒されていた。


「人を放せ!」


福は、むろん漁も手伝ってはいたが、内調に入ってからは蹴りも習っている。


スニーカーのつま先で、船幽霊の頭を刺すように蹴ると、船幽霊の頭が爆発した。

ミイデラゴミムシの毒は、高熱を伴う爆発であり、福もまた自然界にある毒であれば、何でも使うことができるのだ。


女性を助け起こすと、福は、襲ってくる複数の船幽霊の一体を担ぎ、他の船幽霊に投げつけた。


大ほどではないが、福も腕力は自信を持っている。


が…。


なんにしても船幽霊の数が多いべ!


毒の効く相手に対してなら、少々数が多くても負けない福ではあったが、相手は死人、船幽霊だ。

こいつらと肉弾戦を続けていても、福自身が疲弊するだけだった。


幽霊に通用する毒なんて…。


福は唸るが、基地で吉岡医師に毒のレクチャーを受けていた時、細菌もまた毒である、と教えられたことを思い出した。


腐敗菌。


いくつもの種類がある細菌ではあるが、もしこの細菌を福が操れれば、現に人間を押し倒している、物質、である船幽霊なら、もしかすれば倒せるかもしれない。


やれるのか…?


さすがに細菌など操ったことはなかったので、分らないが、


「プトマイン!」


叫びながら、福はどす黒い煙を吐き出した。


福に殺到していた船幽霊たちが、不意に腐敗し、手が、足が、ぼとり、と落ちていく。

黒い霧に触れた船幽霊たちは、秒単位で腐敗し、やがて骨を残して消滅した。


いけるべ!


福は殺到する船幽霊に腐敗菌をばらまいた。





バタフライがバイクブーツで、アスファルトの地面をスピードスケートのように滑り、サラリーマンの背広を掴んで襲おうとしていたカッパの脇腹に、強烈な正拳突きを打ち込んだ。


拳の先で影のドリルが回転し、それは電動ドリルの比ではない破壊力を生み出す。


良治は四方に連続してナイフを打ち込んでおり、ユリもカッパの動きを止めて、習った首折で河童を仕留める。


錦糸町の駅の河童は、警官の銃で射殺されたものもあり、ほぼ片付いていた。


「だがカッパだろ?

この辺だと、やっぱ墨田川辺りから来たんじゃねーのか?」


バタフライは、カッパの出所を推測していた。


「浅草に船幽霊が出たそうですが、カッパの報告はないですね」


と竜吉。


「亀の神様の近くに川があったよ」


ユリが叫ぶ。


「あー小名木川な。

あれ、掘割だろ?」


良治はユリより前から、近くに住んでいた。


「ちょっとその辺、バイクで流してみるよ」


すぐにバタフライは、メットを被った。

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